のんびり観戦中
子供と大人の女性の予選会は一日で終わったけれどまだ大人の男性の予選会が残っている。
予選にしろ本戦にしろ赤尾祭のメインは大人の男性の戦いである。
子供と大人の女性の予選会が終わって、大人の男性の予選会は次の日となった。
人の数でいえば子供が一番多く、次に男性で、女性が一番一番少ない。
男性も五人が一グループとなって予選を戦う。
「モグ……あそこのグループは特にいないかな」
戦うわけではないけれどこれから何かをするのに人を知っておけば使えるかもしれない。
ピコに情報を教えてもらいつつ男性部門の観戦をしていた。
子供は経験だったり記念だったり、親に言われて仕方なくという子も少なからずいる。
そのために負けてもある程度許される雰囲気がある。
もちろん本気の子も多いので緩い空気ではないが、人によって空気感が違う。
男の子も女の子も関係ないので全員が全員高いやる気とはいかないのはしょうがない。
一方で大人の男性部門はみんな本気である。
負けられない、プライドをかけた本気の戦いが予選会から繰り広げられている。
木製の武器を使っていても死人が出るのではないかと心配してしまうほどの勢いで戦う。
こんなことやっているから獣人は強いのだなと妙な納得もしてしまう。
「モグモグ……」
「美味いか?」
「んまい!」
赤尾祭はお祭りでもある。
広場は完全に戦いの会場となっているので広場の入り口に繋がる太い道には屋台のようなお店がずらっと並んでいた。
食べ物だけじゃなく物を売っていたりちょっと遊べるものがあったりとさまざまだが、ただ見てるじゃつまらないと屋台の食べ物を色々買い込んで観戦しているのだ。
相変わらずよく食べるピコは観戦よりも食べる方が好きなようである。
「ん、あの人はオオグマさん。ヒコクグマ族の族長さんだよ。強い人で……ちょっと怖い人」
ステージに上がったのはかなり大柄の男性だった。
獣人も部族によって体格が様々あるのだけどオオグマは中でもデカい方である。
オオグマが肩に担ぐようにして持っている武器は木製のハンマーだった。
どの方向からでも殴れるメイスのような形をしているが、サイズはメイスなんかよりもはるかに大きい。
「始め!」
戦いが始まると他の獣人が一気にオオグマに向かった。
つまり一番警戒すべき相手はオオグマであるとみんなが思っているということになる。
「笑止!」
オオグマが木製のハンマーを振り上げた。
風を切る音が聞こえてきそうな勢いのハンマーは一人の獣人のガードをそのまま打ち砕いて空中に跳ね上げるほどの威力があった。
「わぁ……」
「圧倒的だな」
決して軽そうではない獣人の頭を鷲掴みにして持ち上げ、地面に叩きつけるなんてとんでもないパワープレーである。
オオグマは一撃も喰らうことなく見せつけるような力で全員を倒してしまった。
「でもね……」
ピコは周りの様子をキョロキョロと確認してからジケの耳に顔を寄せた。
「オオグマさん、二回ナルジオンさんに挑んで二回とも負けてるんだ」
オオグマは赤尾祭でも優勝したことがある実力者である。
優勝のお願いとしてナルジオンとの直接対決を望んだのだけど、これまでの成績は二戦二敗であった。
「ヒョッ!?」
オオグマがジケたちの方を睨んでいてピコはジケの後ろに隠れた。
負けたことを口にしたのがバレたのかとピコは思っているが、オオグマは単純に人間を睨みつけているだけだ。
「ナルジオンは出ないのか?」
「出ないよ。今一番強いのがナルジオンさんだからね、モグ……」
「そういうもんなのか」
ジケの影でピコは串焼きを頬張る。
たとえ睨まれようと温かいものは温かいうちに食べるのだ。
「あの人は……」
「有翼獣人、ソクオウ族のカンムさんだよ」
翼の生えた獣人がステージに出てきた。
これまでツノとかミミとか尻尾とかはあったが翼はなかった。
翼の生えた獣人もいるのかとジケは驚いてしまう。
「翼が生えた獣人の人たちはあんまりここら辺に多くないんだ。寒い地域で押し込められるように生きることを嫌がって移住しちゃったからね。ソクオウ族は今も残って数少ない有翼獣人なんだ」
翼があればある程度移動は自由になる。
わざわざ人間に睨まれるように北の地に留まることはないと考えた有翼獣人は昔まとめて移住してしまった。
ソクオウ族というのはそうした考えに同調せず他の獣人と共にあることを選んだ部族だった。
「ただ割と戦争推進派の部族だよ」
「ふーん……翼があるのカッコいいな」
その後も大人の男性に出場している人で有力部族や部族会の人なんかを教えてもらいながら観戦を続けた。
ちなみに情報収集のためにオツネも赤尾祭に参加していた。
ピコに良いところを見せるのだとひっそりとやる気を燃やしていたのだけど、ピコが食料の買い足しに行っている間にあっさり負けてしまったのだった。




