かつての友の助け1
「まさかユダリカが負けるとはな」
「うぅ……面目ない……」
「しょうがないって相手があれじゃな」
ジケが戦った後に呼ばれたのはユダリカであった。
しかしユダリカは負けてしまったのである。
対戦相手はコウユウ族の青年マクベア。
優勝候補の一人であった。
マクベアの圧倒的なパワーと体格にユダリカはやられてしまったのである。
「いい戦いだったけどな」
ただしユダリカだって何もできずに負けたわけじゃない。
かなり善戦した。
最後は相打ちのような形でユダリカはやられたのだが、マクベアにも強烈な一撃を叩き込んだのだ。
負けたユダリカはエニに治してもらったので全快しているがマクベアは治療が許されない。
今ごろ痛みでのたうち回っているかもしれないなとジケは思った。
「悔しい……」
ユダリカは険しい顔をしている。
結果的に負けたけれどもチャンスがない試合ではなかった。
もう一度戦う機会を得られたなら負けないのにとユダリカは思っている。
「まあ負けは負けだからね」
「ぐっ……ピコ、厳しい……」
「負けを認めることも強さなんだよ」
「ピコに強さ説かれるとはな……」
偉そうにしているピコだが、ピコの成績は予選会を死んだフリで落ちているという強さというより強かさの塊みたいなものだった。
強さを語るような立場にはないのだけど言ってることは間違っていない。
「えーと、大体ここら辺がハクロウ族が多いところだよ」
今ジケたちはまた夜になって赤尾祭がお休みなった時間に外出していた。
来ている場所はヴィルディガーの北側にある住宅街だ。
ピコによると北側にはハクロウ族が多く住んでいるらしい。
ナルジオンの住まいも北側にある。
いきなり訪ねていっても用件は聞いてもらえないだろうから訪ねるつもりはない。
「水晶の光が強くなってるな……」
フィオスの中にある水晶が紫に輝いている。
町の中央にいた時よりも光がやや強い。
「それ何?」
ピコがフィオスをつつく。
昼間は特に水晶なんてもの持っていなかったのにどうして今はそんなもの持っているのか。
しかも怪しく光っている。
「ピコ、秘密守れるか?」
「………………守れるよ」
「その間はなんだ?」
「たくさんお金積まれたら分かんないかもしれない」
キリッとした顔をするピコは正直に答える。
一応情報屋なのでジケの情報が欲しいと言われて、すごいお金をもらえるなら秘密も話してしまう可能性は否めなかった。
「じゃあたくさんお金積まれるまでは秘密にしてくれ」
そこまで正直に話してくれるならむしろ信頼できるとジケは笑ってしまう。
「これはな、呪いのエネルギーを感知する魔道具だよ」
「の、のろ……い?」
全く予想もしていなかった言葉が出てきてピコがちょっと目を開ける。
「呪いってのは特殊なエネルギーを発するらしいんだ。継続的な呪いじゃなきゃダメとか呪いの種類とか色々あるらしいけど細かいことは分かんない」
ジケは肩をすくめてみせる。
「呪いってどいうこと?」
ピコは首を傾げる。
ジケの話によると呪いのエネルギーを感知しているということになる。
獣人の町で誰が誰を呪うというのか。
誰かに恨みを持ったとしても、そんなことするぐらいなら直接乗り込んで戦うのが獣人である。
「色々あるんだよ。目的も犯人も分からないけど……呪いをかけられてる相手はなんとなく推測できてる」
「え……じゃ、じゃあ助けてあげないと!」
「……そうするつもりで俺たちはここに来たんだよ」
「ええ?」
ジケの目的は戦争を止めることだと聞いている。
なのに獣人の呪いまで解きに来たなんて変な話である。
「まあ色々分かんないこととか結局これだけじゃ広く呪いを感知しちゃうから特定できないこととか不確定なことが多いんだけどな」
「そんな変なものどやって手に入れるの?」
話したくなさそうなので賢いピコはこれ以上追及しない。
ただ呪いを感知する魔道具なんて普通に生きてきて手に入れられるものじゃないだろうと思った。
「とある人からもらったのさ。彼は呪いの研究をしていてね。ウダラックって人なんだけど……その人を助けた時に色々もらったんだよ」
ジケは少し寂しそうに笑った。
かつて悪魔教の実験によってリッチにされたウダラックという男がいた。
ウダラックは自分が支配されることを嫌ってどうにか支配から抜け出そうと足掻いていた。
結局紆余曲折あってウダラックはジケが倒すことによってリッチではなく、人として安らかに眠るになったのである。
リッチの体をどうにかしようとウダラックが行っていたのが呪いの研究だった。
呪いに関する魔道具なんかは今はジケがウダラックから譲り受けて持っている。
水晶玉もウダラックが研究して作り出した魔道具の一つなのであった。
「彼は陽気な人でしたね」
「人……って言っていいのか?」
「人だよ。間違いなくね」
ユディットとリアーネもウダラックのことを思い出す。
部屋の掃除をしながら笑っていたのが印象的である。
「ともかく今この町には呪いの気配があるんだ。そして呪いがあるということは誰かがその影響を受けている」
「夜のお出かけもそのため?」
「ああ、そのためだよ」
赤尾祭に優勝できない可能性は考えておかねばならない。
少しでも情報を集めていざという時にも動けるようにしておかねばならないのだ。




