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王子様と婚約したいのにシスコン兄のせいでダメかもしれない  作者: 丹羽夏子
第3章 お兄様を婚約させたい!!

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第16話 オレンジの百合の花言葉は「愉快」です

 流れとしてはこんな感じである。


 まず、レギーナが友人知人の女性でいい感じの条件の人に片っ端から手紙を書く。

 本人からいい感じの返事が返ってきたら、父に報告する。

 そして、父から相手の父親に手紙を書く。


 貴族の令嬢は自分の意思だけでは結婚できない。まずは両家の親の都合だ。


 だが、ナスフ家は四百年の歴史を持つ名門中の名門である。しかも帝国最強の騎士団をもっている。ナスフ家のほうから頭を下げてくるのならばと重い腰を上げてくれる国はある。


 そんな状況でも十回婚約破棄された古傷をえぐられつつも、ここは兄の幸せのためだ。


 レギーナは歯を食いしばってがんばった。

 足元を見られているオットーも悔しさのあまり七転八倒だったが、息子のために一肌脱ぐと言ってなんとかこらえた。


 手紙を送り始めてからなんとか一ヵ月、最終的に三人まで候補を絞った。あとは本人たちの相性を見るために見合いでもしよう、という話でまとまった。


 いい仕事をした。


 ただ、この三人の中に気になる候補者がひとりいた。


 ザミーン侯爵イヴァーノの妹、カロリーナである。


 このイヴァーノは、例の、テーブルクロス引きをやってしまった十回目の婚約者候補である。


 彼がいうには、こうである。


 あの時はたいへん申し訳なかった。こちらこそ頭を冷やして反省した。

 もう一度求婚しようと思った時にはレギーナ嬢には新しい婚約者候補が現れたという話になっていた。

 悲しいがレギーナ嬢の幸福を祈る。

 そしてまた別の形でナスフ侯国とザミーン侯国に縁を結びたい。


 父オットーは「では最初からレギーナで耐え忍べ」と吐き捨てたが、今やロビンしか見えないレギーナは一周回ってイヴァーノに感謝している。


「仕方があるまいな。お前が自分でザミーン侯爵家に手紙を書いたのであろう?」

「はい」

「恥を忍んで……可哀想なことをした」

「うっうっ褒めてくださいますか?」

「しかしお前も政治のことをよくわかっておる。さよう、ナスフ国とザミーン侯国は古くからの結びつきのある家、ここで縁組をして関係を強化するのはとてもよいことなのだ」


 それを破談にしてしまった自分の情けなさがつらい。


「だが、イヴァーノ殿も思い切ったな」


 オットーが自分の顎を撫でる。


「あの時アーノルドも同席していたのだから、アーノルドがどんな男か知っておろうに。それでも自分の妹との婚約を認めるのか」


 言われてみればそうだ。イヴァーノはアーノルドの剣幕に押されていたと思うが、自分の結婚と妹の結婚は別だということか。


 自分自身とアーノルドの相性が悪くても妹とアーノルドの相性がよければいいのか、レギーナをザミーン侯国に連れて帰るのは嫌でもカロリーナがナスフ侯国に連れていかれるのはいいのか、そういうあれこれを乗り越えてでもナスフ侯国との結びつきを強化したいのか……。


 イヴァーノの真意はわからなかったが、何はともあれカロリーナは確かにアーノルドの言う条件には合いそうである。


 どちらかといえば明るく社交的な兄イヴァーノに対して、妹カロリーナは物静かな女性だ。

 レギーナとしてはちょっと気の弱い印象が強いが、気の強い嫁が小姑のレギーナとバチバチやるのを考えると、これくらいできっとちょうどいいだろう。


 アーノルドはああ見えて弱い者には優しい。

 強く誠実な騎士として、儚い姫君を守る、というのは、合わないわけではないのである。


「イヴァーノ殿の腹の内を探るためにもまずはカロリーナ嬢とアーノルドを会わせてみるか」


 そう言って、オットーはペンを取った。


「この城でザミーン家とナスフ家の友好関係を深めるという名目で茶話会を催そうと思う。今度こそ城に滞在してナスフ家の視点からこの国の様子を見ていただくイメージでな」

「そうですね」

「お前、もてなしの準備はできるか?」


 レギーナは張り切って「はい!」と元気よく返事をした。


「マグダレーナがしていたようにすればよい。あのマグダレーナの娘であるお前ならばできる。それに侍女たちや家令もフォローしてくれるであろうからそこまで緊張せずとも大丈夫だ」

「任せてください!」




 茶話会では何をどうしようか考え、ひとりで盛り上がりながら塔の部屋に戻ろうとしたところ、母屋の廊下で巨大な花束を抱えたテオドールと出くわした。

 百合の花束だった。オレンジ色の百合だ。それが十本以上束ねられている。


「何それ」


 アーノルドのお相手探しで燃え上がっていたレギーナは、ひょっとしてこいつもか、と思ったが、テオドールはこんなふうに答えた。


「いや、姉上あてだから部屋に持って帰ってよ」

「え、わたし?」

「ロビン王子からだってさ」


 テオドールは、左腕に花束を抱えたままの状態で、手品のようにパッと器用に右手で手紙を持っているのを見せた。確かに封蝋がパランデ王家のものだ。


 レギーナは自分に満面の笑みが広がっていくのを感じた。


 ロビンが王国に帰ってからというもの、レギーナとロビンは手紙でやり取りをするようになっていた。

 しかしパランデ王国の都とナスフ侯国の都は普通なら馬で一週間、早馬でも片道二、三日の道のりで、手紙は最短でも一週間に一往復しか交わせない。

 筆まめなロビンはすぐに返事を書いてくれたが、レギーナはロビン欠乏症で飢えていたのである。


「ロビン様ぁーっ!」


 勢い余ってテオドールに抱き着いた。テオドールが「花が潰れるよ」と姉をたしなめた。


「まさか生のお花を届けてくれるなんて!」

「いや、さすがに使いの者に城下町で買うようにと手配したんじゃない? けど、それでもなかなか粋だね。やるなぁ色男」

「そうなの、わたしのロビン様はできる男なのーっ」


 ここのところ兄のことで忙しかったが、心がスカッと晴れた。この文通が今のレギーナの心の支えなのだ。


「ありがとうテオドール! 持って帰るわ!」


 手に手紙を持ち、腕には花束を抱えて、鼻歌を歌いながら階段を駆け上がる。


 嬉しい、嬉しい、嬉しい! 喜びで胸がはち切れそうだ。


 途中で出会ったエラに花瓶の用意をお願いして、とりあえず自分の部屋に入り、チェストの上に花束を置く。


 封蝋を割って、中を開いた。

 少し線が太いが丁寧で読みやすい、愛しいロビンの字だった。




拝啓 レギーナ様



 日ごとに暑さが増してくる頃となりましたが、あなた様におかれましてはお元気であるものと信じております。


 僕は今避暑のために王国内でも南部の山中の保養所に来ています。

 湖の美しい地方で、いつかあなた様もお連れしたいものです。

 しかし淡水の水辺に来るとナスフ侯国の清流のそばで過ごした日々のことが思い起こされます。


 ここだけの話でご内密にお願いしたいのですが、僕の兄は実はあまりお体が丈夫な方ではありません。

 今回の避暑旅行も、おひとりでは不安とのことで僕は兄のお供としてついてまいりました。


 あなた様もいつかこの兄にお会いいただけないでしょうか?

 なんとかしてうまくいくよう知恵を絞ります。



 アーノルド殿のお相手探しの件、早くまとまるよう僕も祈っています。


 悲しいことですが、このファルダー帝国はどうしてもナスフ侯国派の諸国とパランデ王国派の諸国とでにらみ合いが続いています。

 冷静に考えれば当たり前のことなのですが、あなた様がアーノルド殿のお相手探しをしている国々はナスフ侯国派の国々のようです。

 したがって僕のもとには表面的な情報しか入ってきません。

 遠くから前進をお祈りしておりますが、くれぐれも焦らないように。


 しかし、アーノルド殿が別に家庭をお持ちになれば我々もふたりでゆっくりした時間を取れそうだと思ってしまいます。

 僕がこんなことを書いていたというのも、アーノルド殿には秘密でお願い致します。



 それでは、ご自愛ください。



敬具 ロビン




 レギーナは頭に雷が落ちたような衝撃を受けた。


 確かに。

 アーノルドが結婚してくれたら――もっと言ったら、婿に行ってくれれば、自分とロビンの間の邪魔者もいなくなる。何せアーノルドが一番かっかしていたのである。アーノルドさえ排除できれば、自分たちの静かで幸せな時間が確保できるのではないか? がぜんやる気が湧いてきた!


「レギーナ様」


 扉を叩く音がして、エラの声が聞こえてきた。


「花瓶、お持ちしましたよ」

「ありがとう、入って!」


 小柄なエラが大きな花瓶を抱えてえっちらおっちら入ってくる。


「これですね、例の百合の花束」

「そうなの、どうやって活けたらいい? お願いしてもいい?」

「ええ、構いませんよ」


 エラはするするとリボンを解き、花を広げた。


「それにしても、ご立派な花束。お高かったでしょうに」

「しかも百合よ、百合。わたしには清楚で気高いイメージがおありに違いないわ」

「まあ、オレンジの百合の花言葉は、愉快、ですけどね」


 レギーナはまたショックを受けた。


「……えっ?」

「百合も色ごとに違う花言葉がありますので。清楚やら高貴やらというのは白百合のことですよ」

「愉快……ってなに?」

「ロビン様の中のレギーナ様の印象なのでは?」


 ちょっと泣いてから、ありのままのレギーナを見つめてくれているということにしておこう、と切り替えて立ち直った。






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