激しい赤尾祭4
「ア、アコアン!」
アコアンと同じ赤い毛色をした獣人が数人走ってきた。
おそらくセキロウ族だろう。
「なんだ? 赤尾祭での不名誉な行いを止めてやっただけだ。文句でもあるのか?」
白目を剥いて倒れるアコアンを見てセキロウ族の男性がオオグマを睨みつけるように見た。
対してオオグマはグッと眉間にシワを寄せて睨み返す。
赤尾祭の期間中において赤尾祭以外での戦いは厳禁だ。
ましてステージの横で負けた人が勝った人に納得できないと襲いかかるなど言語道断の行いである。
まだ若い未成熟なものが人間に負けて悔しかった気持ちは理解できるだろう。
アコアンのやったことは決して褒められるものではないが、もっと平穏な止め方があっただろうとセキロウ族の男は思うのだ。
オオグマほどの実力があるなら肋骨が折れるほどの重体であるアコアンに無理なダメージを与えることなく制圧できだろうに、オオグマはあえて力を見せつけるようにアコアンを気絶させた。
「ふん。憤りを感じるなら俺ではなく己を律することもできないそのガキに向けるんだな。それとも今ここで決闘でもしようか?」
「…………いえ、止めていただき感謝します」
会場中が押し黙るほどのピリついた雰囲気が漂う。
一瞬そのまま場外乱闘になりそうだったがセキロウ族の男の方が折れた。
「チッ……無駄に暴れおってに」
オオグマはため息をついて運ばれていくアコアンを見送る。
「……なんかただ助けてくれたわけじゃ…………なさそうだな」
「あの人苦手……」
以前襲撃してきたのはオオグマの部族であるヒコクグマ属である。
その罪滅ぼしに助けてくれたのと思ったけれどもオオグマはジケたちのことを殺気のこもった目で睨みつけてくれた。
赤尾祭がなどと口にしていたけれどどうにも赤尾祭の誇りなんかが理由ではないように感じられる。
オオグマは殺気立った雰囲気のままジケたちに声をかけることもなく立ち去っていく。
「お守りできず申し訳ございません」
ユディットが剣を収めてジケに頭を下げる。
護衛なのにジケのところまでアコアンを行かせてしまった。
「大丈夫だよ。怪我はないし、たとえ普通でもあんな動きされたら難しいからな」
上を飛び越えてくるなんて中々予想できない。
まして怪我を負っているアコアンがそんなことするだなんて思う人はまずいないだろう。
たまたまリアーネが食べ物を買いに行っていていなくてよかったなとユディットは思う。
いたら絶対に何か言われていただろう。
「見てたぞ」
「うっ……」
リアーネも出場者なのでステージ近くまで来ることができる。
予選を勝ち抜いた人は屋台での食事無料ということがあってリアーネはちょいちょい食べ物を補充しに行っていた。
ジケがアコアンに襲われたタイミングでも席を外していたのだが、ユディットがアコアンに抜かれるところをちょうど目撃していたのだ。
「まあ敵が上飛び越えてくるかもしれないって学んだからいいんじゃないか?」
ジケが怒らないのだからリアーネもそんなに怒らない。
冷静に考えてまともに動くのも厳しそうな相手が大きな跳躍で自分を無視して後ろのジケを狙うというはリアーネでも考えにくく、対処は難しい。
あまり偉そうにも言えた出来事ではない。
「それにしても……ヤバい目をしてたな」
「あのデカいオッサンの目つき、ピコちゃん嫌いなのね」
「いや、そっちじゃなくて。あの人の目もヤバいぐらいに怖かったけどね」
ジケを睨むオオグマの目つきもヤバいとは言える。
しかし今ジケが言っているのはオオグマではなくアコアンの目つきの方だった。
血走っていて、正気でも失ったような目をしていた。
脇腹の痛みを忘れたかのようなとんでもない力も発揮していた。
なんだかおかしい。
そう思わずにはいられないのであった。
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