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軽い因縁3

「ギリギリだったな」


「あんなか歩いてらんないよ」


 ゲツロウ族の集落につく少し前ぐらいから天候が怪しくなり始めた。

 雲ひとつないような快晴だったのに、あっという間に重たい雲がどこからかやってきて雪が降ってきた。


 吹雪く前にどうにかゲツロウ族の集落についたのでよかったのだが、雪が降り始めてから瞬く間に吹雪となってしまって危ないところだった。

 今はトショウ族が取引したり吹雪のために泊まったりする用に確保してある家にいるのだが、雪が壁を叩きつけるような音がしている。


「こんな中じゃ挨拶にも行けないな」


 本来ならゲツロウ族の族長に挨拶をして取引開始といくところなのだが、吹雪いてきたために先に家に入ってきた。

 こうしたことは時々起こるのでゲツロウ族も怒りはしないが、今回はジケたちもいるので挨拶ぐらいはしておきたかったとイェロイドは思った。


「これは外出できないな」


 外の様子を確かめようと木窓を少し開けただけで風と雪が吹き込んでくる。

 家から族長の家まで行く間に遭難してしまいそうだ。


 吹雪が弱くなるのを待って挨拶や取引に向かった方がよさそうだと判断した。


「あまり大きな家じゃなくてすまないな」


 こうして吹雪くと泊まることもあるけれど、他の部族に立派な家など建てて持ってはいられない。

 あまり大きな家ではないのでジケたちも含めるとちょっと狭い。


「こんな状況だと吹雪に晒されないだけマシなものだ」


 マントで体をくるんだキノレは壁に寄りかかって座っている。

 雪深い外を歩くだけでも大変だ。


 吹雪いていたら老体にはかなり堪えるだろう。


「たとえ獣人の戦士でも吹雪の中では活動しないからな」


 体が頑丈な獣人でも強い吹雪が発生すれば家で大人しくする。

 自然の猛威の前には獣人も人間も等しく無力なのだ。


「そーいえばさ」


「うん」


 吹雪いているから暗いけれどまだ夕方に差し掛かるぐらいの時間であり寝るにはちょっと早い。

 家の中は広くもないのでできることも少ない。


 ちょっと話すぐらいのことしかやることがないのだ。


「ヒディとはどうなってんだ?」


「んふ……ゲホッ!」


 体を温めようとお湯をゆっくりと飲んでいたユダリカがむせる。

 どこかで触れようかなと思いつつヒディのことは聞いていなかった。


 過去ではユダリカとヒディは互いに強い絆で結ばれた夫婦だった。

 今回ジケが色々したおかげでユダリカがヒディと会うこともなかった可能性があったのだが、ジケがさらに手を回したおかげでユダリカとヒディはアカデミーで出会うことになった。


 ユダリカとヒディの関係は二人に任せているのでジケはノータッチである。

 ただヒディとも交流があるリンデランやウルシュナから時々話を聞くこともある。


 割といい感じになっていると聞いていた。

 知らない土地に来て、舐められてはいけないとかなり気の立っていたヒディも落ち着いてきていた。


 周りの人を警戒してばかりだったが、リンデランやウルシュナ、ユダリカを始めとした友達ができて周りを強く警戒することも無くなった。

 多少ツンケンした性格は元々のものなのであるけれど、分かって付き合えば問題にはならない。


「ま、まあ仲良くしてるよ……」


 ユダリカは耳を赤くしている。

 やはりユダリカとヒディの相性は悪くないようだ。


「どこまでいったんだ?」


「どこまでって……そんな……」


 ユダリカはますます顔を赤くする。


「手ぐらい繋いだのか?」


「べべ、別にそんなんじゃ……ない……けど……」


 何か心当たりはありそうだなとジケは目を細める。

 仲が良いのなら何より。


 まだまだユダリカとヒディも子供だから子供らしく距離を縮めていってくれればいい。


「アカデミーのダンジョンもクリアしたんだろ?」


 アカデミー地下にある、エスタルが管理するドールハウスダンジョンはちゃんと稼働していた。

 オロネアと相談の上で成績優秀な生徒に挑戦させていたのである。


 偶然ユダリカとヒディは同じチームとしてドールハウスダンジョンに挑んだ。

 当然ながらジケが挑んだ難易度では厳しいので内容もオロネアと話し合って色々と変えたらしい。


 そしてヒディの洞察力とユダリカの力でチームを導いてドールハウスダンジョンをクリアしたのである。

 ジケたちの後で攻略に成功したのはユダリカたちが初めてだったので噂はジケの耳にも入ってきていた。


「ああ、どうにかクリアしたよ。君の話も聞いたよ。あの不思議な声がジケの友達でしょ、って」


 ジケがユダリカに興味を持っていたことや色々あったことはもちろんエスタルも知っている。

 最初にダンジョンをクリアしたのがジケであることをユダリカは聞かされていた。


「なんかもらったのか?」


 ダンジョンをクリアしたジケは魔剣をもらった。

 今どうなっているのか知らないけれどクリアしたら報酬はあるのか気になった。


「うん。最後まで残って頑張った人には報酬もあったよ。俺はこれをもらったんだ」


 ユダリカが左手の袖をまくると黒い腕輪が付けられていた。


「へぇ、なんかカッコいいな」


 黒い腕輪は見た目にもオシャレだ。


「どんな効果があるんだ?」


「んーと……秘密!」


「えー、教えてくれよ!」


「今度教えてやるよ」


「……なんで今度なのか知らないけれど……気になるなぁ」


 何かあるのかユダリカは腕輪の効果をジケに教えてくれなかった。

 ユダリカも笑っているのできっと何か理由があるのだろうと少し追及してジケは聞くことを諦めた。

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