8話『キスで目覚めた王子様』
今、俺とナターシャは同じベッドの上にいる。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
顔を赤くした彼女に、俺も同じくらいの緊張しながら答えた。
「はい、その、こちらこそ……」
こうなった経緯を説明するには少し時間を遡る必要がある。
◆
俺は王城に行き、母さんとナターシャに自らに起こった異変を伝えた。
「退魔の結界をしていても尚、お前は何らかの攻撃を受けたということは、敵が魔族ではない可能性も出てきたというわけか……。そうだとしたら厄介だな。益々相手の正体がわからなくなった……」
母さんはそう言い、考え込んだ。俺が初めて記憶を失った日は、ナターシャが完全に巫女の役割から解放された日であり、この国には魔族からの攻撃を防ぐ結界は張られていなかった。
そのため、俺が記憶を失くしたのも、そんな隙をついた魔族による攻撃だと思っていたのだが、その考え方自体が間違えている可能性が出てきたということだ。
巫女の結界は魔王ですらこの国を攻撃できない理由になっていたほど強力な退魔の力を有している。
しかし、それはどんな攻撃も防げるような万能な代物ではなく、それ以外の存在――例えば人間による攻撃には一切の効力を発揮しない。
そこから考えられる可能性として一番高いのは、この国を混乱させようとしている人間がいて、何らかの目的のために俺を狙ったということになるが、俺は未だ敵が魔族であるという可能性を捨てきれてはいない。
確証は無いが、俺の直感が一連の犯行を魔族による攻撃であると告げている。
俺が唯一記憶に留めているあの女は、間違いなくこの件の首謀者だろう。
その存在が俺にはどうしても人の形をしているだけの化け物にしか思えてならなかった。
そして、どうやらナターシャも俺と同じ考え方をしているようだ。
「……何らかの方法で退魔の力を克服した魔族がいる可能性も視野に入れるべきではないでしょうか?」
ナターシャの発言を聞いた母さんは、顎でしゃくって話の続きを促した。
「……仮にシュヴァルツ様に匹敵する強者が人間の中にいたとして、何故今まで姿を隠していたのかがわかりません。名声を求めるのならば、魔王を倒した英雄を狙うよりも、未だこの世に蔓延る魔族に刃を向ける方が建設的かと。それに、あくまでこれは私の巫女としての勘の域を出ませんが、どうしてもこの件の裏側には魔族が関わっているような感じがします……」
ナターシャの意見に母さんは頷いた。
「たしかに、このような高度な能力を有した人間が、記憶のみを狙うという動機もよくわからんしな。この不気味さも人間からはかけ離れた存在――魔族の思考と考えれば腑に落ちる部分も多い。……しかし敵が人間の中にいる可能性が出てきた以上、王国としては、他国による攻撃に備えて一層警備を厚くするつもりだ。その分、魔族に対する警戒は必然的に弱まる。だから、ナターシャは魔族からの攻撃に備えて、今まで以上にシュヴァルツと行動を共にしてもらえると助かるのだが……」
そうは言うが、正直俺とナターシャは、日中ほぼずっと一緒にいると言っても過言ではない。
側から見ればまごう事なきラブラブカップルだ。……婚約破棄してるけど。
とにかくこれ以上二人でいる時間を作れと言われても、俺にはどうしたら良いのかがわからなかった。
すると、母さんは、とあることを俺に尋ねてきた。
「……そういえば、お前たちは同じ部屋で寝ているのか?」
俺はその問いに首を横に振った。
「いえ。同じ家に住んではいますが、流石に寝室までは共有しておりません」
「何故だ?」
「何故って、その……気持ちの問題でして……」
……この母親は、息子になんてことを言わせるんだよ!
記憶が失くなって以来、俺とナターシャの寝室は別にしてある。
何せ、俺は未だ彼女に対して明確な好意を取り戻しているとはいえない状態だ。
寝室を共有する間柄というのは、お互いの気持ちが大事であると俺は考えていて、それは彼女にも理解してもらっている。
……なんか、よくよく考えてみると、俺って結構女々しい気がしてきたぞ。
「もしシュヴァルツに対する攻撃が魔族によるものだとしたら、ナターシャがすぐに駆けつけられるよう、可能な限りそばに居てもらいたい。息子の監視を頼めるか?」
そう言い母さんはナターシャを見る。あくまで、国の有する人間兵器ではなく、一人の自立した人間として、彼女の自由裁量に任せるという意味を込めての問いかけだ。
ナターシャは強張った面持ちで頷いた。
「私でよろしければ、誠心誠意シュヴァルツ様のお隣で、巫女の役割を果たしたいと思います……!」
退魔の力を持つナターシャに可能な限り俺を監視してもらえれば、今は対処法がわからなくても将来的に敵の突破口が見えてくる可能性は十分にある。
国が魔族への警備を緩めると決めた以上、可能な限りナターシャが俺の傍にいることが望ましいのはわかる。
だけど……
「申し訳ありませんがその話、断らせてもらってもよろしいでしょうか?」
俺はその案にはどうしても賛成できなかった。
「一応理由を聞こうか?」
「それは……その、俺も男ですし……ナターシャは女性ですし……。万一、俺が彼女を襲って……その、ナターシャの巫女の力が失くなってしまったらこの先王国の防衛力は……」
「煮え切らんやつだな。以前のお前がそんな状況に置かれたら……否、これ以上は不粋か。防衛力に関しても国の内外にナターシャの巫女としての任を解いたことを示した時から、最早以前のように国の所有物としての役割は期待しておらん。まぁそのヘタレ度合いなら、そばにナターシャを置いてもお前が獣欲に任せて彼女を襲うことはないだろう。決まりだな!」
「まっ、待ってください。母さん! 俺の話はまだ終わって――」
「この決定に関しては元よりお前の主張を汲むつもりはない! 今のお前が何者かによって、精神を操られていることも考えられるからな。ナターシャの個人的な意志の確認がとれた今、この話はこれで終わりだ! わかったか?」
「くっ……!?」
俺は渋面のまま母さんの言葉に従った。
◆
というわけで、俺とナターシャは同じベッドの上にいるのである。
……ああ。こんなんで寝られるのかな、俺。
てか、ナターシャ、端の方でに申し訳なさそうにしてるけど……あれって俺に遠慮してるよなぁ、絶対。
などと考えている俺に、早速彼女から声が飛んできた。
「あの……シュヴァルツ様。私が隣にいることが……嫌だったりしますか?」
「嫌……? 何故そんな事を……?」
「お義母様――いえ、女王陛下に対して、ああも強く反論なされていましたから……」
そういえば、あの時の俺の発言はそのように捉えられても仕方がないものだったかもしれない。
言われてみれば、会話の内容だけで判断すると、あの時の俺はナターシャを拒絶しているようにも思える。
……でも、むしろ逆なんだけどな。
「もう少し俺の近くに寄ってください。そんな端っこで寝ていたら、床に落っこちますよ」
「えっ……でも……」
「仕方ないですね、よっと!」
「きゃあっ!? シュヴァルツ様、何をされて……!」
俺はナターシャを強引に自らの胸元に抱き寄せる。
彼女から伝わる温もりが俺を緊張させるが、努めて平静を装った。
「勘違いさせてしまっているようですが、俺は貴女と一緒にいるのが嫌じゃありません。……むしろ、貴女は、俺とこうして一緒にいることが怖くはないのでしょうか?」
「……シュヴァルツ様が怖い?」
「今の俺は何者かに攻撃されています。ずっと起きているわけにはいきませんし、こんな状況では、無防備な貴女を危険な目に遭わせてしまうかもしれません。そうなってしまうことが、俺には怖いんです」
すると、ナターシャは俺の背に手を回してきた。それは何処か不安を感じているような仕草に思えた。
「私は……貴方がいなくなってしまうことの方が怖いです」
「俺がいなくなる……ですか?」
「シュヴァルツ様が魔王を倒し、帰って来るまでの間、私は貴方の帰りを願い……ただ待つことしか出来なかった。もう待つだけは嫌なんです……! 貴方が苦しんでいるのなら、私も貴方と共にその元凶と戦いたい! せっかく貴方のおかげで私は自由を手に入れたのだから、その自由という力で今度は貴方の役に立ちたいんです!」
ナターシャはそう言い、目に涙を浮かべた。
どうやら俺は魔王を倒しに行っている間、待たせているナターシャを物凄く心配させてしまっていたようだ。
……そして、それは今の俺も同じだ。
仮に危険があったとしても、それは俺だけの問題で、極力他人に迷惑をかけずに解決しようとしていたつもりだったけど……それが逆に彼女にどれだけの心配をかけさせていたのかを全く考えてはいなかった。
「……そうでしたか。わかりました。じゃあ、今回は貴女も俺と一緒に戦ってください!」
「はい、喜んで!」
ナターシャはやっと笑ってくれた。
その笑顔を見た時、俺は内側から湧き上がる強烈な感情を自覚する。
……どうやら俺は彼女のことがどんな存在よりも大切なようだ。
思えばこうやって、ナターシャの身を案じている時点で、俺は特別な想いを抱いているのは事実だ。
なんとなく、このような状況に既視感を覚えながら、俺は思いの丈を口にする。
「俺はキミのことを――」
『ほんと懲りないね、ダーリンも』
脳裏に女の声が聞こえてきた。ナターシャではない別の女の声だ。
俺はこの声を知っている……!?
……そうか。以前も俺はナターシャに自分の想いを伝えようとしたんだ!?
どうやらそれが、敵の攻撃のトリガーになっているらしい……!?
「――くっ!?」
「シュヴァルツ様!?」
俺が苦悶を表したのは、ほんの一瞬だった。その異変にナターシャは気づいてくれた。
だけどどうしようもない。俺の意識は闇に呑まれた。
◆
地平線すらない黒い空間が続いている。重力から解放されたような浮遊感は、ここが精神世界であることを示していた。
そこにポツリと一人の女が立っていた。真っ黒なこの空間よりも更に闇深く長い髪に、神秘的な美しさをその身に宿した美女だ。
その女を俺は知っている。俺の記憶を奪い去った元凶――化け物だ。
「お前は……いったい何者だ!?」
女の口元が不敵に歪んだ。
『ボクはイザベラ。ダーリンの妻になる女さ。……そんなことよりも、一体何回あのナターシャとかいう女に恋するわけ? いい加減、寛大なボクでも妬いちゃうよ?』
そう言いイザベラと名乗る女は体をくねらせた。人間の仕草を化け物なりに真似ているのだろうが、幾ら優れた容貌を携えていたとしても俺には吐き気を催すものにしか映らなかった。
「いつから俺の中に住み着いている……?」
『ダーリンとあの女が唇を重ねた時からかな? いつの世も、人間は平和ボケし始めると自ら武器を投棄する傾向にあるからね。本当はあの女の力が完全に失くなるのを待とうと思ったんだけど、ダーリンの初めてが奪われるのがどうにも許せなくて、ね。我慢できずに邪魔しちゃった!』
イザベラは自らの驕りを隠そうともしない。
そこからは絶対強者の自信を感じ取ることができる。
「巫女の結界を恐れるということは……やはりお前は魔族のようだな。どのような手品を使って退魔の力を欺いている?」
以前よりも弱まったとはいえ、今のナターシャに残された退魔の力でさえ、強力なことには変わりない。
つまり、イザベラは何らかの方法で結界の力を克服していると推測できる。
自らを強者だと思っているやつほど、驕りによって口は軽くなる傾向にある。
もしかしたら、そこから打開策が浮かぶかもしれないと考え、俺はイザベラに質問を投げかけた。
……ただ、イザベラはそんな俺の考え方すらも見抜きながら、あえてこうやって俺と会話に興じているような気もする。何せやつは俺の精神を侵食している根源そのものなのだから。
イザベラはやはり答えた。
『ボクは魔族だけど自らの肉体を持たない特殊な生き物――悪魔が1柱。わかりやすく言うと、人と呼ばれる種の肉体を依代にしてこの世に生まれる半人半魔。人でもあり、魔族でもあるけど、人でもないし、魔族でもないとも言える半端な存在さ。だから、ボクには退魔の力の影響は他の魔族の半分まで軽減される。これがキミの望む解答で良いかな?」
……半人半魔。そのような存在を俺は知らないが、イザベラの話通りだとするなら、たしかに退魔の力が効き難いことも頷ける。
「つまり、お前がこうして俺の前に現れたのも、お前の依代となっているその人間の少女の犠牲の上に成り立っているというわけか……」
だとしたら、度し難い悪行だ。そんなイザベラに俺は睨みを効かせるが、イザベラはどこ吹く風の態度を崩すことはない。
『ただの人間の身体だと、ここまでの芸当は難しいかもね。やっぱり、退魔の力を欺くには……これくらいしないと』
イザベラは自らの髪をかき分け、特徴的な長い耳を露出させた。
「……エルフだと!?」
人間の近縁種の一種――エルフは魔法に対して人間以上に強い適正がある。
魔族でありながら退魔の力に耐性を持ち、そこにエルフの魔法の素養が加われば、イザベラの言う通り、弱体化した巫女の結界ならば欺くことができてもおかしくはない。
イザベラは続ける。
『エルフって、魔力はあるけど、運動能力がめちゃくちゃ低くて疲れやすいんだ。本当は直接赴いてこの地を滅茶苦茶にした後、ダーリンをカッコよく攫いたかったんだけど、なるべく遠足はしたくないから、こんな形でキミに会いに来たってわけさ』
「そこまでして何故俺を狙う!? その理由はなんだ?」
『前にも言ったよね。ダーリンの初めては、ボクが貰うって。ボクはキミと子作りがしたいんだよ。前代の魔王はキミにやられちゃったけど、そんな魔王を倒したキミとボクの子なら、きっと更に優れた存在になると思わない? それに、人間の血がより濃くなるから、これから先の未来に現れる巫女への強力な抑止力にもなるし〜? 良いこと尽くしさ!』
「残念だが、俺は死んでもお前とその様な関係になるつもりはない! お前のような外道とは断じて!」
『あーあ、振られちゃった。しくしく……でも、口ではそう言ってるだけで、心はボクにメロメロかもよ? ダーリンはツンデレだから。……で、次はボクから質問なんだけど――』
イザベラは邪面を浮かべた。
『――ボクのこと……好き?』
イザベラのその言葉と同時に心臓を鷲掴みされたような感覚が俺を襲う。
「――なんだこれは……!?」
イザベラに対して、無いはずの記憶が波のように襲ってくる。
それはかつてナターシャと築き上げてきた思い出に、無理矢理イザベラを塗りつけられたものだ。
『それが――君がボクに恋をしているという証拠さ! 子作りには愛情が欠かせないだろ? だから、キミにはボクを好きになってもらおうと思って、あの女との思い出を――愛した感情を全部ボクのものへと書き換えてやったのさ! 流石は魔王を倒した英雄だけあって、ダーリンにバレずに行動するのは苦労したよ。まぁ、それもこれも、ダーリンがあの巫女の力を喪失させてくれたおかげだよ。あはっ……あっはははははは――』
破裂したような笑い声は非常に耳障りだった。そんなイザベラのことを、愛しく思い始めている自分のことも、同じくらい不快だった。
そんな腐った想いを消そうとしても、かなぐりすてようとしても、すぐにイザベラへの偽りの思い出が俺を蝕み、侵食してくる、蹂躙してくる――。
……いやだっ!
俺は……俺はこんな奴にナターシャとの思い出を穢されてしまうのか!
……いやだ、失くしたくない! こんなやつを愛したくない!
いや……だ……いや……だ。
……ナターシャ……
――シュヴァルツ様が、どうかご無事でありますように。
偽りの記憶や感情の濁流が俺を襲う中、一筋の光が声となって俺の中に届いた。
これは……ナターシャの祈り?
……俺の無事を祈る願い……なのか?
光明を求めるように、俺はその声の方向に感覚を向けると、溢れんばかりの光に包まれた。その力は正しくナターシャの巫女の力――退魔の力だ。
……しかし、イザベラはそんな退魔の力に対しても動じはしなかった。
笑いながら、手を広げている。どうやら真っ向から迎え撃つようだ。
『……どうやら、キミの異変に気づいた巫女が外からボクに干渉してきたみたいだね。でも、弱体化した巫女に宿る退魔の力程度でこのボクには勝てるわけな――え……?』
……いや、違う。これは……この光の量は……おそらく全盛期のナターシャに宿る退魔の力の総量に匹敵するだけの力がある。
イザベラの反応を見るに、どうやら奴の想定をもはるかに超えているようだ。
そんな光の全てが、俺の中にいるイザベラに降り注がれた。
『馬鹿な!? ボクはたしかにダーリンとあの女が唇を重ねるのを――巫女の力が弱まるのを待ったはずだ!? なのに、なのに、なんでこんな力が未だあるんだよぉっ!? あああっ!? ああああああっ!? あああああああああ――』
イザベラの驚愕混じりの断末魔と共に、俺の中の闇が晴れた。
◆
目を開けると、視界に映ったのは、ナターシャの姿だ。ただ、あまりにも……顔が近い……否、これは……
唇に柔らかいものが当たる感触がする。
……キスをしているのか。
ああ、そうか。なんとなくだけど、奇跡の理由がわかった気がする。
巫女の力は男と交わると喪失すると伝わっていたが、それは正確には誤りで、ただ消えて失くなるわけじゃない。
俺とナターシャが初めて唇を交わした時に、彼女に宿る退魔の力の半分を、俺が奪ったんだ。でも、俺にはその力を使いこなせないから、それは俺の中で眠り続けていた。
俺を助けたいというナターシャの強い想いが、そんな俺の中に眠っていた退魔の力を呼び起こし、俺の中に巣食っていた魔を払ったんだ。
このことは幾ら過去の文献を調べたとしても決して知ることはできないだろう。
何せ巫女とは人類にとって、退魔の力を宿した人間兵器でしかなかった。
彼女たち巫女は、人を愛することも、人に愛されることも禁忌とされて封じられてきた。だから、この世でこの事実を知っているのはきっと俺たちだけだ。
魔王から世界と惚れた女を取り戻すことに成功した俺は、どうやら惚れた女の口づけによって救われたことになるらしい。
流石は俺の女である。
唇を離すと、顔を赤らめる彼女が見え、それはとても愛おしく、とても可愛いらしく感じられた。
「おはようございます。……シュヴァルツ様」
と、ナターシャは俺に挨拶をした。
……さて、一つ大きな問題がある。それはこの後、俺は彼女にどのような言葉を投げかければ良いかがわからないということだ。
女性経験の乏しい俺にとって、唇を交わした後にかければ喜ばれる適切な言葉なんてわかりはしない。
俺の記憶も、全て戻ったわけではないため、昔のように気の利いた甘ったるい台詞を言える余力なんてない。
ただ、ずっと前から言いたかった言葉があった。イザベラに掻き消されてずっと前から言えなかった、あの想いを……
「……愛してるよ、ナターシャ」
俺は胸中の想いをやっと伝えることに成功した。