予選会2
「思っていたよりも若い感じがあるな」
もっと年上の感じを想像していたので若く感じられた。
お兄さんというにはもう少し年がいっているけれどおじさんというには若いぐらいの間の見た目をしている。
お兄さんというよりもアニキという感じだろうか。
それでいながら子供がいてもおかしくはないぐらいに見えるのだからまた不思議である。
「まあルシウスさんも若いしな……」
ジケの頭の中にはウルシュナの父親であるルシウスの姿が思い出されていた。
なんだかんだウルシュナというそれなりに大きな娘がいるのにルシウスの見た目も若々しい。
ルシウスに限らず元気に活動している人はだいたい若い感じがある。
「ん?」
ジケはほんの一瞬だけどナルジオンと目があったような気がした。
あまりにも短い時間の出来事で確認のしようもない。
「これから赤尾祭を始める。力の限り戦い、己を証明してみせろ。血がたぎる戦いを期待している!」
しっかりと会場中に聞こえる声はとても凛々しさがある。
「あら? もう終わりなのか?」
「ナルジオンさんの挨拶は毎回短い傾向にあるね。ただ今回はその中でもかなり短いと思う」
「まあ長々と挨拶されるよりはいいか」
本当なんでも頭に入っているのだなと感心してしまう。
短く開会の宣言を述べたナルジオンはさっさと引っ込み、立派なツノを持つ大柄な男性が代わりに出てきた。
毛色は緑色で全身が鎧のような分厚い筋肉に包まれている。
「リョッカク族だよ。部族会のカジカさん」
サラッと誰なのか説明してくれるのはとてもありがたい。
「今回の赤尾祭は人が多い。良いことだが……皆が戦っていては次の赤尾祭が始まってしまうかもしれない。よって予選会を行う!」
ピコの予想通り人が多いので予選会が行われることになった。
実際いつの間にか人はかなり増えてステージに乗り切らないほどにいる。
絞らずに戦えば相当な時間がかかってしまうだろう。
予選会は十人一組となってまとめて戦う集団戦であった。
ただ最後の一人だけが予選突破ではなく、実力を示せば二人でも三人でも突破できる可能性があるようだ。
「はっはー! やる気のないやつは帰りな!」
ステージ周りにもずらっと参加者が並ぶ中で予選会が始まった。
大きなステージの上には登録の時にもらった札の数字や文字によって分けられた十人の人が上がり、合図とともに一斉に戦い始める。
今ステージ上で戦っているのはセキロウ族の青年だった。
名前をアコアンというらしく、名前が上がるだけあって他の獣人の子よりも頭一つ抜きん出て強い。
他の獣人の子も自然と協力し合うような形でアコアンと戦おうとしているが、全く歯も立たずにやられていってしまった。
赤尾祭は武を競うことが目的であって相手を殺傷することが目的じゃない。
獣人が本気で戦えば怪我は避けられないが、死ぬことは避けたい。
そのために武器も木製のものが与えられる。
ただアコアンは最初に武器をステージの外に放り投げてしまって素手で戦っている。
「強いな」
「そうですね。当たると厄介かもしれません」
また一人殴り飛ばされてグッタリと気を失う。
「そこまで」
「へっ! 今回は俺が優勝をいただくぜ!」
審判となる獣人が試合を止めた時にステージ上で立っているのはアコアン一人だけであった。
赤尾祭で簡単に優勝できるだなんて考えてはいなかったけれど、アコアンだけでもかなりの実力がある。
せめて予選会は勝ち抜きたいが対戦相手によってはそれすらも大変そうだ。
「それじゃあ行ってくるね!」
ジケたちよりも早くにピコが呼ばれた。
「怪我するなよ?」
「任せなさい!」
散々弱いとピコは自分でも言っている。
ジケのためにこの場にいるのでせめて怪我はしないようにとジケは心配そうな顔をする。
対してピコの方は謎の自信に満ち溢れていた。
なんの自信なのかは知らないけれど、作戦があるのだろうと見守る。
「始め!」
ステージにピコを含めて十人の獣人が上がった。
みた感じ割と年齢の低い子が多くてアコアンほど圧倒的そうな人はいない。
アコアンの時と違って特定の相手を狙うこともなくわっと乱戦になる。
「えっ?」
「……ははっ、なるほどな!」
最初の読み合いで一度それぞれごちゃごちゃに入り混じった。
相手が近くてもまた戦いにくい。
どうなったのか状況が分からなくなって、みんながそれぞれ少し距離を取る。
すると二人の人がもうすでに倒れていた。
そのうちの一人がピコであった。
けれどもジケは見ていた。
ピコは誰かにやられて倒れたわけではないことを。
ピコが心配だったジケはピコの動きを目で追っていた。
混戦の最中で目立たぬように動いたピコは人が集まって周りから見えにくくなる場所を狙って移動し、何もされていないにも関わらず倒れたのである。
「ピコちゃん秘伝の死んだフリ……」
巧みなものだとジケは笑った。
気づいた人はほとんどいないのではないかと思う。
上手く周りの目を欺いて誰かにやれたように装った。
ついでに他の子も一人やられていることでピコの演技を疑う人もいない。




