表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1029/1257

予選会3

「ピィッ!」


「あっ……」


 戦いは順調に進んでいた。

 ピコはあくまでも気絶を装って倒れていたのだけど、一度戦いの最中で尻尾を踏まれて小さく悲鳴を上げていた。


 痛かったのかピコは体をわずかに上げて尻尾を自分の体の下に隠していたのであった。


「怪我はないか?」


「尻尾踏まれた……ピコちゃんの尻尾踏むなんて……」


「まあ平気そうだな」


 結局戦いはグループの中でも一番年上そうな子が勝ち残ることになった。

 ピコは華麗にリタイヤしたつもりだったのに予想外に尻尾を踏まれて不満そうである。


 ただ怪我はなさそうなのでそこは安心した。


「おっと……次は俺の番か」


 試合が進んでジケの番となった。


「んー、警戒すべきはあの茶色い子かな。チャビョウ族の子で動きが素早いよ」


 少し登場を遅らせてピコに警戒すべき相手を聞く。

 三角のミミに細くて長い尻尾の茶色い毛色の青年が中でも強いようだった。


「じゃあ行ってくる」


「お気をつけて!」


「頑張ってよ!」


「ピコちゃんも応援するからね!」


 みんなに見送られてジケはステージに上がる。

 ステージに上がる際に武器を選べるのだが、武器も色々あった。


 剣や槍といった武器の種類だけでなく重さやサイズまで様々である。

 もちろん選んだ武器は剣だった。


 ジケでも振りやすい重さの普通の剣である。

 なんだかんだ普通が一番やりやすい。


「……人間!」


 ステージに上がったジケを見て獣人たちが驚いた。

 来ていたローブを脱いだジケの姿にステージだけでなく、周りで見ている観客たちにもざわめきが広がる。


 人間が参加しているという噂は広まっていた。

 しかしそのピークはかなり早い段階で訪れていて、赤尾祭直前の人が集まる時期になると人間がいるという話は下火になって優勝は誰かという話題で持ちきりになっていたのである。


 だから直前になって集まった人の中には人間がいると知らない人もいるし、くだらない噂だと一蹴した人もいた。

 ミミも尻尾もないジケはどこからどう見ても人間で、なぜこんなところに人間がいるのかとざわつく。


 参加している人の反応を見ると半分ぐらいは人間がいたと知っているようだが、残りの半分は知らなかったみたいである。

 目立たぬようにフードを被ったまま戦うことも考えたけれども、万が一負けた時にも人間がいたことをナルジオンに印象づけておけば後々何かに使えるかもしれない。


「始め!」


 獣人たちの困惑をよそに予選の戦いが始まった。

 人間をどうするべきかまだ獣人たちは決めかねていて、これまでの戦いのようにすぐに動き出した人は少なかった。


 この際なら戦いでも目立っておこうとジケは一番近くにいた獣人に迫った。


「ぐほっ!」


 ジケよりも年上っぽそうな子ではあったが、ためらいのないジケの一撃を防ぐことはできずに木剣で殴り飛ばされる。


「人間を狙え!」


 人間が予選を突破なんて許せない。

 獣人たちは一気にジケを敵とみなして襲いかかった。


「バカねぇ……」


 グルゼイとキノレに挟まれて観客席に座るエニはため息をついた。


「グェッ!」


「なっ……!」


「フギャッ!」


「協力するならまだしもそんなふうにしたってジケは倒せないよ」


 残り八人の獣人がジケに攻撃を仕掛ける。

 ただお互い協力するわけでもなくそれぞれで襲いかかったのだ。


 むしろ混戦は望むところだとジケは思っていた。

 魔力感知を使えるジケはたとえ混戦の中でも周りの動きが見える。


 他の人たちはジケしか見えていないけれど、ジケはそれぞれの動きを把握して動く。

 攻撃をかわして他の獣人に反撃を繰り出す。


 身を引いて攻撃を回避するとその攻撃が別の獣人に当たって共倒れになる。

 ジケを倒そうという考えの一致はあるが、全員がバラバラなのでジケはそれを利用した。


「どりゃっ!」


 厄介な相手は先に倒しておくに限る。

 混戦を利用してジケはピコに強そうだと言われたチャビョウ族の青年のアゴを剣で殴り上げた。


 容赦ない攻撃にチャビョウ族の青年はそのまま気を失って倒れた。


「強いねぇ〜」


「そうでしょう? 我が主君ですからね!」


「俺の友達だからな!」


「どうして君たちが自慢げなの?」


 夜道での襲撃ではイマイチジケの強さも分かりにくかった。

 だが九人の獣人を相手にする今のジケを見れば強さは分かりやすい。


 思わず感心してしまうピコに対してなぜかユディットとユダリカが誇らしげにしていた。


「くそ……なんで人間が……」


 気づいたらステージの上にはジケを含めて三人しか立っていなかった。

 全員でジケに襲いかかったのに誰一人としてジケに攻撃を当てられなかった。


「人間に負けられるか!」


 不利は悟りつつも残り二人の獣人はジケに切りかかる。

 人間に対して降参するなど選択肢にはない。


「ふっ!」


 二人の獣人とジケが交差した。

 まるでただジケは通り抜けたようにピコには見えたが、通り抜ける時にしっかりと攻撃を叩き込んでいた。


「……し、試合終了……」


 二人の獣人が倒れてステージに残るはジケ一人となった。

 審判が戦いの終了を宣言したけれど拍手をしていたのはピコたち三人だけであった。

私が別で公開しております『ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした』が「D&C media×Studio Moon6×小説家になろう第1回WEB小説大賞」様で銀賞をいただきました!


よければ読んで評価でもいただけましたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ