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人間嫌いな獣人もいるよね2

「この町で今人間が消えても気にする人はいない」


 獣人の男は剣を抜く。


「町中で暴力沙汰はいけないんじゃないか?」


「人間が襲われたからと騒ぐ奴はいないだろう」


「……誇り高き獣人が聞いて呆れるな」


「何だと?」


 獣人の男は少し怒ったような目をする。


「卑怯だろ? こんな夜に顔を隠して襲撃するなんて人間にも劣るな」


「この……言わせておけば……」


 獣人の男から分かりやすく殺気が溢れ出す。


「屋根から来るぞ。二人だ。一人任せた」


「分かりました」


 獣人の男に聞こえないようにユディットに襲撃を伝える。

 ジケは魔力感知で周りの獣人の動きを把握していた。


 二人が屋根の上からジケたちを狙っていることももちろん分かっている。


「来るぞ! ピコ、頭下げてろ!」


「へっ、ふい!」


 困惑したようなピコであったがジケの言うことを聞いて素早く頭を抱えるようにして地面に丸くなった。

 非常に判断が素早くて素晴らしい。


 屋根から二人の獣人がジケたちに向かって飛びかかってくる。


「ユディット、殺さないように」


「了解です!」


 殺してしまうのは難しくない。

 しかし後々責任を追及されても困るので殺さないようにしておく。


「フィオス! 槍だ!」


 ジケは抱えていたフィオスを軽く投げ上げて槍の形になってもらう。


「なっ……!」


 相手は自分の居場所がバレないようにと明かりを持っていない。

 明かりはユディットが持っているものしかなく、場は総じて暗い。


 ジケの手に急に槍が現れて襲いかかってきた獣人は驚く。


「おりゃ!」


 長めに持った槍を突き出すとたとえ子供の腕の長さであってもリーチはジケの方が長くなる。


「グフッ!」


 槍が獣人の腹に当たる。

 自身の落ちてくる勢いも相まって相当な衝撃を受けた獣人はそのまま気を失った。


 普通の槍にしていたなら腹を貫通していたところだろうが、ちゃんと殺さないように先は丸くしてあるので最悪骨が折れたぐらいだろう。


「そっちも大丈夫そうだな」


 ユディットの方は剣を鞘ごと抜いて相手を殴り倒していた。

 剣を抜いてしまっては手加減も難しいので良い判断である。


「残り四人……ユディット、ピコのそばで守ってやれ」


「承知いたしました。お怪我なさらないように。私もエニさんに怒られてしまうので」


「気をつけるさ」


 姿を見せた獣人の男を含めて敵は四人。

 闇夜に紛れて機会を窺っているけれどジケにはもう姿が見えている。


「なに……逃げた?」


 突然走り出したジケを見て一人だけ逃げ出したのだと獣人の男は思った。

 けれど明かりのない闇の中に行かれると追いかけることも簡単ではない。


「ならば先にあいつを……」


 ジケは明かりを持っていない。

 逃げて仲間を呼ぶつもりなのかもしれないが暗い中では帰るのも精一杯だろう。


 先にしっかりとユディットを倒してしまえばいい。

 そう思った獣人の男はユディットを襲撃するよう指示を出そうと軽く手を上げた。


「うわっ!」


 その瞬間悲鳴が聞こえてきた。

 ジケのものではなく、仲間の声で獣人の男の手が止まる。


 息を潜めているはずでそう簡単には声なんか漏らすことはしない。

 なのになぜ叫んだのか。


「あいつをやってしまえ!」


 再び静寂が場を支配して、獣人の男は指示を出した。

 自身も剣を手にユディットに迫る。


「ギャッ!」


 ユディットに向かって走る獣人の男の耳にまたしても叫び声が聞こえてきた。

 闇の中から聞こえてきた声に状況が全くわからない。


「闇に紛れて襲撃する卑怯な作戦は悪くないと思いますよ」


 ユディットは獣人の男の剣を受け止める。


「ただ相手が悪かったですね!」


 そんなに力も強くないなと思いながらユディットは獣人の男を弾き返す。


「……なぜ誰も来ない!」


 続け様に他のやつがユディットに襲いかかる想定をしていた。

 しかし闇の中からユディットに攻撃する人は一人もいない。


「…………まさか」


 ようやく獣人の男は先ほど聞こえた悲鳴の正体に気づいた。


「闇に強くないのに明かり使わないから」


 ズルズルと音が聞こえてきた。

 ランプの明かりに照らされてジケが現れる。


 片手にはスライムに戻ったフィオスを、もう片方の手には気絶した獣人を引きずっていた。

 悲鳴は二つ、一人はまだ無事だろうと思っていたのにもうすでに三人倒されていたのだ。


 獣人の男は動揺を隠せず一歩後退りする。

 逃げたと思っていたジケはもちろん逃げてなどいなかった。


 ジケの前に闇などないに等しい。

 自分たちの居場所がバレないように明かりを消して息を殺していた獣人たちは迫ってくるジケに気づくこともできずに倒されてしまったのである。


 あまりにもお粗末であるが、ジケが相手だったからこそこんな結末を迎えたのだとも言える。


「ユディット」


「分かりました」


 残った獣人の男の相手はユディットに任せる。


「ピコ、大丈夫か?」


「あっ、うん……だいじょび……」


 敵が近づいてくることもほとんどなかった。

 リーダー格ではありながら正直一番弱そうだと思っていたジケの実力にピコも驚いている。


「こんなことになるとはな。夜に出歩くのは危なそうだ」


 ジケは軽くため息をつく。

 ピコは差し出された手を取って立ち上がる。


 その間にユディットは獣人の男のことをしっかりと倒していたのであった。

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