獣人も獣人で色んな人がいる1
「ん……」
襲撃された次の日、ジケは少し長めに休んでいた。
戦って疲れているというわけではないけれど、慣れない雪の中を歩いてきたここまでの道のりは過酷であった。
知らない間に疲れが溜まっている可能性もあるので休める時に休んでおこうとのんびりしていたのである。
基本的には過去の貧乏な時の習慣で抜けていないところも多く、多少のことでは動じないジケであるが少し困ったことがある。
毛皮のベッドは手触りも良くてそこそこ快適だ。
ただどうしてもジケは比べてしまう。
お家で使っているベッドと宿のベッドを。
もっといえばアラクネノネドコと比べてしまうのだ。
アラクネノネドコだったらもっと快適に休めたのになとついつい思ってしまう。
これは悪い癖がついたものだ。
「けど毛皮も悪くないな」
手触りはすごく良い。
ふかっとしていて暖かく、滑らかな柔らかさがある。
「アラクネノネドコに毛皮貼り付けたらどうだろうか……」
暑い時期には向かないかもしれないが寒い時期には毛皮張りアラクネノネドコは良い寝具になるかもしれないとジケは考えた。
「よいよいよーい」
「……何してるんだ?」
ジケが寝ているからそっとしておいてくれたのか部屋に誰もいなかった。
隣の部屋に行ってみるとみんながいた。
なぜなのかピコまでいたのである。
襲撃に遭ったこともあるし赤尾祭まではジケたちのところに来なくていいと言ってあった。
その間の料金も払うから安全に過ごしておいてくれればいいと別れたはずなのに部屋でフィオスと遊んでいた。
ピコは手で体の一部を伸ばしたフィオスを掴んでプルプルと揺らして遊んでいる。
フィオスの感情としては楽しいらしいが、またしても不思議な遊びをしているものだ。
「遊んでる!」
「まあそうみたいだな……ただ俺が聞きたいのはそっちじゃなくてピコちゃんの方だな」
「私?」
「来なくてもいいって言っただろ?」
「ふっ、あんなことがあったからとピコちゃんが怖気付くと思ったかぁ!」
ピコは鼻息荒くジケの顔に向けてフィオスを突き出す。
「別に思っちゃいないけど」
ジケはフィオスを取り上げる。
伸ばしてたところが戻って獣人たちのケモミミのような形になっている。
「ピコちゃん、くやしゅーて」
「悔しい?」
「何もできなかったし、私を送ったせいで襲われたから……」
ピコはミミをペタンとさせてしょんぼりしている。
帰る時間が遅くなったのはピコが調子に乗って色々と案内したせいもある。
わざわざピコを送り届ける必要もなかった。
「それにこのピコちゃんをビビらせた罰は受けてもらわないとね!」
怖気付かないなんていうけれど、やっぱりビビっていた。
「あいつらのことは分かってる! 情報垂れ流してやる!」
罰を受けてもらうと言ってもピコが直接何かできるわけでもない。
できることといえば知ってることをジケたちに教えることくらいである。
それでジケたちのためになれればピコにとっての復讐成功なのだ。
「部族会についてまだ話してなかったね?」
「そういえばそうだったな……」
赤尾祭に参加する人の話を聞いて、それでひとまず話は終わってしまっていた。
「昨日のあいつらはヒコクグマ族だよ」
「ヒコクグマ族……」
襲撃してきた獣人は倒した後寒さでやられないように一カ所に集めておいてやった。
顔を隠していた布も外して顔を確認した。
当然ミミも見たのでピコは獣人たちがどこの部族なのか把握していたのである。
「コウユウ族とは親戚って感じの関係なんだけど、コウユウ族が温厚な一族だとしたらヒコクグマ族は、過激派」
「過激派……」
「うん、今のコウユウ族は争いに慎重なんだ。赤尾祭なんかのお祭りとか部族の中でルールに則ってやる分にはいいみたいだけど命を奪うような戦争に賛成はしてない。でもヒコクグマ族はむしろ戦争をして獣人の力を思い知らせてやるべきだって考えてる。だからコウユウ族とヒコクグマ族はあんまり仲良くないんだ」
似たような特徴を持つ部族は遠い血縁関係にあることも少なくない。
コウユウ族とヒコクグマ族は元を辿っていけば遥か昔は同じ部族なのである。
ただし今は違う部族であり見ている方も違う。
ヒコクグマ族は過激派とも呼ばれるほどに戦争を主張するけれど、コウユウ族はヒコクグマ族に同調せず中立的な立場をとっていた。
ヒコクグマ族はコウユウ族のことを腑抜けと呼んで非難し、コウユウ族はヒコクグマ族のことを血を見たいだけの馬鹿だと呼んだ。
「どっちの部族長も部族会だよ」
部族会も意外と数がいる。
昔は部族会なんてものもなく、できた時も獣人の中で強い人が意見をうかがうだけの弱い組織だった。
今では部族も増加して部族会入りをする部族も昔に比べ増えているのだ。
「派閥も明確じゃないところがあるしね」
人間との戦争に対してのみ考えても思惑はさまざまだ。
賛成反対というだけではなく、中立な立場もある。
さらにそれぞれの立場の中を見ていつまでもどれだけ賛成で、どれだけ反対なのかというところもグラデーションのように曖昧に分かれている。




