ちゃんと考えてます
三回戦はラッキーだった。
ユディットがリタイアしたために一人不戦勝となるのだけど、ジケがくじ引きでそれに選ばれた。
不要な体力を使うこともなくかなり助かった。
ここまでくるとかなり人も減って一戦一戦の質が高まる。
勝ち抜くのも大変そうだとジケは戦いの様子を眺めていた。
人が減って対戦数も減った。
子供部門だけでは対戦数が少なすぎて時間が余ってしまうので、大人女性部門の戦いも始まった。
例によって予選会からのスタートである。
子供部門では女の子はあまりパッとしない成績だったが、大人の女性となると流石に勢いも違う。
色々な部族の色々な人がいて、予選会でも激しい戦いを繰り広げていた。
それはリアーネも同じだった。
幸いなことにリアーネのグループには優勝候補となりそうなほどの強い人はいなくて割と余裕を持ってリアーネは予選を突破していた。
「少し情報が欲しいんだ」
ジケの三回戦、リアーネの予選会が終わって宿に戻っていた。
部屋にはトシェパが訪れている。
ハクロウ族のトシェパはナルジオンの親戚であり、ジケが会いたいと考えているハビシンとも友達だった。
ハビシンについての情報も欲しいと考えていたジケはトシェパから話を聞き出そうと思っていた。
最初は自分のことを負かしたジケのことを警戒していたが、ハビシンのためだと説得すると渋々話をすることに同意してくれた。
ただ出会った時は夜遅くだったので日を改めて、トシェパが宿を訪ねていたのである。
「ハビシンについて話を聞いて何をするつもり?」
トシェパは怪訝そうな顔をする。
ハビシンを助けられるかもしれないと聞いたからこうして訪ねてきたものの、やはりジケのことは信用しきれない。
「何をするのかは話を聞いてから考える。まずいつから体調が悪くなったんだ?」
「……一年ぐらい前。最初は少しだけ体の調子が悪いぐらいでなんともなかったんだけど、だんだんとひどくなって……今だとほとんど寝たきり」
特に怪しい質問でもないのでトシェパも素直に答えた。
「医者とかには見せたのか?」
「もちろんだよ! でも原因は分かんないって……」
トシェパのミミと尻尾がしょんぼりとする。
「お薬飲ませたり人間の神官? っいうのも連れてきたりしたみたいだけど、ちょっと回復してもすぐにまた体調悪くなって……私…………なんもしてあげられなくて……」
トシェパの目にジワっと涙が浮かぶ。
「もっとすごい神官とか……もっとすごいお医者さんとか人間にはいるし……優勝したら、そんな人探してもらおうって思って……」
ギリギリ涙を堪えてはいるが泣き出す寸前であった。
ハビシンを治すためにトシェパはあんなに必死だった。
それを倒したのはジケである。
真剣勝負で勝ったのだから何もいえないのだけど、トシェパを見ていると少し罪悪感のようなものは感じる。
「今ハビシンはどうしてる?」
「どんな病気か分からないから隔離されてる……交代でお世話してて……基本は家に一人なんだ。そんなだから私ももうしばらくハビシンに会えてないんだ」
「誰がそんな指示を?」
「ナルジオンおじさんだけど、実際はフェデミーさんだよ」
「フェデミー?」
「私たちのお医者様だね。ラクン族の男の人だよ」
ジケの疑問にサラリとピコが答える。
「医者の指示でハビシンは一人隔離されてるんだな?」
「うん……」
「会いには行けないのか?」
「私は無理。ナルジオンおじさんは様子を見にいくけど、あとはお世話する人がフェデミーさんぐらい」
「どこに隔離されてるかは分かるか?」
「一回だけ行ったあるから分かるよ」
こんなこと聞いて何になるのか。
そんな疑問を抱きつつもトシェパは答えていた。
「じゃあ……忍び込もうと思えばできるか?」
「忍び……込むの?」
「ああ、真面目な質問だ」
赤尾祭で優勝できない可能性も考えねばならない。
ここにきてハビシンを知るトシェパに出会ったのも何かの縁である。
いざという時はハビシンに直接会って色々確かめる必要がある。
「忍び込むことは……できると……思う……けど」
「なんだ? 歯切れが悪いな」
「一応他の人が入らないようにって見張られてるから。その……前に行った一回ってのも…………私が忍び込んだから警戒されてる……」
トシェパが少し気まずそうな顔をする。
ハビシンが隔離されている場所には見張りまでついていた。
それは前にトシェパがこっそりと忍び込んだからなのであった。
「見張りはいるけど、忍び込めるんだな?」
「うん、できると思うよ」
「場所を教えてくれ。今すぐ行くわけじゃないけど偵察ぐらいは必要だろうからな」
「……本当に治せるの?」
トシェパが不安と期待の入り混じった目でジケを見る。
これだけの質問もされたのだからジケの言葉が冗談やウソだとは感じられなくなってきていた。
治せるなら治してあげてほしい。
トシェパはどこまでもハビシンのことを考えていた。
「まだ分からない。でもある優秀な人の魔道具が俺の手元にはあるからね」
ジケは優しく笑った。
「きっと上手くいくさ。誰も望まない結末は止めなきゃいけない」
「ジケ君かっくい〜」
「茶化すなよ!」
「茶化してないよぅ〜」
「……変な人たち」




