情報屋ピコちゃん1
赤尾祭まではまだ少し時間がある。
そこでジケは情報が必要だなと思った。
あまりにも何も知らなすぎる。
バルディームが教えてくれることはあるけれども、基本的にバルディームは獣人側の人だしジケたちの味方ではない。
なんでも聞けば教えてくれるなんて思わない方がいい。
今現在獣人がどうなっているのか、どんな人が何派で権力を握っているのか軽く知る必要があるとジケは考えたのだ。
バルディームにお酒を贈って情報を取引できそうなところを教えてもらった。
ヴィルディガーの端にある怪しい古物商のお店にジケたちは足を運んだ。
札は盗まれると面倒なので全員分フィオスの中に入れてある。
安心安全のフィオス金庫である
道中盗もうと接触してきた人もいるが誰もフィオスの中に札があるとは気づいていなかった。
「いらっしゃーい……おやおやおやおや、珍しいお客さんだね」
店に入ると薄暗く、奥のカウンターに店主である獣人が座っていた。
やや細い目をしていて黄金色の毛色をしている。
耳は三角形で毛がふわっとしていて、チラリと見える尻尾もモフモフとしている。
バルディームに聞いた情報によるとアマコ族という部族が店をやっていて、いわゆる情報屋というものらしい。
店の中の棚にはよくわからない工芸品みたいなものが置いてある。
「情報が欲しい」
「おやおや……まっすぐなお方だね」
店主の獣人は驚いた様子もなく笑う。
「まずはお互いを知りましょう。ワタクシはオツネと申します。噂の人間さん、あなたのお名前は?」
「俺はジケだ」
「うーふふ、初めまして、ジケさん」
かなり独特な雰囲気を持った人だなとジケは思った。
敵対心のようなものは感じないが細い目の奥で観察されているような印象を受ける。
男性なのだが女性のような物腰の柔らかさも感じる。
あまり獣人では見かけない雰囲気だ。
「情報か……オススメの店ならここから少し行ったところにあるオウト族のレストランが良いよ」
「そうか、じゃあそこに行こう」
ジケが踵を返して店を出て行こうとする。
バルディームは困惑した顔をするけれどリアーネたちは全員なんてこともなくジケについていく。
「えっ、ちょ……!」
そして最も困惑しているのはオツネだった。
まさか本当にレストランを聞きに来たのではないことは分かりきっている。
なのにジケはレストランの場所を聞いて立ち去ろうとしている。
「なんですか?」
オツネに呼び止められてジケは立ち止まる。
「ほ、本当にレストランに行くの?」
目の奥の焦りを隠しきれていないなとジケは笑いそうになるのを堪える。
「そ、そうだけど……」
雰囲気はそれっぽいけど、オツネはまだまだだ。
交渉、押し引きのやり方というものをイマイチ分かっていないようである。
目の前にいるのが誰かもオツネは分かっていない。
子どもだからとからかったのかもしれないが人生二回目であり、新進気鋭の商会を率いる商会長なのである。
対してオツネも情報を扱う商人だろう。
しかしオツネの領域は獣人の中である。
獣人を悪くいうつもりはないが、やはり人間よりも獣人の方が正直者が多い側面がある。
ジケだってこれまで油断ならない人たちと口先でも戦ってきたのだ。
からかうならからかい返してみせる。
「変なお遊びはやめよう。それともこのままレストランに行った方がいい?」
「いや……悪かったよぅ」
ジケを相手にしたいならある程度の熟練は必要だ。
してやられたと気づいたオツネは少し落ち込んだように肩を落とす。
正直ジケを手玉に取ってやろうぐらいに思っていた。
頼むから情報が欲しいぐらい言わせるつもりだったのに完全に遊ばれてしまった。
「それじゃあ話に入ろうか」
やっぱり獣人相手では人間たちのような油断できない交渉というものも少ないのだろう。
ジケのことを知らなきゃいかにも手のひらで転がせそうに見えるのだから仕方ない。
「情報……何が欲しいの? 僕もみんなは裏切らないよ?」
流石に人間に対して獣人が不利になる情報を渡すつもりはない。
「そんなものいらないさ。俺たちが欲しいのは赤尾祭に関する情報だよ」
「赤尾祭の情報?」
「赤尾祭のルールとか、赤尾祭に誰が出て、どんな奴が強いか。あとは部族会のメンバーと派閥なんかが知りたい」
ジケたちはあまりにも知らなすぎる。
毎年赤尾祭に出ている獣人なら常識のようなことでもジケたちにとっては初めてのことが多い。
赤尾祭があると聞いてやってきたものの赤尾祭がどんなものなのか詳細については知らない。
戦うお祭りだということは把握しているがそれ以上はわかっていないのだ。
誰が強くてライバルになりそうだから警戒すべきとか、相手が狡猾な奴なら罠を警戒するべきとか敵を知るだけでもリスクは減らせることがある。
バルディームも有名な人は知っているけれど、赤尾祭に参加したこともないので知っている人は多くない。
赤尾祭を勝ち抜く上でやることやルール、対戦相手の情報は欲しいのである。
だから情報を買いに来た。




