かつての友の助け2
「本当ならもうちょっとどうにかできる予定だったんだけどな……ただまあ色々魔道具もあって……説明書の文字汚いんだよ……」
もっと呪いについて細かく特定していきたいところなのだけど魔道具も色々な種類があった。
本当に呪いのために作った魔道具なのかオモチャなのかも怪しいものまであって使えるものを選抜するのも意外と大変だった。
ウダラックは説明書も残しておいてくれたのだけどウダラックの字は意外と乱雑だったのだ。
本来ちゃんとした説明書でもなく、自分のために書き残したものに説明を書き加えたようなものでそれもまたちょっと読みにくさがあるのだった。
扱いが難しいものもあって今回は簡単に使えて、簡単に持ってこられるものを中心に呪い関係の魔道具をいくつか持ってきていた。
呪い見つけっ玉と名付けられた水晶玉は文字通り呪いのエネルギーを見つけるための魔道具で、特別な操作も必要なく呪いのエネルギーを感知すると勝手に光る。
名前のダサさはウダラックなりのギャグだったのかもしれないと思う。
とりあえず勝手に光ってしまうという特性上昼間は持って歩けず夜にこうして歩き回っているのであった。
「そのウダラックって頭が良い人だったんだね」
「どうしてそう思う?」
「魔道具作るのもすごいし……頭の良い人は字が汚いことが多いってお父さん言ってたからね」
「ふーん」
確かにウダラックは頭が良い人だったのだろうとジケも思う。
ただ字の汚さと頭の良さに相関関係があるかどうは知らない。
「ちなみにピコちゃんは頭が良いけど字も綺麗です」
「まあ字が綺麗なのは良いことだ」
「会長も字は綺麗ですよね」
「気をつけてるからな」
ジケも文字の読み書きはできる。
ユディットからしてみればジケの字は読みやすいように書かれた綺麗な字をしていると感じていた。
ジケもジケでちゃんと読めるようにと意識している。
「……そういえば文字はどこで習ったんですか?」
ジケは出会った時にはもう文字の読み書きができていたような気がするとユディットは思った。
貧民の子でまともな読み書きが出来る子は少ない。
出会った当時のジケには読み書きを教えてくれる人なんていなかった。
可能性がありそうなのはグルゼイぐらいだけど、グルゼイがジケに読み書きを教えている絵がユディットには想像できない。
「教えてくれた人がいるんだよ」
「例のお爺さんです」
「その通り。字を丁寧に書かないと怒るんだ」
ウソである。
ジケが文字を習ったのは回帰前の、もっと大人になった時である。
例のお爺さんとはジケが住んでいる家の前の持ち主のことで、何かあればとりあえずお爺さんのことを出しておけば周りは納得してくれるからよく使わせてもらっていた。
丁寧に書かないと怒られるってのは本当だが、もっと別の人が教えてくれたのである。
「とりあえずこの辺りに呪いの気配が濃いことは分かったしそろそろ帰って……」
「バカーーーー!」
「えっ、おわっ!?」
呪い見つけっ玉はあくまでも呪いのエネルギーを広く感知するだけで特定するのにはあまり向いていない。
街の真ん中から北側にかけて呪いのエネルギーが蔓延しているということは確認できた。
寒いし帰ろう。
そう思って振り返ったジケに横の家のドアが開いて何かが飛び出してきてぶつかった。
「だ、大丈夫ですか!」
「ジケ、大丈夫か!」
「痛そ」
思い切りぶつかって、思い切り地面に転がってしまった。
「いってぇ……」
また襲われるかもしれないので気を抜いていたわけではなかったが、家の中から人が飛び出してくるなんて思いもしなかった。
「ありがとう、ユダリカ」
ジケは差し出されたユダリカの手を取って立ち上がる。
ぶつかった衝撃はあるけれどフィオスが下敷きになって衝撃を吸収してくれた。
派手に転んだが怪我はなかった。
「君は大丈夫?」
ジケにはフィオスがいたけれど相手にはいなかった。
ぶつかった相手を見ると頭を打ちつけたのか、頭を抱えて地面に丸くなって悶絶していた。
「ウゴゴ……」
「んん?」
白い毛色の女の子で何だか見覚えがあるなとジケは思った。
「立てるか?」
今エニはいないので治してやろうと思えばフィオスポーションしか方法がない。
しかしフィオスポーションの存在を知ってる人ならともかく、知らない人がスライムから生み出された液体を口にするのは抵抗がある。
同様に頭にスライムを乗せることも嫌だろう。
魔獣文化がない獣人から余計に警戒してしまうはずだ。
つまり治してあげられない。
ジケはとりあえず手を差し出す。
「ううう……ごめんなさい。こんな時間に外出てる人がいるなんて……あっ!」
手を取った女の子はジケの顔を見て驚いた。
そしてパッと飛び退いてジケから距離を取る。
「ジケ君が泣かせた子だね」
「言い方悪いぞ……」
女の子はトシェパであった。
昼間、赤尾祭でジケが倒したハクロウ族の女の子である。
鼻にシワを寄せて牙を剥き出してジケを睨みつける。
好かれてるだなんて思ってはいないが、そんなに敵意剥き出しにされると少し傷つく。




