赤尾祭への参加登録2
「確かに過去に人間が参加したこともある。このまま参加させないのではまるで我々が人間を怖がってしまったようになってしまう」
トーギューはジケに顔を寄せる。
かなり身長差があるのでトーギューが屈んで顔を寄せるとジケが上から覆われるようになる。
「我々は人間など恐れない。参加したいならすればいい。ひねりつぶしてやるから」
気持ちよく参加させてくれるのかと思ったらそうでもなかった。
子供相手に威圧するなんて恥ずかしくないのかとジケは内心で思う。
こんなだから戦争推進派なのだろう。
「まあ、俺とお前が戦うことはないがな」
馬鹿にしたように笑うとトーギューは体を伸ばす。
「何を見ている? 散れ!」
トーギューに威圧されて野次馬たちが慌てて立ち去っていく。
「なんだかなぁ……」
はいそうですかと登録させてももらえないとは思っていたけど、余計な注目を浴びることになってしまった。
ジケは小さくため息をつく。
これで赤尾祭本番までには人間が参加することはみんなに知れ渡ってしまうだろう。
そのことが吉と出るか凶と出るかは分からないが、あまり良い方向には転ばなそうである。
「まあいいや。とりあえず出場の登録してくれる?」
「わ、分かった……子供部門でいいな?」
「部門分かれてるの?」
「ああ、子供は男女混合、大人は男と女で分かれてる」
「ふーん……どこで優勝しても同じ?」
「もちろんだ」
「じゃあ子供部門で」
それでトーギューはああ言ったのかと納得がいった。
勝ち上がれないから戦わないだろうという意味ではなく、ジケは子供部門に出るだろうから戦わないという意味だったのだ。
「俺も参加するぜ!」
「私もやったろーか」
「少しでもお役に立てるなら私も」
ユダリカ、リアーネ、ユディットも赤眉祭に参加する。
リアーネは大人部門で、ユダリカとユディットは子供部門であった。
「まあ子供と大人分かれてるだけ良心的だな」
「戦いはたくさんあった方が楽しいからな」
「あっ、そんな理由?」
子供が大人に勝てないのは当然として、だとすると参加する人は減ってしまう。
できるだけたくさんの戦いを、できるだけ熱くなれるような戦いを見たいと獣人たちは考えて、いつしか赤尾祭は子供と大人、そして大人も男と女で分かれたのである。
より長く、より多くの戦いを楽しむためというのが主な理由なのだ。
「私は参加しないよ」
「ああ、怪我されちゃ困るからな。応援してくれよ」
「ジケも怪我しないでよ? 怪我したら怒るから」
「怒ってもいいけど……治してくれよ?」
「考えとく」
「それはちょっと困るな」
ジケは思わず笑ってしまう。
赤尾祭がどんなことをやるのか正確なことは分かっていない。
しかし全く怪我もせずに終わらせることは難しそうだ。
ユディットが大人部門ではなく子供部門に入れられたことを考えるに意外と子供部門の層も厚そう。
誰か一人でも優勝すればいい。
もしくは赤尾祭が終わるまでにナルジオンに接近する方法があればいいのにとジケは思う。
「ひとまずこれで登録完了?」
「ああ。これを赤尾祭当日に。無くすと失格だ」
受付の獣人はジケたちに番号と文字が書かれた札を渡した。
参加証明みたいなものである。
「再発行はできない。ただ道で落ちている札を見つけたりしてここに持ってきてくれればいくらかで買い取るから。あと町中での暴力沙汰は厳禁だ。多少のケンカは構わないがな」
受付の獣人ニヤリと笑った。
「落ちてる札を買い取る? なんですかね、アレ?」
「……そのまんまの意味じゃないよ」
妙な言葉だとユディットは首を傾げたけれど、周りの様子を見ていたジケは受付の獣人が何を言いたかったのか気がついた。
「どういうこと?」
「もう赤尾祭は始まってる」
札を受け取った瞬間から一部の獣人の目の色が変わった。
「拾ったなんて誰が分かる?」
「そんなの分かんないでしょ?」
「その通りだ。本当に落ちてたものを拾ったかどうかなんて本人以外には分からない」
「だから……何が言いたいの?」
エニはまだ分からないようだ。
「奪っても拾ったと言えば同じになる。そして奪っていようが拾っていようが札を持ってくればお金と交換してくれる……」
「あっ!」
ようやくエニも気がついた。
「狙われてんな」
リアーネもジケの話でやっと理解はしたが、奇妙な視線を向けられていることは感じていた。
獣人たちの何人かはジケたちが持っている札を狙っている。
拾い物かどうかなんて分かりはしないのだから奪い取ってお金に交換してしまえばいい。
札をなくさず守り抜くこと、これもまた一つ赤尾祭の内容なのである。
「さて、どうするんだろうな?」
ただ分からないのは奪い取る方法である。
暴力を認めれば赤尾祭が始まる前から町中が血の海になりかねない。
受付も言っていたけれど赤尾祭前からそんな暴力沙汰は認められていない。
となるとやっぱり盗み出すのが主流だろう。
受付してから家に帰るまでの間に盗んで奪いとるというのが平和的なところだろうかとジケは考えていた。
 




