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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十六章

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赤尾祭への参加登録3

「なんも平和的じゃないけどな」


 リアーネはため息をつく。

 スリとられるか守れるかなんてどこも平和的とは言えない。


「まあ暴力を用いないだけ平和的なんだろ」


 あまりボヤボヤしていると盗み狙いの人が増えてしまいそうだ。

 早く宿に戻ったほうが良さそうだとジケは思った。


「これが赤尾祭の最初の関門的に考えるとズルもできないな」


 どこで何を言われるのか分からない。

 ジケたちが変なことをしてまた苦情をつけられてもたまらない。


 札を狙われることが通常の状態であるなら正々堂々状況を受けれておくのがいいだろう。

 後々文句を言われる可能性は少しでも減らしておく。


「みんなちゃんと札守れよ?」


「盗まれなんてしないさ!」


「盗れるもんなら盗ってみろ」


「札も会長もお守りします!」


 それぞれやる気を見せる。

 本当ならどこかで食べ物でも買っていくつもりだったがまずは一度宿に戻ることにする


 札は各々に任せる。

 盗まれたら盗まれたで仕方ない。


「俺から盗むのは……無理かな」


 ジケも盗まれないように対策を講じる。

 フィオスの中に札を突っ込むとフィオスは札を金属で覆って隠す。


 四角い金属の塊を体の中に入れた変なスライムとなったけれど外から見ても札が入っているとは思えない。

 仮にバレたとしてもなんでも溶かすなんて話が割と有名なフィオスの中に手を突っ込むバカはそういない。


 さらにフィオスそのものが盗まれてもまた召喚すればすぐに手元に戻ってくる。

 鉄壁のフィオスガードである。


 加えてフィオスが全身金属化すれば手を突っ込むことすらできなくもなる。

 リアーネは適当に懐に札を入れているが、ユディットは盗まれないようにと服の奥深くに札を入れていて、ユダリカはずっと手に握っているつもりのようだ。


「よし、行くぞ」


 ジロジロと見られる中ジケたちは広場を出発した。

 宿まではそう遠くない。


 普通に考えて札を盗まれる可能性はそんなに高くないはずだ。


「おっと、すまない……」


 早速リアーネにわざとらしくぶつかってくる獣人がいた。


「ふん、早速かよ」


「いででで!」


 リアーネはぶつかってきた獣人の腕を掴んでひねり上げる。

 その手にはリアーネの札が握られていた。


 ほんの一瞬ぶつかっただけなのに巧みな早業である。

 それを見抜いたリアーネも流石である。


「こちとら孤児院出だからな。スリの手口ぐらい把握してるさ」


 貧乏孤児院出身だと多少悪いこともする。

 リアーネも人のサイフをスリとったことがあり、シスターにバレてとんでもなく怒られたことがあった。


 以来スリはやっていないが貧民に近いところで生活していたのだ、逆にスリにあうことも経験している。

 リアーネは目もいい。


 多くの場合でスリをしっかりと見抜いて防いできたし、見抜けなかった時は悔しくてスリの手口を学んだこともある。

 だから今回もリアーネは自信満々だった。


「返しな」


「チッ……」


 リアーネは獣人の手から札を取り戻す。


「やっぱりこんな感じなんだな」


 ジケの予想通りみんな札を盗もうと狙っている。

 もし何も知らずにそのまま帰っていたら今頃みんな失格になっていたかもしれない。


 受付の獣人の言葉の違和感と周りの目の色の変化を見逃さずにいて助かった。

 獣人が不自然にぶつかってくることもあったが狙いはユディットとリアーネであった。


 流石に子供は狙わないようだと思っていたら子供の獣人がジケにぶつかってきた。

 一瞬体をまさぐられるような感じがあって、獣人の子供は盛大に舌打ちして離れていった。


 どこに札があるのか特定できなかったのだろう。

 ユダリカの方は無理矢理奪って行こうとした獣人の子供がいたけれど、失敗してやり方がずるいと他の子に怒られていた。


 暴力沙汰はダメだから無理に奪い去ろうとする行為も咎められるようである。

 人間相手だからいいだろうなんで派閥とプライドは持つべきだっていう派閥があるらしかった。


「よし……」


 ユディットは定期的に服の上から触れて隠した札を確認している。

 せっかく隠したのにそれでは周りにバレてしまうだろうとは思うが、帰るまでは自己責任で札を守ってもらうつもりなので口は出さない。



「なんだお前!」


「ああ? お前がぶつかってきたんだろ!」


「またなんだ?」


 大声で言い争う声が聞こえてきてジケは声の方を見た。

 若い獣人同士が争って掴みかかっている。


 町中で些細なことからケンカになるのはよくあることだ。

 血の気が多い獣人ならなおのことケンカになってもおかしくない。


 けれどもなんだか怪しいなとジケは思った。

 あまりにもタイミングがいい。


 ジケたちがやってきたタイミングでケンカが発生するなどそうそうあることではない。


「ユディット! 盗られたぞ!」


 まるで空気のようだった。

 ジケたちがケンカに気を取られた一瞬の隙をついて一人の獣人が近づいてきていた。


 ポケットに手を入れた獣人の男は平然とした顔でジケたちの間を歩き抜けて、ユディットの札を一瞬にして抜き取ってしまった。

 魔力感知で周りを警戒していなきゃ誰も気づかないところだった。


「くっ……!」


「ちぃっ!」


 気づかれた獣人の男は逃げ出そうとした。

 鼻の下が長めで口が出っ張ったような猿顔の獣人はユディットが伸ばした手をひょいとかわす。


「へん! 捕まらなければいいんだよ!」


「に、逃すか!」


 ユディットが追いかけるが猿顔の獣人はそれよりも速く走り出す。


「あっ、キノレさん!」


 ユディットを気にしながら走り出した猿顔の獣人の先にはキノレがいた。


「へっ? ……ぶへぇっ!?」


 ぶつかると思った瞬間、キノレは猿顔の獣人の顔を鷲掴みにして地面に叩きつけた。


「無礼はいけないな。札、返してもらおう」


「か、返します……」


 軽くミシミシ音が鳴るほどの力で押さえつけられて猿顔の獣人は大人しくユディットに札を渡した。


「お気をつけなさってください」


「……あ、ありがとうございます」


 キノレが解放してやると猿顔の獣人はしっかり手の跡がついた顔もそのままに走って逃げていった。

 片手で獣人を制圧するなんてやはりキノレは只者ではない。


 ついでにケンカしていた連中もいつの間にかいなくなっていて、やっぱり仲間だったのだなとジケは思った。


「盗まれたことにも気づきませんでした……」


 懐に入れておくのは危険だ。

 そう感じたユディットはユダリカをマネして手に札を持っておくことにしてなんとかジケたちは宿まで帰ったのだった。

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