呪われた白い子4
「ギリギリセーフだな」
「助かった……あんがと」
「いいってことよ。とりあえずどけてくれるか?」
エニに乗っかられていては立ち上がることはできない。
「あっ! うん!」
エニは慌てて立ち上がる。
「ひょっ!」
顔の熱さに気づかれないように窓の外に顔を向けたら、ちょうどグルゼイが入ってくるところだった。
歓声のタイミングではないが、グルゼイは音もなく窓の縁に着地して中に静かに入ってきた。
ジケたちよりもはるかに重たいはずなのに、はるかに軽い身のこなしである。
静かで軽やかで、油断していたエニは驚いて変な声を出してしまった。
「……ふん、いちゃつくなら後にしろ」
「い、いちゃついてなんか……むぐ!」
「エニ、バレちゃうって!」
顔を赤くして否定しようとするエニの口をフィオスで塞ぐ。
窓全開で大声を出せば見張りに気づかれてしまうかもしれない。
「別にいちゃつくことを否定しているわけではない」
「ふぁふぁら、いふぁふいてふぁいてふぇ!」
だから、いちゃついてないって! というエニの叫びはフィオスにプルプルと吸収されてしまった。
今もフィオスを使っていちゃついているではないか。
そんな言葉を言えばエニがまた否定することは目に見えているので、グルゼイはふっと笑ってスタスタと歩いて行ってしまう。
「ちょっとバランス崩しただけだってのに……」
息ができないとフィオスを引き剥がしたエニは、ほんのりと顔を赤くしたまま口を尖らせる。
「まあ……悪くはなかったろ?」
寒いので暖かい格好をしている。
薄手の服装よりもふわっとしてるから、ぶつかっても痛くなっただろうというぐらいのつもりで聞いた。
「いてっ!」
「……知らない」
エニは口を尖らせたままジケの胸を軽く小突くとハビシンのところに向かってしまった。
「……俺なんかしたか?」
エニのこと助けてやったのに殴られた。
ジケはフィオスに話しかけたけど、フィオスは何も答えない。
「師匠のせいでエニの機嫌悪くなっちゃったな」
グルゼイが変にからかうから悪いのだ、とジケもハビシンのところに向かう。
「ジケ! ハビシンの様子がおかしいの!」
「何があった?」
「わかんないけど……苦しそうで……」
ジケが部屋に入るとハビシンはベッドに横たわっていた。
顔が青くて息が荒い。
どうみても体調が悪そうだった。
トシェパが何かしたのではなくて、トシェパが来た時にはもうハビシンの体調は悪くなっていたのだ。
「大丈夫か?」
「うぅ……なんだかすごく胸が苦しい」
「エニ、治療頼めるか?」
「うん、任せて」
流石に苦しそうにしている女の子は放っておけない。
呪いそのものの治療はできないけれど、治癒魔法で体を癒せば苦しさは大なり小なり軽減される。
その間にジケは背負っていたリュックから魔道具を取り出す。
「これは……」
呪いのエネルギーを感知する水晶玉がかなり濃く紫色に染まっている。
呪いの力が強くなっているとジケは眉をひそめる。
「みんなこれつけて」
ジケは小さな赤い石がつけられたネックレスを取り出してみんなに渡す。
防呪の効果があるネックレスで、念のための予防策である。
「ハビシンにはいくつかの呪いがかかってる」
「いくつか? 一つじゃないの?」
エニが治療してやるとハビシンの顔色が少し良くなる。
「ああ、呪いは遠くからかけるもの、場所にかけるもの、直接刻んでかけるものがあるんだ」
「……何が違うの?」
「細かいことは省くけど、違うんだよ。そんでハビシンはその三つ全部がかけられてる」
前回来た時に色々と調べた。
「そんなにたくさんあって治せるの?」
「現状治せないものもあるけど、治せるものもある。トシェパ、手伝ってくれ」
「何すればいいの?」
「服を脱がせてくれ。……おい、そんな目で見るなよ」
「変態」
ジケの言葉にエニとトシェパとハビシンが軽蔑するような目を向ける。
何もただ体調の悪い女の子の服を脱がそうとしているわけではない。
「俺は見ないからさ。二人でハビシンの体を調べてほしい」
「何を調べるの? 胸のサイズとか言ったらブッ飛ばすからね」
「そんなことしないって……体に変なところはないか見てほしいんだ」
信頼ないかとため息が出てしまう。
確かにハビシンは美人だけど、気になっているのは胸なんかではない。
「変なところって?」
「なんでもいいんだ。これまでなかったような模様とか、貼り付けられた変なものとか」
「……そんなもの」
「ないとは言い切れないだろ? 背中とか自分じゃ見られないところを二人でチェックして」
本来ならジケがチェックすべきなのかもしれないけれど、流石に男のジケが女の子のハビシンの体をジロジロと見るわけにはいかない。
グルゼイは部屋を追い出される。
だがジケはいざという時に呪いに対処しなければいけないために部屋の隅で、部屋の隅の方を向いて、目を閉じる。
「肌白いね」
「ここらは雪の時間も長いからみんな肌白いんだよ」
ゴソゴソと服を脱ぐ音が聞こえる。
別のことを考えて音に気を取られないようにしようとするのだけど、目を閉じているとどうしても耳が澄んでしまう。




