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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十六章

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必死な白い子1

 一回戦が終わって二回戦に突入した。

 二回戦も同じくくじ引きなのでどのタイミングで呼ばれるか、誰が相手なのかも分からない。


「お先に行ってまいります」


「ああ、大変そうな相手だけど頑張れ!」


 今回先に呼ばれたのはユディットであった。

 ユディットは真剣な顔をしてステージに上がる。


「まさかあなたが相手とは驚きですね」


「そうですね。私もここで当たるのは予想外でした」


 ユディットの対戦相手はソウコ族の青年トラノスであった。

 二人は予選でも戦った。


 けれども決着がつく前に止められてしまったので互いにやや消化不良だったところがある。

 因縁というには弱いかもしれないけれど、くじ引きでも当たってしまうのなら縁はあるのだろう。


「負けるわけにはいきません!」


「こっちこそ人間には負けられないんでね!」


 剣を持ったユディットと槍を持ったトラノスが互いに距離を詰める。

 激しい攻撃の応酬。


 予選会の反省を活かしてかトラノスもユディットの勢いに負けないように最初から全力だった。

 戦いとしてはトラノスの方がやや有利。


 ジケの周りで槍を使うのはウルシュナぐらいである。

 だがユディットとウルシュナが手合わせする機会なんてない。


 つまり対槍の経験が少ないのだ。

 基本的に距離をとって戦う相手だということは分かっているが、実際戦ってみると槍の距離で戦うのは意外と難しい。


 トラノスも素早くて詰めることも大変で、さらに激しい攻撃にさらされるのでかいくぐることも容易にできることではないのである。

 加えて近づかれたからとトラノスが何もできなくなるわけではなかった。


 上手く槍を振り回して近い距離でもユディットの攻撃に対応している。


「ふっ!」


「ぐっ!」


 ユディットはわずかなチャンスに食らいつかねばならない。

 トラノスは槍を立てて横振りの剣を防いだ。


 ユディットは剣を引かずにそのまま力を込めてトラノスの動きを止めさせ、片手を剣から放してトラノスの顔を殴りつけた。

 決してスマートとはいえない戦い方である。


 しかし勝負は勝てばいい。

 礼儀作法にこだわりくだらないプライドに固執した戦いをして死ぬぐらいならどんな戦いでもしてみせる。


 この教えはリアーネによるものだ。

 人として劣るようなマネをしない限り、必要ならどんなことでもするというのはジケも賛成である。


 顔を殴られてできた隙をついてユディットが攻めかかる。

 トラノスは素早くて槍のリーチを活かした攻撃を得意としているけれど、その分攻撃の重さとしては軽い。


 一方でユディットは意外と力が強くて一撃はトラノスよりも重たい。

 攻めかかられるとトラノスがユディットを押し返すことは難しいのである。


「この!」


 今度はトラノスの方がユディットの攻撃をさばきながら隙を狙って反撃する。

 冷える空気の中、ユディットとトラノスは流れるほどに汗をかきながら戦い続けている。


 最初は人間を倒せとトラノスを応援していた獣人たちも戦いの熱に浮かされるように両者を応援し始めていた。

 トラノスの槍がユディットの頬をかすめ、ユディットの剣がトラノスの脇腹をかすめる。


 それぞれ相手の動きに慣れてきて動きを捉えつつあった。


「あっ……!」


 トラノスがほんのわずかに切先の軌道をこれまでと変えた。

 小さい変化だったが均衡して慣れが出てきた戦いの中ではそれで十分だった。


 槍がユディットの肩を突き、トラノスは思わず口の端を少し上げる。


「これぐらい!」


 たとえ木製の武器でもまともに当たればすごく痛い。

 けれどもユディットは痛みに耐えて剣を振る。


 まともに攻撃を当てたという慢心のあったトラノスはユディットの反撃を食らってしまった。

 頭を殴られてトラノスはふらつく。


 追撃したいところだがユディットの方も肩を突かれた痛みですぐに動けなかった。


「この……人間がぁ!」


 頭から血を流したトラノスは尻尾の毛をボワっと逆立たせながら怒りをあらわにする。


「くっ!」


 持ち直すが早かったのはトラノスの方だった。

 汗と混じって流れ落ちてくる血など気にせずトラノスはユディットを攻め立てる。


「まずいな……」


 肩のダメージは決して軽くない。

 何とかトラノスの攻撃を防いでいるけれど肩を突かれた方の腕はほとんど剣に添えているだけである。


 お互いにダメージはあるだろうがユディットのダメージの方が少し厄介ものとなっている。


「頑張れ、ユディット……」


 状況だけ見るとユディットの方が劣勢である。

 だがまだチャンスはあるとジケは見ていた。


 怒りでトラノスの攻撃が大きくなっている。

 最初のような繊細さが失われて、隙を見出すチャンスができている。


「どうせ使えないなら……!」


 肩の鈍い痛みは戦っている最中も大きくなっている。

 じきに腕を上げることすらできなくなると悟ったユディットは捨て身の作戦に出た。


「なっ……!」


 近づこうとすると槍を振って防ごうとすることはもう分かっていた。

 ユディットはすでに動かすのも辛い手を剣から放して槍を腕で受け止めた。


 腕にヒビぐらいは入ったかもしれない。

 それでもユディットは止まらずに剣を振り下ろした。


 トラノスの頭に剣が当たって鈍い音が響いた。


「勝者ユディット!」


 トラノスが白目を剥いて倒れ、肩で息をしているユディットの勝利が審判によって宣言された。

 人間ではある。


 しかし正面から正々堂々と戦い、ユディットは勝利した。

 よくやった! という歓声が飛ぶ。

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