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軽い因縁7

「言っただろ? 負けて後悔するなって」


 ユダリカの鋭い目つきに背中がゾクリとしたデオンケトが拳を突き出した。

 顔面を狙った一撃だったがユダリカは完璧に攻撃を見抜いて前に出ながら拳を回避した。


「くっ!」


 デオンケトは後ろに飛び退いて距離を取ろうとするけれどユダリカはピタリとそれについていく。


「なかなかやるな」


 素手では剣を防ぐことも簡単ではない。

 ユダリカの剣が迫ってきてデオンケトが苦しい顔をして何とか回避する。


 ただ反撃の隙も見出せずにジリジリと後退させられていた。


「……!」


 トンと背中が壁についてようやくデオンケトは自分が追い詰められていることに気がついた。


「うっ……!」


「そこまで!」


 デオンケトの首にユダリカの剣が突きつけられた。

 まさか殺さないとは思うけれど殺すのではないかと思うほどの勢いだった。


「と、父さん……」


「お前の負けだ」


 汗を流すデオンケトは目だけでダシュドユを見た。

 ダシュドユはため息をついて首を振る。


「…………くそっ!」


 ユダリカが剣を引くとデオンケトは大きくうなだれる。


「……どうだ?」


 剣を収めて振り返ったユダリカは戦いの時と打って変わって笑顔を浮かべた。

 戦いの時の顔が普段のユダリカの顔に近いのであり、出会った最初の頃ようだとジケは思っていた。


 ただ実力に関しては出会った頃とは全く違う。

 元々剣に関してユダリカは実力があったけれど、ゼスタリオンが卵から孵らず魔力を得られなかったので本来の力が発揮できていなかった。


 デオンケトが油断してこともあるだろうがユダリカは強かった。


「流石だな」


「俺も守られてばかりじゃいけないからな。今度前みたいなことがあったら……俺がお前を守るから」


「……そんなことないと思うけど、あったら頼むよ」


 以前アカデミーでユダリカと一緒にいる時に襲われたことがある。

 その時は最終的にオロネアに助けられたのだけど、ユダリカの中ではジケがカッコよく相手に立ち向かった印象が強かった。


 ジケに守ってもらった。

 今度同じようなことがあったら自分が守るとユダリカは意気込んでいる。


 そうそう襲われることなんてないと思うのだけど守ってくれるというのならジケも文句はない。


「こちらの勝ちだな」


「……そうだな。またしても人間に負けるとはな」


 ダシュドユがため息をつくとデオンケトは気まずそうな顔をする。


「約束は約束だ。俺にできることなら協力しよう。何をするつもりだ?」


「戦争を止めにきた」


「何だと?」


 険しい顔をするダシュドユにキノレが事情を説明する。


「なるほどな。俺は戦争推進派ではない。だから協力はしてやろう」


 事情を聞いてキノレもまた変なことに首を突っ込んだものだとダシュドユは笑った。


「だが簡単なことではないな。ナルジオンに直接繋がるツテは俺にもない。最近はあまり他の人にも会わないようだしな。それに戦争推進派の過激な奴らがナルジオンの周りにいるらしい。話をするだけでも大変だろうな」


「どうにか方法はないの?」


「一つだけ方法がある」


「その方法とは?」


「赤尾祭で優勝することだ」


「赤尾祭?」


 聞き慣れない言葉にジケは首を傾げる。


「赤尾祭とは誰が一番強いかを決める武闘祭のようなものです。獣人たちのお祭りのようなものです」


 キノレが簡単に赤尾祭について説明してくれる。


「赤尾祭の最鋭大会の優勝者は願いを一つ叶えてもらえる。獣人が総力を上げて叶えられるものならな。そして願いはその時の獣人をまとめ上げているものに直接伝えることができる」


「待ってください! 赤尾祭は獣人の祭ですよ。人間は……」


 眉をひそめたイェロイドが口を挟む。

 赤尾祭と聞いた時から良い顔をしていなかった。


「参加できる」


「えっ?」


「赤尾祭に制限はない。誰でも参加できるのだ。過去に人間が参加したこともある」


 赤尾祭は獣人のイベントである。

 優勝すればいいなどと言うけれど人間は参加できないだろうとイェロイドは反論しようとした。


 けれどもダシュドユはイェロイドの考えを読んだかのように答えた。

 最鋭大会とは獣人たちが戦いあって強いものを決める武闘会のことである。


 そして最鋭大会は獣人のお祭りであるけれども参加を獣人に限ってはいなかった。

 基本的に人間は来ないのでほとんどの人が知らないが人間だって参加しようと思えばできるのである。


 ダシュドユも小さい頃の記憶であるが一度だけ人間が参加していたことを憶えていた。


「本当なら息子のデオンケトを参加させるつもりだった。しかし……」


 ダシュドユはユダリカをチラリと見た。

 この際他の奴らもみんなユダリカに負けてしまえばデオンケトが弱かったなどと思わなくても済むだろうなんて考えが頭にあった。


「優勝すればナルジオンに会える。その上願いまで叶えてもらえるのだ。悪い話ではないだろう?」


「確かに……他に方法もないしな」


 ナルジオンに繋がるツテを探して色々な部族を回っても時間がかかるだけだろう。

 これなら優勝さえできれば確実にナルジオンに会える赤尾祭にかけてみるのもありかもしれない。

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赤尾祭なのか最鋭大会なのか
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