第十八話……出陣と略奪
――暫くして。
春小麦の収穫が終わり、夏場ひと時の農閑期になった。
「ご注進、ご注進!」
ジェスター男爵からの使者が来た。
正式な出兵依頼だ。
傭兵の立場なら拒否できるが、いまは騎士の立場。
寄り親の命令は王の命令に等しかった。
「どうした?」
「はっ! ジェスター男爵は宿敵アルゴン帝国領にご出陣。ご加勢のほどよろしく頼むとのことです!」
「わかった! すぐに出兵する!」
「有難き幸せ!」
私は使者に返答すると、出陣の準備に取り掛かった。
配下の傭兵には、干し魚を売ったお金で、馬とチェインメイルを貸し出した。
私に課された負担は兵卒10名。
私を除いて9名である。
ジムたち傭兵4名の他に5名ほど連れて行く必要があった。
「村長、すまないが5名ほど選抜して欲しい!」
「わかりました……」
私は集落の長の長に、若者5名の徴用を頼んだ。
これはとても気が進まなかった。
死ななくとも、もし重傷を負えば、その家庭は崩壊してしまう。
それは今日現代のような社会保障制度は無かったためだ……。
こういう体験をすると、現世界の社会保障体制は如何にありがたいものか分かった気になってしまう……。
私は行商人に借金をし、徴用した傭兵にも皮鎧など、比較的マシな装備を用意した。
もっとも、戦に勝てば、彼等にも敵兵からの強奪自由などの恩恵はあったのだが……。
「いくぞ!」
「「「おおう!」」」
意外にも、若者の徴用は上手く行った。
むしろ希望者が多数だった。
年が若いと、農村で暮らすよりも手柄を立てて、なにか一つ出世したくなるものだ。
私も同じ経験をしたことがあったのだ。
私の部隊は、騎兵5名、歩兵5名、併せて10名の部隊になった。
もちろん召喚の巻物にはナンシーやポコたちを潜ませる。
大切なのは皆が無事に帰るコト。
もう一つはあわよくば手柄を立てることだった。
……なにしろ、私も功が欲しい若者のひとりであった自覚があったのだ。
私達はミューゼル騎士領を進発。
途中、ジェスターの街に補給で立ち寄った後、前線の砦に入城したのだった。
☆★☆★☆
「よく集まってくれた! 礼をいうぞ!」
ジェスター男爵は配下の騎士たちに礼を述べる。
騎士たちは総勢50名といったところ。
それぞれ各位10名の従者がいると考えて500名。
それに男爵が臨時で雇用した傭兵500名、併せて1000名の軍勢であった。
「すなわち、我が聖王プロトン7世の命により、敵領を灰燼せしむ!」
「「「はっ」」」
敵領に対し、戦前調略など企図されず、勇ましく出陣。
我々は、砦から出でて敵領土に放火、略奪の限りを尽くした……。
……見るも無残な光景であった。
「敵影見ゆ!」
「ご注進! 敵影みえました!」
「応、やっと来たか!」
敵地の拠点まで進むのは容易い。
……が、拠点である防御施設を攻撃するのは約4倍の兵力が必要というのが定石だった。
そのため、周囲の集落に放火略奪して、野戦におびき出すのである。
もし城から出て来ねば、全ての村民を奴隷商に売り飛ばすのみであった……。
しかして、古代、中世とはそういう時代なのである。
「各々、布陣いたいませい!」
伝令が飛び交う。
敵は右と左を林に囲まれた平地を決戦の場に選んだ。
右翼と左翼の危険を取り払うのは、用兵上の基本で定石であった。
「よき相手ぞ! 我々もそこへ向かえ!」
ジェスター男爵は各隊に略奪を中止させると、戦場への急行を命じた。
我々は編成を整え、敵陣に対したのだった。
☆★☆★☆
「歩兵隊前へ!」
「弓隊放て!」
双方の歩兵が前に構え、後ろから弓兵が射撃する。
……しかし、この距離では安易に盾で防がれる。
「右翼突撃!」
本陣から角笛が鳴らされ、右翼の傭兵騎兵が勇躍して突っ込む。
それに応じて左翼の敵騎兵が突っ込んだ……。
「旦那、我々は何をするんで?」
「じっとするのも仕事のうちだよ……」
私は配下の農兵にそう応じた。
我々は装備が良かったので、本陣警護の予備隊に抜擢されたのだ……。
手柄が立てにくいが、死傷率が極めて低い立ち位置であった。
今回は、昔の戦国武将が自部隊の損耗率を抑えるために装備率を上げたことを真似していたのだ。
それはジェスター男爵の心を動かし、我が隊は安全の位置を得た。
ただ、その分、商人への借財が嵩んでしまったのだが……。
「お味方劣勢!」
「右翼ご敗走!」
「なんだと!?」
自領の村落が略奪にあったため、敵側の戦意は著しく高揚。
翻って見て、我が方は略奪物資を抱えての歩は重く、すぐに戦列は崩れた。
「逃げろぉ!」
「逃げるな!」
右翼の大多数は傭兵部隊。
略奪が終われば、残りの戦いなどおまけに等しかったのだ……。
傭兵部隊を指揮する騎士長が、遂に敵に討たれ、味方の右翼は総崩れになった。
「……ぬうう、小癪な奴らめ!」
「予備隊を右翼へ回せ!」
「ははっ!」
遂に予備部隊の出番である。
ジェスター男爵の本陣を守っていた予備部隊が右翼へと加勢する。
つまり、我々の出番であった。
「いくぞぉ!」
「「「おおう!」」」
皆勇ましい。
きっと出番を待っていたのであろう。
味方右翼を切り崩した敵に、我々は堂々と対したのだった……。
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