必死な白い子2
「何とか……勝ちました」
優勝候補の一人に勝つことができた。
辛勝ではあったものの勝ちは勝ちだ。
ステージから降りてきたユディットは誇らしげな顔をしている。
「よくやったな」
「ありがとうございます」
「だけど……服脱いで見せろ」
「……はい」
まずは褒めるけれど、どうしても心配なことがある。
ユディットが上の服を脱ぐと肩のあたりが紫色に変色していた。
「次は棄権しろ。早くエニに治療してもらうんだ」
ほとんどルール無用の赤尾祭でもいくつかのルールはある。
勝者は治療を受けられない。
どんなにボロボロでも勝ち上がって次に挑むなら治療を受けてはいけないのだ。
その日の試合が終わって家に帰った時にある程度の治療を受けることは暗黙の了解として許容されているが、魔法で治してもらうことは許容の範疇を超えている。
ユディットの肩の状態は結構ひどい。
優勝が目的ではあるが、優勝候補を倒した時点でユディットの働きとしては十分すぎるぐらいである。
治療魔法は時間が経てば経つほど効果が薄くなってしまう。
治すなら早いうちの方がいい。
どの道肩がやられた状態で次を勝ち抜くことは難しいだろう。
「無理はしないでくれ」
「……分かりました」
渋々といった感じでユディットは頷く。
無理をして体を壊してしまえばそれこそ迷惑をかけてしまう。
ユディットは次の戦いを辞退することにして観客席にいるエニに体を治してもらいに行った。
「ふむむ〜ユディット君も強いんだね」
ピコは思わず感心してしまう。
決して弱くはないだろうと思っていたのだけどまさかトラノスを倒すほどだとは思わなかった。
「あいつも普段から頑張ってるからな」
なんだかんだとユディットも強くなっている。
リアーネやニノサンがジケの騎士として加わってもユディットは腐ることなく鍛錬を続けていた。
折れない強い心は折れない強さを生み出す。
ジケもしっかりとユディットのことを認めていた。
「なんてたってあいつは俺の初めての騎士だからな」
「ふぅーん。そーとー信頼してるんだね」
「そうだな。信頼してるよ」
だからこそあまり無理もしてほしくはない。
「まあ私がジケの右腕だけどな!」
「大人気ない張り合いしない」
「何と言われようとこれは譲らねぇぜ」
リアーネは鼻を鳴らして胸を張る。
ユディットが高い忠誠を持った騎士であることは認めるが、実力も忠誠も負けちゃいないとリアーネも自負がある。
ジケとしてはリアーネもユディットも右腕ぐらいのつもりだ。
いうならば少し前に戦ったキモミノタウロスみたいな右腕たくさんな気持ちだ。
「まあリアーネにも期待してるよ」
「今はジケ君の左腕たるピコちゃんもいるしね」
「いつの間に左腕になったんだよ?」
「出会った時から左腕……」
ピコはフッと笑う。
「頼もしい左腕だな」
「でしょ?」
何でも教えてくれるので頼もしさはある。
左腕というよりも半分頭脳みたいなものだ。
「おっ、ジケ、呼ばれてるぞ」
「次は俺の番か。対戦相手は……あれは」
ピコの情報を聞くためにもステージに上がるのはギリギリまで待って相手を見る。
ステージに上がってきた相手は白い毛色をした狼のようなミミをした女の子だった。
ナルジオンの親戚にも当たるトシェパという女の子であった。
かなり攻撃的な双剣使いなことはすでに分かっている。
ジケがステージに上がるとトシェパは鋭い目つきでジケのことを睨みつけた。
嫌いとかそんな感情ではなさそうだが敵対心は高そうだ。
「始め!」
試合が始まるとトシェパは体を屈めるような低い体勢をとって一気に走り出す。
結構速い。
素早く繰り出される二本の剣による攻撃はまるで二人を相手にしているような感覚にもなる。
けれどもジケにはミュコがいる。
奇しくもミュコも双剣を使って戦うスタイルで、たびたびジケとも手合わせすることがあった。
「ただ……ミュコとは大違いだな!」
双剣を相手にした経験は生きている。
だがミュコと同じと考えて戦うと痛い目を見るほどトシェパの戦い方は異なっていた。
ミュコの双剣は剣舞がベースになっている。
リズムや流れを重視した戦い方で回転など体全体を使って攻撃を叩き込んでくる。
一方でトシェパの戦い方はミュコの戦い方よりも荒い。
補足も見える腕の力は意外と強くて、体よりも腕でしっかりと剣を振り回している。
ただ武器を振り回す速度はトシェパの方が速く、なかなか隙を見つけられない。
ジケは冷静に防御しながら隙を窺う。
ここで焦って無理に反撃に出るのが一番良くない。
「私は……負けられないんだ!」
焦らないジケを見てトシェパの方が焦りをあらわにする。
攻撃がより激しくなってジケの防御もギリギリになってしまう。
「けどこんなペースで持つはずが……」
明らかにオーバーなペースで攻撃を繰り出している。
ミュコの双剣術は腕や体に負担がかからないように回転や体の動きを活かして徐々に勢いをつけていく。
それだってやはり両手にそれぞれ一本の剣を持って戦うことには負担がある。
腕の力で双剣を振り回し続けることはできないはずであるとジケは思った。




