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獣人も獣人で色んな人がいる2

「とりあえず明確なのはね、戦争反対派、穏健派のハクロウ族とリョッカク族。戦争推進派のヒコクグマ族とホンドリ族、中立派のセキロウ族、ソウコ族、コウユウ族だよ」


「コウユウ族は反対派じゃないのか?」


「戦争したいってわけじゃないけどダメっていう立場でもないんだ」


 ヒコクグマ族とコウユウ族の立場は違う。

 だからといってコウユウ族が戦争反対派なわけでもない。


 必要があれば戦争もやむを得ない考える人も獣人の中には多い。

 コウユウ族は今の所戦争を推し進める理由はないので戦争推進しないだけで中立的な立場であるのだ。

 

 これらの部族の中でもハクロウ族は明確に戦争に反対していて、ヒコクグマ族は戦争を推進しようとしている。

 多くの部族が中立的な立場でどちらにも転びうるし、部族内でだってさまざまな意見が分かれている。


「リョッカク族ってのはハクロウ族と近いのか?」


「反対派として仲が良いはずだよ」


「なるほどな」


 ハクロウ族だけでなくリョッカク族とやらも接近候補になりそうだ。


「他にハクロウ族に近い部族はないか?」


「ハクロウ族……そういえばなんだけど」


「ん? なんだ?」


「ジケ君って、戦争止めにきたんでしょ?」


 細い目の奥の瞳がジケを見つめる。

 やはりピコは頭がいい。


 ピコに対して特別隠しているわけではないが、ヴィルディガーに来てからジケはその目的を口に出して言うことはなかった。

 それでもピコはジケの目的を見抜いた。


 ゆるそうな雰囲気が目立つけれど、時としてとても油断ならない目をすることがある。

 今でもいい情報屋だがさらにいい情報屋になりそうだ。


「ピコちゃんは何派だ?」


 バレたならしょうがない。

 今更嘘をつくつもりはなかった。


 ただピコが戦争推進派なら少し面倒なことになるかもしれない。

 戦争を止めようとしているジケに対してどんなアクションを取るのか分からない。


 ジケを止めるかもしれない。

 戦争推進派に何か働きかけるかもしれない。


 あるいは情報を流すことをやめるかもしれない。

 またあるいはお金を払うならそのまま関係を続けることだってありうる。


「ピコちゃんはね……戦争反対派だよ」


 ピコはにっこりと笑った。


「戦争なんて始まったら誰が他の人の情報なんて買いに来るのさ?」


 ピコは情報屋であるけれど、その情報とは獣人の情報を売っているのである。

 人間の情報を調べたり仕入れて売っているのではない。


 戦争になってもピコの手元には戦争に使える情報などない。

 むしろ戦争になってしまえばピコが持っている他の獣人の情報なんて活用する人はいなくなってしまう。


 そうなればピコは困ってしまうことになる。


「それにピコチャン弱いからね!」


 フンスと鼻息を吹き出しながらピコは胸を張る。

 ジケは一つ尋ねたことがあった。


 ピコは赤尾祭には出ないのかと。

 するとピコは笑って出ないと答えた。


 なぜならピコは弱いからだった。

 同年代の子に比べてもはるかに実力的に劣る。


 ピコ自身もあまり戦いは好きではない。

 獣人として戦う鍛錬はしたものの自分は性格的にも能力的にも闘争に向いていないのだと自覚していた。


 獣人たちがどう思うかはさておき、ジケは戦いが苦手な獣人がいてもいいじゃないかと思う。


「戦争になったら私は戦えない。お父さんもそんなに強くないし……色んな人のこと知ってるから死んじゃったら悲しいよ」


 ピコのミミと尻尾がしょんぼりする。

 仮に戦争になったら情報屋として困るだけではない。


 戦争になったら戦いに動員される。

 ピコは戦争になってもまだ子供だから動員されることはないだろう。


 しかし父親であるオツネは戦いに連れていかれるかもしれない。

 さらには情報屋として色々な人のことを知っているし、情報を得るためにも色々な人と仲良くしている。


 誰も死なない戦争なんて夢物語である。

 誰かは傷つき、誰かは死んでしまう。


「誰かが死んで、それが名誉なんて私には分かんないよ。だから誰も死なない方がいいんだ」


 戦いの中で死んでもそれは名誉であると獣人は言う。

 確かに勇敢に戦ってその結果に死んだのなら名誉なのかもしれないけれど、ピコにとっては名誉なんかよりも生きててもらう方がよかった。


「……ピコは優しいんだな」


 他の獣人が聞いたら獣人らしくないと怒るかもしれない。

 しかしジケはピコの考えが好きだった。


 優しくていい考えだ。

 目を細めて笑ったジケはピコの頭を撫でた。


 あっ、と思ったけど無意識に手を伸ばしてしまっていたのだ。

 けれどもピコもピコで頬を赤らめながらジケの手を受け入れるようにミミを開いて畳んだ。


 尻尾もゆらゆらと揺れている。

 ピコも戦争反対派なだけでなく誰かが傷つくことまで嫌がるのは少数派であることは理解していた。


 それをジケは優しいという優しい言葉で誉めてくれた。


「戦争……止められるの?」


「分からない。でもやるだけやってみるさ」


「そのために赤尾祭に?」


「そうだよ。ナルジオンに会いたいんだ」


「……このピコちゃんもジケ君に協力する。だから……頑張って!」


「ふふ、頑張るよ」


 心強い味方であるとジケは思う。


「またコイツ……」


「あれ、大丈夫なんですか?」


「大丈夫じゃないけどいつものことです」


 ニコニコ顔のピコを撫でるジケをエニが怖い顔で見ている。

 ユダリカは後々ジケがやられるのではないかと心配になるが、ユディットは達観したような目でそんな様子を見ていたのであった。

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ピコちゃん陥落
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