フィオスソリ2
「レディーファーストだ」
「乗っても大丈夫なの?」
「もちろんだよ。フィオスと俺を信じて」
ジケの手を取ってエニがフィオスソリに乗り込む。そしてジケも乗る。
ジョーリオが引っ張るとフィオスソリはうまく雪の上を滑り出す。
「うん、いい感じだな」
ジョーリオも雪に埋まったり滑ったりするはないようでジケも安心した。
「まあ交代交代だな」
お試し走行でも問題はなかった。
ただ一つ問題があるならフィオスがそこまで大きくないということだ。
全員を完璧に乗せるソリになることは大きさの都合上流石のフィオスでも難しい。
仕方ないのでフィオスソリでの移動は交代で乗り、主に荷物を載せていくことにした。
「まー、荷物ないだけでもだいぶ違うな」
力のあるリアーネは比較的重たい荷物を持っていた。
フィオスソリに荷物を預けただけでもかなり身軽になった気分だった。
山を越えるとさらに雪深くなって歩きにくくなった。
イェロイドが急ごうといった理由も分かる。
けれどフィオスソリに荷物を預けて交代で休みながら移動できるようになったので、移動速度もそれほど下がりはしなかった。
「しかしまた変なこと考えるもんだよな」
フィオスソリに乗っているのはリアーネとエニである。
順番に乗っていき、最初は別にいいと言っていたリアーネも好奇心に勝てずにフィオスソリに乗り込んだ。
リアーネの言葉も消してジケを馬鹿にしているのではない。
むしろ褒めているぐらいのつもりである。
町中で見たソリを自分の魔獣と自分の騎士の魔獣で再現しようだなんて考える人がいるだろうか。
ソリを使ってみようと考えつく人はいても今この場でソリを作ってみよう、作って試してみようなんて考える人はそうはいない。
「変ってなんだよ?」
「褒め言葉だよ。すごいなって思ってんだ」
普通の人からしたら変なこと。
ただそれも見方を変えるとすごいことだったり便利だったりする。
ダメならやめればいいし、失敗したら反省して次に繋げればいい。
こうしたジケの姿勢はリアーネも見習うところだろう。
「こう……フィオスのプニプニ感もあって面白いな」
リアーネはソリの内側をつつく。
外側は形が崩れないように金属になっているが内側はスライムボディーである。
プニっとした感触の上にリアーネとエニは座っているのだ。
全部金属にすると座っていてもお尻が痛くなる。
ついでに冷たさも伝わってしまう。
フィオスのスライムボディーならプニプニとしてて最高のクッションにもなる上に金属のような容赦ない冷たさも感じない。
時々内側の一部が伸びてきて足に触れるのはフィオスなりのイタズラなのだろうかとリアーネは思った。
「なんとも不思議なことをするな」
「そうでしょう? 私も今やあの人に興味津々なのだよ」
先頭を歩くイェロイドはチラリとフィオスソリを見て感嘆の感想を漏らす。
ソリを利用しようと考え、実際に方法を思案し、実行しようと試し、試すための手段も持ち合わせている。
不思議な少年であるとイェロイドはジケのことを見ていた。
さらにはキノレもジケのことを褒めるものだから余計に目を引かれる。
「本来なら私はここにいなくてもよかった。だけど彼がいたからここまできたのだよ」
「それほどの価値が?」
「分からん。真価は困難に直面してこそ輝くものだ」
「だがもう興味津々なのだろ? 興味があるではなく興味津々ときたものだ」
「どのような価値があるのか。あるいは……」
北の地にとって有益な人であるのかと見極めたいとキノレはジケのことを見た。
ユダリカの大きな味方になってくれるのならとひっそりと思う。
「まあいい。集落が見えてきた。予定よりも早く着いたな」
先の方に家が見えてきた。
明るいうちに着ければありがたいと思っていたがまだまだ日は出ている時間であった。
「キノレさんはいいですか?」
「それでは少し休ませてもらいますかね」
不思議な少年が獣人たちにどんな影響を及ぼすのか。
イェロイドはほんのりと期待を胸に持ったのだった。
後書き
とうとうこちらの小説も1000話をこえました!
ここまで続くとは正直書き始めた時には想像もしていませんでした。
今のところまだまだ書いていくつもりですのでこれからものんびりとお付き合いください。
いつも読んでいただきありがとうございます!




