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激しい赤尾祭3

「女の人にしては強い方だと思うけど……実際ハビシンの方が才能があるって言われているかな」


「だけどなんだか……負けられないって感じがあるな」


 みんな負けられないとプライドを持って戦っているけれどトシェパの戦いはそれ以上に何かを感じさせた。

 別にまだ年齢的には子供部門にも挑戦できるだろう。


 なのに今回の戦いで優勝しなければならないような気迫がある。


「はあっ!」


「あっ!」


 トシェパの剣が対戦相手の子の槍を弾き飛ばした。

 相手の子は素直に降参して負けを認めたがトシェパはニコリともせずにステージを降りた。


「あんな感じの子なのか?」


「うむむ……流石にそこまでピコちゃんの守備範囲じゃないかな」


「そりゃ悪かったな」


 有名な人以外で個々人の性格までは流石に把握できない。

 トシェパはハクロウ族なので部族の格としては注目すべき相手である。


 けれどもまだ年齢的にも若く、実力としても名前が上がるほどには高くない。

 名前は知っていても詳しいパーソナルな情報はピコまで知っていなかった。


「しかしいろんな奴がいるな。剣、槍、斧、手甲に棒……」


 人間だと多くの人が剣を武器とする。

 それに槍や取り回しのしやすいナイフぐらいがせいぜいで、魔法使いでは杖といった具合である。


 一方で獣人における武器は多彩だ。

 色々なものがあってみている側としても勉強になるし意外と楽しくなってきた。


 戦う機会があるかは分からないが、戦う時の参考になりそうだ。


「ユダリカの相手はナイフか」


 だいぶ後半になってようやくユダリカの番が来た。

 対戦相手は女の子で二本のナイフを逆手で持って低めに構えている。


 年齢的にはやや低めでピコ情報でも特に知名度もない感じの相手だ。

 ジケの見立てではユダリカなら問題ないだろうと思うが、ジケがアコアンに勝った事例がある。


 ユダリカも油断することなく剣を構えた。


「始め!」


 試合が始まって女の子は一気にユダリカとの距離を詰めた。

 無駄が少なく素早い動きで筋は悪くないと思った。


 けれどもユダリカを相手にするのならまだまだスピード不足だ。

 直線的に突っ込んでくる相手に合わしてユダリカは剣を振り下ろした。


「終わりですね」


 女の子はユダリカの攻撃を見抜いてかわした。

 しかしユダリカは振り下ろしている最中の剣の軌道を変えて追撃した。


 女の子はナイフで防ごうとしたけれどユダリカの力が力が強くてそのまま脇腹を殴られることになった。


「相当鍛えたんだな」


 たとえ普通の剣より軽い木製の剣であっても勢いよく振り下ろす剣の軌道を変えることは容易いことじゃない。

 腕にも無理がかかるのにそれができるということはしっかり鍛えているということの証拠である。


 ユダリカが冷たい目をして女の子に剣を突きつける。


「怖い目するね……」


 ジケといるユダリカは可愛らしさすら感じるぐらいなのに戦いにおけるユダリカは氷の刃のように冷たい。

 あんな目を向けられたらブルっちまうぜとピコは思った。


「ふっざけんなよ!」


「なんだ?」


 ユダリカが勝ってステージを降りて、次の対戦のくじ引きをしていると急に騒がしくなった。


「あんな卑怯なやり方で負けて納得できるかよ!」


「あいつは……」


 騒ぎの方に目を向けるとアコアンが暴れていた。

 止めようとする医療班の獣人を殴り飛ばして血走った目で会場を見回す。


 気配でも消そうかなと思っていたジケだが、隠れるのが一瞬遅くてアコアンと目があってしまった。


「ぶっ殺してやる!」


 ヤバいと思った時にはもうアコアンは走り出していた。


「ピコ、下がってろ」


「負けたのに往生際が悪いですね!」


 ジケはピコを後ろに下がらせて、ユディットは剣を抜いてジケを守ろうとする。


「邪魔だ!」


「なっ!」


 アコアンは大きく跳躍してユディットを飛び越えた。

 上半身裸のアコアンの脇腹は紫色に変色していて、ケガの程度が軽くないことは見てとれた。


 そんな大きな動きをするとは思わずユディットはアコアンに抜かれてしまった。


「人間が!」


 アコアンは剣でジケを切りつける。

 手に持っているのは赤尾祭用の木製の剣ではなく本物の剣であった。


「うっ!」


 ジケも剣を抜いて対応したがアコアンの力が強すぎて、防いだのに吹き飛ばされてしまった。


「骨いってるんじゃないのかよ!」


「死ねぇー!」


 とんでもない力で防いだジケの手が痺れるほどだった。

 とても重症の人の力に思えない。


 このままではやられてしまう。

 反撃しなければとジケは追撃に迫るアコアンを睨みつけた。


「殺して……」


 腕の一本ぐらいは覚悟してもらう。

 そう思って反撃を繰り出そうとしたジケだったが、目の前のアコアンが消えて剣を止めた。


 ほんの一瞬だったがジケは見た。

 誰かがアコアンの頭を鷲掴みにしてジケの前を通り過ぎていったのだ。


 重たい衝突音が聞こえて振り向くとオオグマがアコアンを地面に叩きつけていた。


「貴様、神聖な赤尾祭を汚すつもりか!」


 助かった、と思うよりもあの巨大でなんてスピードなんだ、という思いの方が先に来た。

 オオグマは冷たくアコアンを見下ろしていて、アコアンは叩きつけられた衝撃で気を失っている。

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