軽い因縁6
「お前を見ると……古傷が痛む」
「何を言う。古傷ができるほどのことなどしておらんではないか」
「なあ、二人にどんな関係があるんだ?」
話を聞いている限り戦ったような感じがある。
ジケは気になってイェロイドが何か知っていないか聞いてみた。
「二人には因縁があるんだよ」
「因縁?」
「そうだ。まあ、こうしたことは本人から聞くもんだ」
「そうだね」
ひとまず関係があることは分かった。
ジケは睨み合うようにしているキノレとダシュドユに視線を戻す。
「今でも取引を奪われたこと、忘れていないぞ」
「ふっ、先に奪ったのはそちらだろう。私より若いくせにボケているのか?」
「お前にやられたせいかもしれないな」
一触即発のピリついた空気が漂う。
二人の関係性を知っているイェロイドもちょっと緊張した面持ちで、こんな感じの雰囲気は予想外のようだった。
「どうだ、あの時の続きをやらないか? 勝てばお前らが何の目的できたのであっても協力すると誓おう」
「私を見なさい。もう老いぼれている。こんな私に勝ってお前は嬉しいのか?」
キノレが手を広げてみせる。
まだ動けそうな雰囲気はあるけれど、キノレを見て戦えそうとまでは流石に言えない。
「……そうだな」
今のキノレと、まだまだ戦えそうなダシュドユで勝負は目に見えている。
ダシュドユも渋々認めざるを得ない。
「ならば後ろの奴らでもいいぞ」
しかしここまできてダシュドユもはいそうですかと引っ込みがつかなくなった。
ダシュドユはジケたちに目を向けた。
「私たちの問題にこの方々は関係ないでしょう」
「なんだ? やるなら私がやってやろうか?」
キノレは不愉快そうに目を細めた。
ダシュドユが何を考えているのか知らないが自分との因縁を他の人に押し付けることなど許されざることだ。
しかしリアーネはやりたいならなってやると一歩前に出た。
「いや、俺は女とは戦わん」
「あっ?」
「よほどの場合でもない限り女には手をあげない」
「……何発ぶん殴られればその考え改めるか試してやろうか?」
リアーネはこうした場面で女だからと差別されることを嫌う。
せっかく人が乗り気になっているのに変に水をさされて苛立ちをみせる。
「まあまあ、リアーネ。俺もリアーネが怪我なんかしたりしたら嫌だからさ」
「……お前がそう言うなら」
どうせ女性扱いするならジケのように女の子っぽく扱ってくれればいいのにとリアーネは思う。
女だからと差別されるのは嫌いだけどこんなふうに女の子として扱われるのは意外と悪くない。
「だが確かにそうだな。俺たちの因縁は俺たちのもの……」
ダシュドユはジケやユダリカをじっと見つめた。
「デオンケト!」
ダシュドユは家中に響き渡る声で誰かの名を呼んだ。
「父さん呼んだ?」
すると二階から誰かが降りてくる音がして若い獣人が部屋に入ってきた。
「我が息子のデオンケトと戦ってもらう。勝てばさっき言った通り何でも協力してやる。ただし負けたら俺たちは何もしない」
まだなぜ来たのかも話していないのに簡単に条件を突きつけるものだとジケは少し呆れてしまう。
デオンケトはジケよりも少し年上ぐらいに見えた。
父親に似てがっしりとした体型をしているが顔つきはダシュドユよりも柔らかい。
ダシュドユがジケたちと戦うのはやや不公平な感じはあるけれど、デオンケトならジケたちが戦ってもつり合いが取れるぐらいに見える。
「俺が行く」
どうしようかなとジケが悩んでいるとユダリカがサッと前に出た。
「俺も少しはやるんだよ」
ユダリカはグッと親指を立ててジケにアピールする。
「ふっ、ならやってみるといい」
キノレは少し悩ましげな表情を浮かべたが、ジケが止めもしないで親指を立て返したのでそのまま見守ることにした。
「何だかよく分からないけど俺は倒せばいいんだな?」
何の説明もなく巻き込まれたデオンケトは少し困惑した様子だったがすぐに状況を理解した。
「武器あり、武器なし、選ばせてやるよ」
デオンケトは軽く体を伸ばして戦いに備える。
「それじゃあ武器ありで」
ユダリカは腰に差していた剣を抜く。
ジケが持っている魔剣ではない。
けれどもしっかりと鍛え上げられたまっすぐな剣は安物のではないと一目でわかる。
「あんたはいいのか?」
対してデオンケトは武器ありなのに拳を構えている。
「俺の武器は俺自身だからな」
もちろん獣人でも武器は使うのだけど、デオンケトは素手でユダリカと戦うつもりのようだ。
素手で戦う人もいる。
元々素手での戦いを得意としているのか、あるいはユダリカをナメて素手でやろうとしているのかは分からない。
ただユダリカはナメられているのだと受け取った。
目つきが鋭くなってデオンケトのことを睨みつける。
険しい顔をしているとカルヴァンにも良く似ているなとジケはこっそり思った。
「いつでも来い」
「負けて後悔するなよ!」
挑発するように手招きするデオンケトにユダリカが切り掛かった。
「やるな……!」
たかが子供だろうとデオンケトは思っていた。
しかしユダリカの鋭く素早い一撃はデオンケトの頬をかすめていた。
かわしたと思ったのにユダリカの攻撃の方がわずかに速かったのだ。




