ジケも強いんです1
「バルディームだ。族長の命で案内する」
「よろしく頼むよ」
イェロイドたちとは別れて、今度はバルディームというゲツロウ族の青年が案内してくれることになった。
「赤尾祭が行われるのは獣人の町であるヴィルディガーだ」
向かうはヴィルディガーという町である。
以前キノレがチラリと触れたナルジオンも住んでいる、獣人たちが多く集まっている町がヴィルディガーであった。
そこで赤尾祭が開催されるのである。
ダシュドユがよこした案内役のバルディームはユディットよりもいくらか年上そうな青年で、ジケたちを案内することに不満がありそうな雰囲気がある。
族長であるダシュドユの命令だから仕方なく従っているといった感じを隠そうともしていない。
気持ちよく案内してくれとは言わないがせめて不満のある雰囲気ぐらいは隠してほしいものである。
「案外歩けるもんなんだな」
高く積もった雪だが一日も経つと自重で固くなって、上を歩くぐらいならできるようになっていた。
無理に力を入れたりするとズボッと足が沈むこともあるので気をつけねばならないが、なんとか赤尾祭までにはヴィルディガーに着けそうだ。
「ふん、自分で荷物も持てない軟弱者か」
重いと雪に沈んでしまう可能性が高いので少しでも軽くしようと荷物はフィオスソリに乗せている。
イェロイドたちトシュウ族はフィオスソリのことを好意的に見ていてくれたのだが、バルディームはフィオスソリに荷物を乗せているのを見て馬鹿にしたように笑う。
これがイェロイドの言っていたことなのかとジケは納得した。
たかが荷物を持たないぐらいで何で偉そうにバカにするのか。
バカにされようと楽できるところは楽にしていくのがジケのモットーであるので別に気にすることはない。
困っても助けてやんないからな、ぐらいにジケは思っていた。
「お前……ナメるなよ?」
ただジケは余裕があってもそうじゃない人もいてしまった。
曇り空の中歩いてきて早めに野営の準備をしていた。
雪が深くて火も焚けないので簡単なものを食べて断熱テントを用意する。
バルディームは何かにつけて文句を口にした。
こんな時にもテントを使うのかとか、交代で見張りを行うのにも信用できないとか一々うるさい。
文句を言うバルディームにキレたのがユダリカであった。
ユダリカ自身が文句を言われるのならばまだ良かったのかもしれない。
ゼスタリオンが卵だった時代に周りから散々いろんなことを言われたから多少の悪口ぐらいでは動じない。
しかしそれがジケに向けてのことなら事情が違う。
どうにもバルディームはジケに向かって不満を垂れ流しているようだった。
ユダリカはデオンケトに勝った。
だからバルディームとしては文句を言えない相手であるのだが、何もしていないのにみんなの中心にいるジケは気に入らない相手でもあった。
力量も見ていないので勝手に格下判定をして不満をぶつけているのだ。
そのことがユダリカは我慢ならなかった。
ジケは軽く流しているけれど、ジケをバカにされることにユダリカの方が耐えられずバルディームに食ってかかったのである。
「あ?」
「お前案内役だろ? ぶつぶつうるせぇんだよ」
一触即発の空気だが誰もユダリカを止めようとはしない。
こうなってユダリカを止めてしまうとまたバルディームが調子に乗ってしまう。
互いに引くべき妥協点を見つけるか、行くとこまで行くしかない。
「ふん、弱い奴に弱いと言って何が悪い? そもそも俺は案内することにも納得いってないんだ。俺たちの土地に勝手にやってきて赤尾祭に参加するだと? しかも優勝するつもりなんて馬鹿げている!」
「納得いってないだ? なら帰れよ」
「はあ?」
「帰ってお前の族長に泣き付けばいいじゃないか。やりたくありません、族長が果たそうとした約束を果たせませんでしたってな。赤尾祭だってまだやってもないことで馬鹿げているなんてお前の方が馬鹿げてるんだよ」
ユダリカは自分よりも年も体格も上のバルディームに一歩も引くつもりがなさそうだ。
「ふっふっ……昔のカルヴァン様を見ているようだ」
「カルヴァンさんを?」
ユダリカは今バルディームと殴り合いそうなほどの雰囲気を出している。
ジケがイメージしているカルヴァンは感情を表に出さないような人である。
ユダリカのように誰かと険悪な雰囲気で睨み合うような印象がなかった。
「今でこそ冷静なお方のように見えていますが、元より熱い思いを胸に秘めています。昔はああしてご自身の納得されないことには正面からぶつかっていくこともあったのですよ」
「そうなんですか」
話を聞いても想像できないなとジケは思った。
「命令だって渋々でやることも構わないけどやるなら黙ってやれよ」
「どうして俺がお前に従わなきゃならない? 俺がいなくてヴィルディガーに着けるのか?」
「このままだとお前が本当に案内しているかも怪しいもんな」
「なんだと!」
「ジケ」
エニがひじでジケのことをつつく。
そろそろ止めなくていいの? という目をしている。




