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ジケも強いんです2

「まあそうだな」


 ジケも最後まで見ているつもりはなかった。

 自分のために怒ってくれているのだ。


 ここで放置してはジケも男がすたる。


「ユダリカ、そのぐらいにしておけ」


「ジケ……」


「ふっ」


 やっぱり臆病風に吹かれてなあなあにしようとするとバルディームは鼻で笑った。


「ずっと俺のこと言ってんだろ?」


 だがなあなあにするつもりもジケにはない。

 ユダリカに代わってジケがバルディームに詰め寄る。


「情けない……」


「なんだと?」


 ジケも反抗的な態度を取ったことにバルディームは少し驚いた顔をしたが、続くジケの言葉に眉をひそめた。


「ユダリカはデオンケトに勝った。だから一番弱そうに見える俺に対してウジウジとガキみたく文句言ってんだろ?」


 デオンケトは赤尾祭に出ようとするぐらいには実力があった。

 どのような戦い方をしたのかまでは伝わっていないがバルディームはデオンケトがユダリカに負けたことを知っている。


 だからユダリカではなくジケに向いて文句を言っていたのである。

 それこそ非常に卑怯でズルいやり方ではないか。


 明らかに弱そうな相手をバルディームは選んでいるのだ。

 小物も小物のやり方である。


「ユダリカや……他のみんなは強そうだから文句は言えないか? ここで一番軟弱者はお前だろ」


「なっ……」


 ジケの挑発にバルディームは顔を赤くする。

 確かに図星の指摘だった。


 怒りと恥ずかしさが同時に込み上げてバルディームは感情をこらえるように拳を握る。


「俺とやろうぜ」


「はっ?」


「俺が弱いと思うから文句言うんだろ? 俺が勝ったら黙って案内してもらうよ」


「……俺が勝ったら?」


「文句を言ったことを水に流すし、これからも好きなだけ文句でも言えばいい。それに色々交渉のために持ってきてるしタダでくれてやるよ」


「…………」


 バルディームは険しい顔をして考え込む。

 ここまで言われて引き下がることはできない。


 確かに口は過ぎたなとは思う。

 キノレがダシュドユに告げ口でもしたらマズイことになると今更思ったが、ジケが水に流すと言うのならバルディームとしてはありがたい話だった。


 ついでに物も貰えるなら乗らない手はない。


「いいぜ」


 バルディームはニヤリと笑った。

 人間に力の差を見せつけてやれば全て丸く収まるとジケを見下したような目で見た。


「武器ありか武器なしか選ばせてやろう」


 それは流行りなのかとジケは思う。

 デオンケトの時もユダリカに対して同じ質問をしていた。


 自分が格上であり、相手に選択の余地を与える余裕があることをアピールしているのかもしれない。


「武器ありで」


「分かった。好きにするといい」


 ユダリカは冷たい目をしてバルディームを睨みつけている。


「一つ聞きたい」


「なんだ?」


「怪我したら治療は受けるか?」


「……どういうことだ?」


「エニは怪我を治せるんだ。もし仮に戦いで少しでも怪我をしたらエニの治療を受けるつもりはあるか?」


「質問の意図は分からないけど治してもらえるなら治してもらおうか」


 怪我なんかするつもりはないと思いながらバルディームは軽く答える。


「じゃあよかった」


 ジケは剣を抜く。

 白い魔力に包まれた剣が魔剣なことはバルディームにも分かる。


 なぜジケがそんなものを持っているのかと一瞬ビクリとしたけれど、お飾りだろうとバルディームも剣を抜いた。

 流石に魔剣相手に素手で挑むほど馬鹿ではない。


「先手は譲ってやる。いつでも来い」


「そらどうも」


 ジケはグッと雪を蹴って走り出した。


「速い!」


 バルディームが余裕なのには理由があった。

 ジケが弱いと思っていることも当然あるのだが、今戦おうとしている場所が外ということもあった。


 足場は雪である。

 足を踏み出せば沈んでしまい、歩くのも大変な環境となっている。


 なのにジケは一気にバルディームと距離を詰めた。

 足を取られて近づくのも大変だろうというバルディームの予想は完璧に裏切られる形となった。


「くっ……!」


 むしろバルディームの足が雪に埋まって動けなくなる。

 残された選択肢は防御しかなかった。


 振り下ろされるジケの剣を防御しようとした。

 しかしバルディームは何の手応えも感じなかった。


「なぜ……」


 目の前のジケは剣を振り下ろした体勢になっている。

 隙だらけに見える。


 攻撃のチャンスなのに体が動かないとバルディームは焦る。

 その瞬間、落ちていく刃を見た。


 防御のために持ち上げた剣の先が落ちていってバルディームは何が起きているのか全く分からなくなった。


「エニ、治療を頼む」


 ジケが剣を収めてバルディームに背を向けた。

 何を言っているんだと叫びそうになったが声も出ない。


「熱い……」


 体が妙な熱さを感じた。

 まるで焼かれているようだと思ってバルディームは下を見た。


「一撃……流石ジケ!」


「会長お疲れ様です!」


 ファンがうるさいなとエニは思った。

 バルディームの胸はざっくりと斜めに切り裂かれていた。


 一撃でジケは勝負を終わらせた。

 ジケは防御したバルディームの剣ごと胸を切り裂いてしまったのである。


 バルディームは斬られた剣を持ち上げた防御の体勢のままゆっくりと倒れた。

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