色々な獣人2
「おめえは青いんだから赤尾祭に出ないで引っ込んでりゃいいんだよ」
「赤尾祭の起源を知らないのですか? ただ赤いだけで英雄気取りですか?」
二人の獣人は睨み合いを続けて、周りの人たちは二人を避けながらも戦いが始まるのかと期待した目を向けている。
人間なら争いそうになれば不安に思うものだがさすがの獣人は争いを期待している。
「待たれよ!」
「アレは……コウユウ族だ」
一触即発の空気の中、一人の青年が間に割って入った。
あまり見かけないような黄色い毛色に二人とはまた違う丸みを帯びた分厚いミミが生えている。
二人よりも頭一つ分ほど背が高くて、弾けんばかりの筋肉を持った肉体は思わず感心してしまう。
強い圧を感じそうな体つきをしているが、ニッコリと爽やかな笑顔を浮かべているからいくらか印象は柔らかい。
「あぁ? なんだお前!」
「割り込まないでください。今私は彼と話しているのです」
「今すぐにでも殴り合いを始めそうなのに何を言う?」
セキロウ族の青年とソウコ族の青年に睨まれてもコウユウ族の青年は全く怯むことなく笑う。
むしろ太い腕を伸ばしてセキロウ族の青年とソウコ族の青年の肩に回す。
二人は一瞬腕を振り解こうとしたけれど、丸太のように太い腕の力は強くて逆にコウユウ族の青年の胸に抱き寄せられる。
「これから赤尾祭がある! 今殴り合う必要なんてないだろう!」
相手が赤尾祭に参加するかどうかなんて分からない。
ただ血気盛んな若者はだいたい参加する。
この時期にこんなふうにしている二人が赤尾祭に参加しないはずがないとコウユウ族の青年も分かっている。
ならばこんなところで争う必要なんてない。
「お前らが強いなら自然と戦うことになるだろう。目の前に現れることがなかったらその程度の相手だったということだ」
戦いたいなら赤尾祭という相応しい場所がある。
仮に赤尾祭で戦うことがなかったらそれは相手が弱くて勝ち上がれなかっただけの話になる。
戦えるならそれはそれでいいし、戦えなかったのならそれはそれで相手よりも自分の方が強かったのだと証明される。
「……チッ!」
「まあそうですね」
急に割り込んできたコウユウ族の青年も気に入らないが言っていることは正しいと二人も認めた。
「赤尾祭まで取っといてやる。ただし……」
セキロウ族の青年はコウユウ族の青年の腕を振り解いて離れる。
そしてコウユウ族の青年を指差す。
「お前もぶっ飛ばす」
「……へへ、待ってるよ」
コウユウ族の青年は宣戦布告を嬉しそうな顔で受け止めた。
「どうせ優勝する僕からするとなんでも構いません」
ソウコ族の青年はわずらわしそうにコウユウ族の青年の腕を肩からどける。
「はっ! 言うじゃねえか!」
「僕と戦う前に負けないでくださいね」
「同じ言葉返してやるぜ」
「はははっ! それではな!」
コウユウ族の青年のおかげでその場での喧嘩は避けられた。
三人はそれぞれ別の方に歩き始めた。
周りの人はつまらなそうにしながらも、三人の青年が赤尾祭を勝ち上がることがあるのかと予想を話しながら解散していく。
「なんだか元気だね」
「優勝も簡単そうじゃないな」
こんな路上で喧嘩しそうになっていたけれども三人ともそれぞれ強そうだ。
ナルジオンに会うために優勝しなきゃいけないのにそれもまた簡単なことではないなとジケは改めて思ったのであった。




