表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1033/1256

激しい赤尾祭2

「悪いがここが勝たせてもらうぞ」


 初戦はいただいたなとアコアンは笑った。

 対してジケは無言を貫く。


 わざと緊張したように固い表情を浮かべてアコアンと目を合わせないようにする。


「離れて」


 ジケとアコアンはある程度距離をとって向かい合う。

 ジケはしっかり剣を構えるが、アコアンは一応手に持った剣を軽く構える程度だった。


「始め!」


 バカにしたいならバカにすればいい。

 油断していたいなら最後まで油断してみればいい。


 一気に走り出したジケはあっという間にアコアンの懐に入り込んだ。

 ジケは剣を突き出した。


 アコアンは慌てて防ごうと剣を下げたけれどジケの剣の方が速い。


「ふぐぅ!」


 ジケの剣がアコアンの腹に突き刺さる。

 アコアンのミミに骨が砕ける音が聞こえてきた。


「こ、この……卑怯な……」


「戦いは始まってるんだぞ? 今から行きますなんて言うはずもないだろ」


 今は木製の武器を使っている。

 これが真剣だったらアコアンは卑怯なんて言葉も口にできずに死んでいただろう。


 ざわつきが一転して静かになった。


「どうする? まだ続けるか?」


「くっ……こんなんで終わらせられるかよ!」


 アコアンは歯を食いしばってジケに切りかかる。

 意外と平気だったのかと再び歓声が上がるけれど、明らかにアコアンは動きに精彩を欠いている。


「あんたは強いのかもしれない。だけど一つ覚えとけ」


 ジケはアコアンの剣を受けて鍔迫り合いをする。

 少し押されたように見せつつ周りに聞こえないような声で話しかける。


「なに?」


「相手を見た目で判断するべきじゃない。まして油断したりナメた態度取るとこうなるんだよ!」


「ガッ……!」


 剣から右手を離したジケはアコアンの腹を殴りつけた。

 普段なら痛くもないと笑っただろうが、今は全身に電撃でも走ったような激痛を感じて顔を歪めた。


「終わりだ」


「クソ……」


 優勝候補の一人であるセキロウ族のアコアンはほとんどなすすべもなく人間に倒されてしまった。

 この大会に何かが起こるかもしれない。


 そんな風に感じたオオグマは顔をしかめていた。


「フゥー! ジケくーん! すてきー!」


 頭を木剣で思い切りぶん殴られたアコアンはステージ真ん中で大の字になって倒れている。

 ジケの勝利に歓声が上がることはなく、ピコやユディットとユダリカだけが喜んでくれていた。


 ここでジケに対して何かを言うものはいない。

 なぜならジケを貶めればジケに負けたアコアンも貶めることになるからである。


 それに今回は確実にアコアンが悪かった。

 油断して受けた一撃の時点で勝敗は決してしまっていた。


 ステージが降りるジケを見送り、気絶したアコアンは担架で運ばれていって観客席からはため息が漏れた。


「ジケ君強い!」


 まさか優勝候補を倒してしまうなんてとピコは興奮している。


「あいつバカだね。ジケに対して油断すんなんて」


 ユダリカは盛大にため息をついた。

 ジケはどんな時でも勝機を見つける。


 隙は見逃さないしチャンスは作り出す。

 アコアンがジケのことを見下しているのはユダリカとしても気に食わなかったが、ジケがそれを利用してあえて何も言わなかった事も理解していた。


 相手の意図も力も見抜けずやられてしまったのだから何が優勝候補なんだとユダリカは思う。


「まあ、あれは運が良かったよ」


 油断してくれて楽に倒せるならそれに越したことはない。

 一人大きなライバルが減ったのだし、お得な戦いであったとジケは笑顔を浮かべる。


「ごほーびです」


「あんがと」


 ピコが串焼きを差し出したのでジケは受け取って食べる。

 一回戦は勝ち抜いたので二回戦になるまでジケの出番はない。


 ようやく少し落ち着ける。

 ジケの戦いで会場に微妙な空気は流れたものの次の試合が始まるとすぐに熱気を取り戻し始めた。


 アコアン以外の優勝候補であるソウコ族のトラノスやコウユウ族の青年ノボリは順当に勝ち上がった。


「お疲れ様、ユディット」


「会長のようにあっさりと、とはいきませんでしたね」


 流石に予選を勝ち上がっただけあって質の低いはかなり減っている。

 ユディットの相手もユディットには敵わなかったが相当粘った。


 結果として一撃も喰らわなかったけれども体力的にはだいぶ削られて、ユディットも汗をかいていた。


「おつかれ!」


「私にご褒美は?」


「ナイヨ」


「……そうですか」


 ピコはジケには串焼きを渡していたのにユディットにはなかった。

 別に串焼きもらえなくとも何も思わないがうっすらジケとの差別を感じる。


 しかしジケが相手ならば仕方ないかとユディットは思った。


「あれ、あの人は?」


 ユディットの次の試合でステージに上がった人は白かった。

 ミミや尻尾の形、それに色がナルジオンに似ているなと思った。


「あの人もハクロウ族だよ。でもまだ優勝候補ってほどじゃないかな? 優勝候補の候補……って感じ?」


 ジケよりは年上そうだけどトラノスやノボリよりは年下そうなハクロウ族の子は両手に短めの剣を持っている。

 双剣使いのようだった。


「始め!」


「はあっ!」


「あっ、女の子なんだ」


 見た目で判断できなかったが声でハクロウ族の子が女の子であることがわかった。


「ナルジオンの関係者か?」


「えーとねナルジオンさんのお姉さんの子供だよ。ナルジオンさんの娘さんのハビシンとトシェパは仲がいいはずだよ」


「ふーん」


 ジケはトシェパのことを見る。

 鬼気迫る勢いで相手を攻め立てていて、反撃の隙を与えない。


 ミュコの双剣術よりもかなり攻撃的である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ