呪われた白い子7
「よし、取れたぞ」
ジケは取り外した輪っかをハビシンに見せる。
「こんなもの……知らないよ」
改めて輪っかを確認してもハビシンにはいつ付けたのかどころか、輪っかそのものすら見たことがなかった。
いつの間に体にそんなものつけられたのかと恐怖すら感じている。
「とりあえず、これで治ったの?」
怪しい輪っかは取り除いた。
トシェパは期待したような目をジケに向ける。
「ううん……あんまり変わった感じはしないかな?」
ちょっと苦労して輪っかを外したが、ハビシンの体調に大きな変化は見られない。
悪化もしないが、良くなってもいなかった。
「ええ?」
「そりゃあこれは補助的な呪いだからな。メインじゃない」
もっとハビシンを直接苦しめている呪いがある。
輪っかはハビシンを呪うための補助となる呪いであって、解呪してもあまり好転するものじゃない。
「じゃ、じゃあどうするの?」
「今度はメインの呪いに対抗していこう」
「……何をするの?」
「呪い返しを行う」
「の、呪い返し……?」
何だかおどろおどろしい響きであるなとハビシンは思った。
「みんなが呪いをすることはないと思うけど、呪いをすることがあるなら気をつけてね。呪いは強い力だけど簡単じゃない」
簡単に人を呪えて、簡単に苦しめられるなら今頃世の中は呪いだらけになっていることだろう。
だが呪いは魔法に比べれば圧倒的に知名度のない細々としたものになっている。
「呪いは失敗すると返ってくる」
「返ってくる?」
「そうだ。単純な失敗だけじゃなく、相手に呪いを見抜かれて対処されると呪いは自らに返ってくるんだ」
人を呪うなら自分も呪われるつもりで呪うべし。
そんなことがウダラックの残した説明書に書いてあった。
呪いは失敗した時に単純に何ともないということもあるが、相手にかけようとした呪いが自分に返ってきてしまうことがある。
加えて呪いを見抜いて上手く対処すると、その呪いを相手に返すことも可能なのである。
だから呪いは広まらなかった。
呪おうとして呪われることになるなんて笑えない。
それでも呪いがなくならないのは、呪いが有名ではなくなるほどに逆に効果を呪いを解いたり返したりする方法が一般にはわからなくなって、呪いがより効果的になるからだった。
呪いというものを知らない人が増えるほどに呪いは扱いやすく、効果的に相手を苦しめることができるのだ。
「ともかく呪いは返すことができるんだ」
「ふぅーん、でもただ呪いを解くだけじゃダメなの?」
「別にそれでもいいけど……犯人は知りたいだろ?」
「犯人分かるの?」
「ここまでかけた呪いが一気に返ってくるんだ。かなりの負担が襲ってくるはずだ。いきなり体調を崩した人がいれば、その人が呪いを送っていた人ってことさ」
呪い返しをするのは、ただの意趣返しという理由だけではない。
もう一つの意味が呪い返しにはある。
それは犯人探しの意味である。
呪いを返された相手は大なり小なり呪いの影響を受けることになる。
かけようとした呪いが強ければ強いほど返ってきた呪いも強く、確実に急な変化を見せるはずなのだ。
身の回りにいる誰かが急激に体調を崩せばその人が犯人だということになる。
ごく稀に、呪いを仕事にしている人に依頼することもあるので犯人が分からない場合もあるが、相手にダメージを与えればまた呪われることも防げるので呪い返しは良いことも多い。
ただし単純な解呪ではなく、呪い返しするのも意外と手間はかかる。
今回は近い人がやっているだろうとジケは思っている。
誰が犯人なのか呪い返しで分かれば、事件の真相解明に近づくことができる。
「なるほどね」
「本当は色々必要なんだけど……今回は何と!」
「何と?」
「魔道具で代用します!」
「へぇー」
「……やるか」
リアクション薄いなとジケは思った。
ここにピコがいたら良いリアクションしてくれたのかなと心の隅で考える。
ピコちゃんリアクション上手だからね! という声が聞こえてきそうだ。
ただピコは屋根からの飛び移りで失敗しそうだったから連れてこなかった。
安全第一である。
ジケは荷物の中から木製のカエルのような置物を取り出した。
手のひらの上に乗るぐらいの大きさで、割とリアルな質感で作られていて可愛くない。
「何それ……?」
「呪いカエルさん……」
「…………」
「そんな目で見ないで……」
魔道具に名前をつけたのはジケではない。
冷たい目で見られても、これはすでにいない人のネーミングセンスが悪いのだ。
絶対わざとこんな名前つけたのだなとジケはほんの少しだけ恨みに思う。
ジケもわざわざ魔道具の名前を言わなきゃいいのに馬鹿正直なものである。
呪いの研究もいいけれど、ぜひともネーミングの研究もしてほしかった。
「名前はこんなんで、一回限りの使い捨てだけど、すごいものらしいんだぜ」
なんせ説明書には呪いカエルさんを作るにあたっての苦労とか、必要だった素材を取りに行く大変さが四ページほどびっしり書いてあった。
あれはドラゴンにも負けない敵だった、なんてあったが多分嘘だと思う。




