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軽い因縁5

「なんで上から?」


「入り口を開けてみろ!」


「んん?」


 ジケとエニは顔を見合わせ、一階に降りる。

 そして玄関を開ける。


「わっ!」


「なるほどね。これは上から出るわけだ」


 玄関を開けてみると目の前には雪の壁があった。

 丸一日以上降り続いた雪が積もって壁のようになっているのだ。


 これでは玄関から出ることもできない。

 二階から飛び降りて出た理由も一目でよく分かった。


 イェロイドたちがやろうとしていたのは雪かきであった。

 そのままでは家から出ることもままならない。


 もちろん家に入ることもままならないので雪をある程度どうにかしないと挨拶に聞くことすら難しいのである。

 雪をスコップで投げるザクザクとした音が聞こえてくる。


「うーん」


 どうにか手伝えないものかなとジケは雪の壁を見ながら思考を巡らせる。


「フィオス?」


 スープの残り物を綺麗に片付けていたフィオスが跳ねてきた。

 そしてフィオスが雪に飛びつくと瞬く間に雪が溶けていく。


「おおっ?」


 鉄ですら溶かしてしまうフィオスにかかれば雪なんて体の中に取り込むまでもなく溶かせてしまう。

 体を広げて雪に飛びかかるとまるで消えるかのようにごそっと雪がなくなる。


「これならちょっと手伝いになるかもな」


 そのままフィオスに雪を溶かしてもらう。

 フィオス一飛びで雪が大きくなくなるのは見ていても楽しい。


「うわっ!? なんだ!?」


「あっ、下の雪溶かしてます」


 足元の雪がなくなって上からイェロイドが落ちてきてしまった。


「な、なんだ……これはまた……」


 下は雪で作られた洞窟みたいになっている。

 ただ岩と違って雪はうっすらと光を通してくれるのでちょっと幻想的である。


「そのスライムは凄いのだな」


 ソリになったり雪を溶かしたりとフィオスはすごいとイェロイドは感心してしまう。

 生でスライムを見たのは初めてであるがスライムはこんな力を持っていたのかと認識を改めざるを得ない。


 フィオス除雪の力は凄まじい。

 本来なら何時間もかけて雪を退けるのだが、フィオスが溶かしてくれるおかげで家の周りはあっという間に雪がなくなった。


 ただ家の周りだけやればいいわけじゃない。

 ある程度移動ができるように道を作って雪をスコップでどかしていく必要もある。


「フィオス……ひゃっ!」


「えっ、どうしたの?」


 家周りはフィオスがやってくれたのでイェロイドたちは他のところをやりに行った。

 あとは任せることにしてフィオスを抱きかかえようとしてジケはびっくりしてしまった。


 フィオスがすごく冷たくなっていたのだ。


「本当だ、冷たい」


 フィオスを触ってエニも驚く。

 夏場にひんやりしていることはあるけれど、今は明らかに氷のように冷たいのである。


「雪溶かしたせいかな?」


 なんとなくだけどいつもよりも体が硬い気がするとフィオスを触りながらエニは思った。


「……なに?」


「シェルフィーナで温めてやってくんないか?」


 フィオス自身、冷たくなってて苦痛を感じていることはない。

 ただこのままでは抱えることもできない。


「あったかい季節ならいいんだろうな……」


 フィオスに氷を取り込ませてひんやりフィオスにして抱いておく。

 そんなことも応用できそうだとは思うけれど今は冷たいと少し辛い。


「えー? まあいいけど……」


「ちょっと待った!」


 雪を溶かして頑張ってくれたのはフィオスである。

 温めるぐらいならいいだろうと思ったエニをユダリカが止めた。


「ゼスタリオン!」


 ユダリカは部屋の隅で丸くなって寝ていたゼスタリオンを呼んだ。


「こうして、こう!」


 ゼスタリオンはそっと翼を広げてフィオスを包み込むと口から小さく火を吐いた。


「すぐに温めてやるからな!」


 ミニワイバーンがスライムを翼で抱きしめて口から出す炎で温めるという奇妙な光景。

 多分エニのシェルフィーナの方が早く温まるだろうと思いながらもユダリカの善意に任せることにした。


 なんだかフィオスも楽しそうだ。


「ちょっとムカつく……」


 なぜか勝ち誇ったような顔をユダリカがエニに向けたものだからエニはほんの少しイラっとした。


「おーい、そろそろ挨拶に行こう」


 気づけば雪をくり抜いたように道ができていた。

 イェロイドたちだけでなくゲツロウ族も同じように雪かきしていたので、それぞれの家と家を繋ぐ道分ぐらいの雪はどけられていた。


 外に出られるようになったのでゲツロウ族の族長に挨拶に向かう。


「久しぶりだな、イェロイド……それにキノレ」


「ほっほっ、あなたも老けたものですね、ダシェドユ」


 集落の中心にあるやや大きめの家がゲツロウ族の族長ダシェドユの家であった。

 トシュウ族と違ってウルフっぽい三角のミミが生えている。


 やや灰色に近い黒い毛の、目つきの鋭い大柄のダシェドユは目の前にいるだけで強い圧を感じる。

 けれどもキノレはダシェドユの圧に押されることもなく朗らかに笑う。


「見慣れぬ客人が来ているとは聞いていたがお前が来ているとはな」


 ダシェドユは険しい顔つきでキノレのことを見ている。

 ただ見知らぬ相手だからと警戒しているわけじゃなさそうだとジケは感じた。

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