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赤尾祭への参加登録1

 睨み合っていた獣人たちも解散して周りにいた人たちも解散した。

 ジケたちも赤尾祭の参加登録をするために広場に向かった。


「受付は……あそこだね」


 思っていたよりも広い広場のど真ん中は大きな囲いがある。

 そこは赤尾祭のためのステージが作られるらしい。


 憩いの場でもあるのかベンチが置いてあったり、屋台のようなお店まである。

 さらには布を広げて何かのものを売っている人もいた。


 町の外にある部族の人で特定の取引相手を持たない人は広場で物を売るのだとか。

 広場真ん中の囲いの前にテーブルと椅子があって獣人が二人座っている。


 そこが赤尾祭の受付であった。


「赤尾祭に参加したい」


「はい、参加だね」


 やる気のなさそうな男女の受付はジケたちに気だるげに視線を向けた。


「名前と部族名」


「ジケ、人間だ」


「ジケ……それと人間…………人間?」


「そうだよ」


 ジケはフードをおろした。

 人間であるジケにはもちろんのことながら獣人にあるようなミミやツノは生えていない。


 受付の獣人は驚いたようにジケの頭を見ている。


「に、人間がこんなところに……」


 受付の驚きの声は大きな物ではなかったが、誰が参加するのか周りにいた獣人は気にしていたためにジケが人間なことが知られてしまった。


「人間!?」


「おい、どうしてこんなところに……」


「赤尾祭に参加するのか?」


 ジケたちは周りの注目を浴び、あっという間に人間がいるということが周りに伝播していく。


「人間が赤尾祭に参加しようってのか?」


 受付の獣人も困惑している。

 別に人間でもいいと聞いてきたのだけど受付はジケが参加していいものなのか判断に迷っているようだった。


 ダメならダメで諦めるから早く判断してほしいなとジケは思う。

 イタズラに人の視線を集めて、どこから聞いたのか獣人たちが広場に集まり始めてしまった。


 周りでは人間の赤尾祭参加を認めるべきかどうかの論争まで始まっている。

 ここまできてじゃあいいですとも言えない。


「なんの騒ぎだ!」


 戦争になりそうだから人間なんて捕らえてしまえばいいなんて過激な意見まで聞こえ始めていて、少しばかりやばいかもしれないと感じていたところに一人の獣人が現れた。

 コウユウ族の青年も体格は良かったが、それにも負けず劣らずの体格をした中年の獣人だった。


 やや横に広がるようなミミをしていてその内側にはツノが生えている。


「レッギュウ族だ。しかも部族会の長老を務めるトーギューだ」


 獣人たちが各部族バラバラであってもなんの制限もなく好き勝手に暮らしているわけじゃない。

 ある程度獣人たちをまとめ上げる組織のようなものがあり、それが部族会というものである。


 ナルジオンは部族会のトップであるから獣人をまとめ上げているということになるのだ。

 いくつもある部族の中から強くて賢いものが長老として選べていて、部族会において発言力を持つ。


「彼は戦争推進派だ。気をつけろ」


 トーギューが来ると獣人たちが一斉に道を開ける。


「なんの騒ぎだ」


 トーギューはジケたちを無視して受付の獣人に声をかける。

 受付の獣人は少し恐怖の入り混じった表情を浮かべていた。


「人間が……赤尾祭に参加したいと」


「人間が?」


 事情を聞いてようやくトーギューはジケたちのことを見た。


「かような時期に人間が何の用でここにいる?」


 トーギューが迫り、リアーネとユディットはジケを守ろうと前に出ようとした。

 けれどもジケは二人を手で止める。


 トーギューにもかなり圧があるので守ろうとしてくれる気持ちは分かる。

 しかしここで二人に守られてはトーギューにも周りにもナメられてしまう。


 多少の緊張はありながらもジケはまっすぐにトーギューの目を見る。


「赤尾祭に参加するために来ました」


「赤尾祭に……なぜだ?」


 赤尾祭は獣人の間では有名な催しであるが人間の間ではあまり知られていない。

 武を競うことを主な目的としていて、わざわざ人間が獣人の町まで来て楽しむような祭りではない。


 今は人間と獣人の間の空気も良くない。

 獣人の様子を探りに来たのかもしれないとトーギューは疑っている。


「優勝すると一つ願いを叶えてもらえると聞いたので」


「なに?」


 予想外の答えにトーギューは眉を上げた。


「俺たちは赤尾祭で優勝するためにここに来た」


 相手が戦争推進派の獣人ならジケたちの目的を知られるわけにはいかない。

 目的を隠すためにも逆に大胆不敵な宣戦布告を口にする。


「人間が赤尾祭で優勝しようというのか?」


「その通り」


「ほう……」


 トーギューから魔力が放たれる。

 相手を威圧する魔力は周りで見ていた獣人たちにすら重たく感じられ、魔力の影響でうっすらと耳鳴りが聞こえる。


 バルディームはすっかり尻尾を足の間に丸めてしまっていた。

 それでもジケは引かずに堂々とトーギューの魔力を受け止める。


 ジケだってこれまで何度も死線を潜り抜けてきた。

 もっとヤバそうな相手とだって対峙したことがある。


 これぐらいで引くわけにはいかない。


「……ガハハハッ!」


 一歩も引かないジケを見て魔力を収めたトーギューは大きく笑う。


「面白いな! 赤尾祭に人間が参加してはいけないなんてルールはない。己の力を証明したいのなら好きにするといい! 参加を受け付けろ!」


「わ、分かりました」


 やっぱり参加に制限はないようだ。

 先程まではジケたちが参加することに周りの獣人たちも不満がありそうだったけれど、トーギューに逆らってまで不満をあらわす人はいない。

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― 新着の感想 ―
尻尾ある動物が足と足の間に尻尾挟むの見たらキュンとするんだよね
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