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怪しい気配2

「…………勝者……ジケ」


 マクベアは完全に気を失っている。

 苦悶して倒れるぐらいなら勝利宣言せずに待つこともできるのだが、気を失ってしまうと審判も助けられはしない。


 会場が静まり返る。


「なーんかずるい勝ち方」


 ステージを降りると、みんなの声を代弁したようにピコが言った。

 弱点を突くのは当然のことだ。


 しかしやはり正々堂々とした戦いで、弱点ばかり狙うのはどうだろうという思いはある。

 そしてジケは人間だ。


 素直に称賛しきれない思いがある。

 だが批判の声も上げられない。


 卑怯な手というほどの手でもないし、批判すれば負けたマクベアたちの立場も下げてしまうことになる。

 褒められないが責められない。


 祝福されない王者とジケはなった。


「俺もそう思うよ。でもこれでいいんだ」


「……どうして?」


 もっと綺麗に見えるような勝ち方もあった。

 でもジケはあえて泥をかぶるように微妙な勝ち方を選んだのである。


「俺は望まれてここにいるわけじゃない。言うなれば……赤尾祭を荒らしてるようなもんだ。獣人たちにもプライドはある。俺は赤尾祭に勝ってナルジオンに会いたいのであって、彼らのプライドをへし折りたいわけじゃない」


 完膚なきまでに叩きのめして勝てばしょうがなく称賛することもあったかもしれない。

 けれどそうなれば獣人のプライドを傷つけるだろう。


 微妙な勝利ならば獣人たちにも言い訳ができる。

 ピコが思ったようにずるい勝ち方だったとジケに責任を押し付けて平穏を保つことができる。


 ジケの目的は戦争を止めることだ。

 こんなところで獣人を戦争に傾く方向に刺激するわけにはいかないのである。


「それにやっぱり運が良かったからな」


 マクベアは先にユダリカと戦って大きな怪我を負っていた。

 それでも勝ち抜いて、痛みに耐えて戦った。


 ジケが勝てたのは運が良かったからでもある。


「俺はずるいぐらいでいいんだ。今回勝ったという事実はもらうけど、誇りはあくまでも獣人たちのものだ」


 たとえ卑怯者だった後々にそしられようとも今触れてはいけないプライドがある。


「ピコちゃん反省……」


「分かってくれる人が分かってくれればいいさ」


 覚悟の上の戦い方だった。

 ステージの上で批判の言葉を浴びせられるぐらいのことは考えていた。


 失格にならない程度や卑怯になりすぎて相手や周りが怒らない程度に収めたので、微妙な感じになってしまったことは否めない。

 だが目的としてはおおよそ果たせただろう。


 そんなことを考えていたなんて知らずにズルいと口にしてしまってピコは反省した。


「しびれるぅ〜」


「流石会長……深いお考えに感銘いたします……」


 ユダリカとユディットはジケのやり方に感動を覚えている。

 相手のプライドをどうにか守りつつ勝つためにヒール役に徹することは簡単ではない。


「まあ結果として上手くいっただけで褒められるもんじゃないって」


 もっと上手いやり方もあったのかもしれない。

 もしかしたらマクベアにとっては遺恨の残る結果になったのかもしれないけれど、頑張って乗り越えてほしいものである。


 敗北を受け入れて次に繋げることで人は強くなれる。

 マクベアがもっと強くなれば、きっと大人部門に行っても活躍することだろう。


「ピコちゃんがジケ君のこと祝福するよ! 頭撫でてあげようか!」


「ありがとな」


「ぬふ……撫でるんじゃなくて……もう」


 ジケが笑ってピコの頭を撫でてやる。

 ピコは少し顔を赤くしつつもミミをぺたんと開いて受け入れる。


 ジケがそれでいいのならピコに言うことはなかった。


 ーーーーー


 ジケが勝ったので赤尾祭に参加した目的は果たされた。

 だがリアーネの戦いはまだ始まったばかりだ。


 わざと負けるつもりもなければ、辞退するつもりもない。

 一回戦も無傷で勝ち抜いたのだが、ジケの優勝でなんとなく空気は微妙なままに、その人の赤尾祭は解散となった。


 だがジケは帰る前に赤尾祭の係員を名乗る男に呼び出されていた。

 係員についていくと赤尾祭会場の広場から近いところにある建物に案内された。


 ユディットとユダリカを伴って中に入ってみると白い毛色をした獣人の男性が座っていた。

 赤尾祭初日の開会宣言の時に見たナルジオンであった。


「人間よ。……いや、ジケと言ったな。優勝おめでとう」


「ありがとうございます」


 いつナルジオンに会えるのかと考えていたが、こんなに早く会うことになるとは想像していなかった。

 それでも動揺を見せないようにしっかりとナルジオンの目を見て答える。


「後ろの二人も相当な実力者であったな」


「お褒めいただいて光栄です」


「ふっ、腰が低いな」


 赤尾祭の中での戦いでジケは誰に対しても怖気付く様子はなかった。

 ナルジオンを目の前にしてもジケが圧倒されているような様子はない。


 だからといって尊大な態度でもなかった。


「聞いていると思うが赤尾祭で優勝したものは願いを叶えてもらえる。ただし獣人の力を上げて叶えられるものだけだ。俺たちは死者を起こすことはできないし、誰か仲間を殺してくれと言われてもそれはできない」


 ナルジオンが本題に入る。

 てっきり赤尾祭が終わってから聞かれるものだと思っていたけれど、意外と早くに聞いてくれるのだとジケは内心驚いた。

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