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軽い因縁2

「あれはなんなんだ?」


「気にするな。何と言われてもあいつらの創意工夫で生み出されたソリ……ぐらいにしか答えられん」


 次の日朝早くからジケたちは出発した。

 トショウ族は人間たちと秘密通路を通じて取引したものを他の部族と取引して生活しているらしい。


 狼王であるナルジオンがいるような町にも取引に行くことはあるが、大きな町になると人間と正規の取引があるのでそちらはメインの取引先ではなかった。

 トショウ族のメインの取引先はそうした大きな町に所属していない部族である。


 今は取引の商品を詰め込んだ荷物を背負ったトショウ族の人たちに同行してジケたちも雪原を歩いている。

 ジケはまたフィオスにソリになってもらってジョーリオに引いてもらっていた。


 魔獣という文化のあるエニたちでも奇妙な光景だなと思っているのだから、魔獣という文化のない獣人たちからしてみると余計に奇妙に映ることだろう。

 ただ荷物をソリで運ぶことに関しては羨ましそうな目をしている。


「ソリを使ったりはしないの?」


 ジケたちを案内するために本来行く予定ではなかったイェロイドも同行することになっていた。

 キノレにならってあまり丁寧すぎず、だからと言って乱雑にならない言葉遣いをするようにジケも気をつける。


 公的な場でもない限り言葉遣いが丁寧だと舐められるなんてなんともめんどくさいが、そんな文化だからしょうがない。


「無いこともないのだが……荷物を自分で持っていられない貧弱者だと思われるからな」


 イェロイドは少し困ったように笑って答えた。

 ソリを使うことももちろんある。


 部族内で重たいものを運ぶときには利用されることもあるのだが、外に出るときにソリを使うことはあまり多くない。

 なぜなら荷物ぐらい自分で持たなきゃ力が弱いとか体力がないとみなされるからである。


「……そうなんですね」


「めんどくさい文化だろう?」


「そんなふうに言ってもいいの?」


 めんどくさいなとはジケも思った。

 くだらない意地の張り合いのためにソリを使わず荷物を背負っているようなものでなんとも無駄なことである。


 ただそれをイェロイドが口にするのは意外だった。


「いいのさ。我々は力に優れていないが耳は他よりも優れている。周りにこれは聞いているものはいない」


 トショウ族の大きなミミは音をよく拾う。

 たとえ獣人たちの文化に悪態をついても今周りで咎める人はいない。


「昔から強いものが偉いという文化のある獣人の間では合理的ではない考えも残っている。もっと便利に生きるべきだと思うことは俺もある」


 トショウ族は獣人の中でも弱い方の部族である。

 周りの部族の状況や獣人をまとめ上げる人によってはしいたげられることもあった。


 昔から色々と取引を行って商人的に生きてきたので考え方も人に近いところがあるのだ。

 工夫を凝らして便利に生きられるのに獣人的なプライドが邪魔をして便利さをかなぐり捨てているところも少なくない。


 イェロイドとしては馬鹿らしいと思うのだ。

 ただこれから他の部族に赴くのだし獣人的な考えに基づいて動く方が全てが円滑に行くのだ。


 ジケたちは獣人ではないのでソリを使っててもイェロイドは何も言わない。


「なんなら荷物乗せてきます? まだ誰にもバレないでしょ?」


 ジケがフィオスソリを指差す。

 今は昨夜遅くまでギーサに付き合わされたキノレが休んでいる。


 見られることはないのならソリを使ってもいいだろうとジケは思う。


「…………確かに、そうかもな」


 言われてみればその通りだとイェロイドは思った。

 誰も見ていないのに誰かに見られることを恐れてどうする。


 幸い雪原は見晴らしが良い。

 誰かが近づいてきたり、ゲツロウ族の集落に近づけば分かる。


 今からしっかり荷物を抱えて獣人の習慣にこだわることなどない。


「荷物を少し預けさせてもらってもいいか?」


「もちろんです」


 イェロイドは荷物をフィオスソリに乗せる。

 中でも年長者でもあるイェロイドがそうしたから他のトショウ族も荷物をフィオスソリに乗せた。


 ただ一番若いトシュウ族だけは頑なに自分で荷物を持つのだと言って聞かなかった。

 そうしたこともまた個人の選択である。


「……山へ吹く風が強くなってきたな」


 天気はいいけど風はそれなりに吹いている。

 風が吹くたびに顔が冷たくなるのでエニはひっそりとジケを盾にして風を防いでいる。


 ジケも盾にされていることは理解していてそのままにしていた。

 エニが快適ならその方がいい。


「山に風が吹くと何かがあるの?」


「山に向かって風が吹き始めると強い吹雪がその後に発生するんだ。この風の具合ならそう遠くないうちに吹雪が来るだろうな」


「その前に集落つくよね?」


「多分な。吹雪になってもかなり近いところまでは行けるから大丈夫だろう」


 本当なら取引ももう少し後の日程で行われる予定だった。

 しかし風が吹き始めて吹雪が近いことを悟ったので前倒しで出発することにしたのだ。


「山に近い方が吹雪は強くて長引く。吹雪く前に山から離れてしまう方が最終的に早く動けるようになるんだ」


「へぇ」


「吹雪くと危ないからな。急ごう」


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