情報屋ピコちゃん2
「相手の名前や得意な戦い方なんてものが分かればいい。部族会の情報はそんなに難しくないだろ? 隠されているものじゃない」
ジケだって獣人が素手で戦うものばかりではないと分かっている。
槍を得意とする人と剣を得意とする相手ではやはり心構えは違うだろう。
そもそも赤尾祭の登録もみんな盗まれるのを嫌がってもっとギリギリに登録するものらしかった。
そんな常識すらジケたちは知らなかったのだ。
「ふーむ、それなら案内をつけようか」
ここは変に交渉したりからかったりしない方がいいとオツネも学んだ。
情報をまとめて渡すのはなかなか面倒だ。
赤尾祭に参加する人だけでもかなりの数になるしそんなリストを作っていられない。
ならば知っている人をジケのところに派遣すればいいと思いついた。
「私にも負けず劣らずの知識を持ってる者がいる。その子に聞けば人間さんが知りたいことは答えてくれるでしょう。どうですか、案内人雇うかい?」
「案内人か……確かにその方がいいかもな」
パパッと情報をまとめてもらえるかなと思っていたけれど、聞けば教えてくれる案内人がついてくれるならその方が楽である。
「情報代に加えて一日当たりの日当とご飯もお願いしますけど大丈夫? あとは……夜も必要なら宿に泊めてあげて。必要ないなら夜はうちに帰るようにもできるから」
「お金は問題ないよ。夜どうするかは……案内人の能力を見て決める」
「ふふん、それじゃあしばらく帰ってこないかな〜。少々お待ちを」
オツネは立ち上がると店の奥に消えていく。
後ろを向くとフサフサとした尻尾が揺られていて、ちょっと触ってみたいなとジケは思った。
二階から何かが降りてくる音が聞こえてきた。
「ピコ、仕事だよ」
「はいはい、父ちゃん」
案内人というのもこの店にいるようだ。
「あれ? ちっちゃく……あっ、違う」
店の奥からぬっと現れた人を見てエニはオツネが小さくなったと一瞬思った。
けれどもミニオツネの後ろからオツネも出てきて、ミニオツネはオツネでないのだなと気づいた。
「初めまして! コンコンコンピコ、情報屋のピコちゃんでっす!」
ミニオツネは両手をそれぞれ耳のところにかざす変なポーズをとって挨拶した。
「ピコ……おやめなさい……」
「えへへ……」
なぜなのかオツネの方が少し恥ずかしそうにしている。
「コンピコです。ピコちゃんって呼んでね!」
キツネミミの少女はサッとジケの手を取って握手する。
オツネとよく似ているが、オツネの怪しい細目も明るい少女となるととても可愛らしい特徴になってしまうから不思議である。
「コンピコさんね」
「ヤダ! ピコちゃんと呼んで!」
ピコは眉を寄せる。
想像していたような案内人とはだいぶかけ離れている。
「私の娘ですけども……まあちゃんと仕事はするよ」
「ピコちゃんにお任せ!」
「このこでだいじょーぶなの?」
「分からん。でも悪い子じゃなさそうだ」
モフモフの尻尾が振られている。
年はジケたちにも近そうだしダメなら案内人をやめてもらえばいい。
「それじゃあよろしく頼むよ、ピコちゃん」
「……はい!」
ジケがピコちゃんと呼ぶとピコは嬉しそうな顔をする。
こうしてジケは情報屋ピコちゃんを案内人として雇うことになったのである。
「ちなみにオウト族のレストランよりもツキノグマ族のレストランの方がオススメだよ!」




