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軽い因縁4

「みんなもらえたのか?」


「ううん、最後まで残れたのは俺とヒディだけだったから」


「んじゃヒディも何かもらったんだな」


「ヒディはナイフをもらってたよ。魔法をメモライズだかしておけるナイフでとっさに魔法を発動することもできるらしいんだ」


「へぇ」


 エアダリウスが遺したものはまだまだたくさんある。

 きっとこれからも優秀な子どもたちに配られていくのだろう。


「ゼスタリオンはどうだ?」


「ああ、デカくなったよ。最初はずっとフィオスサイズなのかな、なんて思ってたけど気づいたら立派になったよ」


 ユダリカは自分の魔獣であるゼスタリオンを呼び出す。

 呼び出されたゼスタリオンは抱えられるほどのサイズ感である。


 今は小さくなってもらっているがそれは本来のサイズではない。

 卵から生まれたばかりゼスタリオンは小さかった。

 

 生まれたてなので当然であるが、その後スクスクと成長していた。

 アカデミーでは魔獣に食事を取らせることもできるので日々お腹いっぱい食べたゼスタリオンはあっという間に大きくなった。


 ゼスタリオンはジケが抱えるフィオスに近づくと軽く頭を下げる。

 もはや見慣れた光景であるが毎度不思議なものだとジケは思う。


 ジケがフィオスを下ろす。

 フィオスはゼスタリオンと会話しているかのようにビヨンビヨンと跳ねる。


「相変わらずだな」


 フィオスはゼスタリオンの背中に乗るとゼスタリオンはフィオスを乗せたまま飛び上がる。

 広くない家の中をうまく旋回して飛んでいる。


 最初に出会った時も同じようにゼスタリオンはフィオスを乗せて飛んでいた。

 何がしたいのかは分からないがフィオスが楽しそうなのでジケも様子を微笑ましく見ている。


「それに……」

 

「なんだ?」


 お前も変わったな、そうジケは思う。

 どちらかといえばユダリカはヒディに近くて周りに対して心を開かずピリッとした空気感のある人だった。


 ジケには心を開いてくれていたがウルフがお腹を見せてくれているような感じもあった。

 なのに今のユダリカはだいぶ柔らかい感じがしている。


 ウルフという感じよりももっと可愛い犬系な雰囲気になっている。


「なんでもない」


 ただジケは知らなかった。

 今のユダリカの雰囲気はアカデミーで普段ユダリカとつるんでいる人が見たら驚くようなものであるのだ。


 普段のユダリカは言葉少なく、かなりクールな雰囲気の人であまり笑顔も見せない。

 さすがは北方大公の息子と言われるほどだった。


 けれどもユダリカの態度はジケの前では一変する。

 柔らかな笑みを浮かべて機嫌が良くなる。


 他の人にはぶっきらぼうなのにジケにだけは言葉を尽くして返そうとする。

 本当に同じ人物なのかと周りの人が疑いたくなるような変化なのだ。


「皆さん、食事の用意ができました」


「おっ、あったかそう」


 キノレが料理を運んでくる。

 雪が積もっている外では火で調理することも簡単ではない。


 たとえ温めたとしても料理はすぐに冷めてしまう。

 それならさっさと食事をとって口を開いている時間を短くした方がいいぐらいだった。


 だから雪原では簡易的に食べられるものをささっと食べて食事を済ませていた。

 その食事だって半分凍りついていた。


 今は家の中にいる。

 かまどもあって火を使うことができる。


 出てきた料理は温かいスープだった。


「はぁ〜、やっぱりあったかいもんは美味いな」


 温かいというだけで美味さが倍増する気分だ。

 断熱加工していない家の中ではその寒さがじんわりと中に伝わってくる。


 小さい暖炉の火ではとても家全体を温めることはできないので、体の中を温めてくれるスープはとても美味しく感じられる。

 交渉に使うつもりの食材も余分にあるのでちょっと豪勢なスープをジケたちは楽しんで、吹雪が収まることを期待して眠りについたのだった。


 ーーーーー


 次の日には出られると期待していたが吹雪は朝起きても収まっていなかった。

 むしろ吹雪が強まっているぐらいでとてもじゃないが外に出られない。


 仕方ないのでまた家に引きこもって吹雪が明けるのを待つ。

 さらに丸一日待ってようやく雪がちらちらと降るぐらいに弱くなった。


「挨拶に行く前にやることがある」


 そう言ってイェロイドは二階に行く。

 二階は一階よりも狭く、屋根裏部屋のようになっている。


「それは?」


「スコップだ」


 部屋の隅に何本もの先の四角いスコップが置いてある。

 イェロイドたちトショウ族はスコップを一人一本ずつ持つと二階の木窓を開け放った。


 かなり大きな木窓は開けると一気に冷気が入ってくる。


「さ、寒い! 何すんの?」


「えっ!?」


 早く閉めてほしいなとエニが思っているとイェロイドたちは窓から外に飛び出していった。


「だ、大丈夫……」


「はははっ! これはやはり吹雪いた後の醍醐味だな!」


 ジケが慌てて窓から外を見るとイェロイドは大の字になって雪に埋まっていた。

 ずっと室内にいるのでジケも気づいていなかったのだが、外は集落についた時とは比べ物にならないほど雪が積もっていた。


 イェロイドはしばらくモゾモゾと雪と格闘して立ち上がった。

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