8話 仲間の景色
その時は来た。
俺は緊張はしていたが、自信があった。
そして指揮官エージェントが来た。
「よし、皆集まったな。1年間良く頑張ったな。
ということで、今日は最終試験の日だ。
戦い方によってエージェントの配属先が決まる。
思う存分、力を発揮してくれ。」
「はい!!」
「まず戦うのは部屋同士での戦いだ。
相部屋のメンバー同士で戦い勝った者が次へ進む。」
ということは、俺は翔と戦わなくてはならないということになった。
俺が翔を見ると、翔は笑みを浮かべていた。
「望むところだよ!」
翔の目に迷いは無かった。
翔もここまで頑張って力と自信を付けていた。
戦う準備はできている。
「では配置に着いてくれ。」
正直、翔と戦うつもりは無かったから対策はできていない。でも翔と長い時間一緒にいたのは俺だ。
どんな戦いをするか見てきたのも俺だ。
だいたいはイメージが出来た。
「じゃあ、行くよ!」
「あぁ。」
「始め!」
「水醒龍!」
地面から湧き出た水が翔の体を螺旋状に覆って空へと舞い上がった。
それはまるで本物の龍の様だった。
20メートルくらいの高さはあった。
「翔、こんなの出来たのかよ……」
「成長してるのは蓮だけじゃない!」
翔の水醒龍が襲いかかってきた。
スピードも早く、アルファマインドで避けるのがやっとだ。俺は空高く飛んだ。
「風伝波!」
水醒龍に当たったが、直ぐに再生した。
「くそっ、突き破れないか。
あの水醒龍って技、攻撃もできるし防御にも特化していやがる。どうするか……」
その後も翔は攻撃を止めず、連続で水醒龍がぶつかってきた。すると、左腕が巻き込まれた。俺はそのまま水に引っ張られ、螺旋状の水の中をグルグル回され地面に思いっきり叩きつけられた。
その勢いのまま水醒龍が突っ込んできた。
「これで終わりだ。」
『ズドーンッ!』
俺はアルファマインドのおかげで地面に叩きつけられたときの衝撃を軽減し、その後も攻撃を避けることができた。
「流石だよ、蓮。」
「俺もやられてばっかじゃ終われねぇよ!」
俺は翔の方へ全力で走り出した。
翔もまた水醒龍をぶつけてこようとしていた。
「ならぶつかってやるよ。」
俺は足に風のパワーを溜めた。そして大きく回転した。
「風見鶏!」
水醒龍を風とスピードで粉々にしている。
翔の前まで行くとそのまま風見鶏で翔の腹に直撃させ吹き飛ばした。アルファマインドを発動しての風見鶏だったので、効果は抜群。翔は動けなかった。
「ま、まさか……水醒龍を破壊するとはね……絶対後藤に負けるなよ。」
俺は翔に勝った事で、また自信に繋がっていた。
翔は起き上がれなくて少しそこで休んだ。
山ちゃんと矢部はもちろん山ちゃんが勝った。
加賀も勝ち上がり、清水さんは相部屋が安西さんだったのでシードの様な扱いだった。
後藤は相部屋の杉山 東吾と戦い、地味な戦いをしながらも勝利を収めた。
皆着々と勝利を勝ち取っている。
俺はその後も勝利を収めて、ついにこの時が来た。
後藤との決戦だ。3度目の正直。
「よぉ、対策はできてんのかよ。」
「まぁ気楽に行くよ。」
「なめやがって……」
「始め!」
2人は前回と同じように始まった瞬間衝突した。
接近戦での戦いだった。
「金剛石衝撃。」
両手がダイヤモンドで覆われ、連打攻撃を繰り出した。
「くそっ! 当たんねぇ!」
俺は攻撃を避けながら風の力を両手に集中させた。
「風裂掌!」
俺も負けじと連打を撃った。
手と手がぶつかり合い風でダイヤモンドを砕こうとしたが、やはり硬い。
砕くのは流石に不可能だった。
「ダイヤモンドが砕けるわけねぇだろ!」
後藤はその後も連打の勢いを強めていった。
戦いは後藤のペースだった。
「くそっ! 距離が欲しい。風見鶏!」
俺は風見鶏で距離をとった。
後藤とやり合うには考える時間も必要。
そしてあの能力を使うのを待っていた。
「長くなりそうだな。すぐに終わらせてやるよ。」
「貫通!!」
後藤の両目が青く光った。
もちろん逃げも隠れもせず走ってくる。
前回同様、すり抜けてからダイヤモンドバーストで吹っ飛ばす戦法だろう。
俺も走っていった。
「どういうつもりだ。負け急ぐ事はねぇぞ!」
そしてお互いの身体がすり抜けた。
「終わりだ!」
後藤は踏み込んで俺にダイヤモンドバーストを使おうとするが、俺はそのまま駆け抜けた。
「何してんだアイツ。」
すると、後藤の後頭部に何かがぶつかり大きく回転しながら倒れた。
「くそっ痛ぇ……てめぇ何しやがった!」
「可哀想だから教えてやるよ。
俺は走る前に風伝波を放った。
そして俺は風伝波より早く走って追い抜いたんだ。
その後すり抜けた瞬間、お前はダイヤモンドバーストを使って俺を攻撃する為に貫通を解く。
したらお前の頭に直撃ってわけだ。」
「お前調子乗ってんじゃねぇぞ! くっ……」
『後頭部にまともに食らって立てねぇ……』
「俺があいつをぶっ潰すんだ……エージェントなんて辞めさせてやる……お前の未来は俺がぶっ潰してやる!」
「知ってるか。未来ってのは気持ちが強い奴の方に何故か動いちまう。俺はお前に勝つために何ヶ月も努力してきた。お前が余裕ぶっこいてる時もな!」
俺は足に風を溜め、後藤の方向へ進む為に放出した。
とてつもないスピードで後藤へ近づく。
「俺の夢をお前なんかに壊されてたまるかぁ!!」
後藤に飛び蹴りをしたが、後藤は海老反りになってかわした。そして俺は後藤の真上にいる。
後藤の右手はダイヤモンドで覆い尽くされていた。
「負けてたまるかぁ!! ダイヤモンドバースト!!」
真上にいる俺を空へ吹き飛ばそうとしていた。
「勝ったぁ!」
後藤はそう確信していたが、俺はここを狙っていた。
「ここだ! 風伝波!」
逆に真下にいる後藤を左手で風伝波を使った。
ダイヤモンドバーストを繰り出しているからスルーは使っていない。
そして、後藤は直接ぶつけなければいけないのに対して俺は風伝波でぶつけるだけ。
風伝波は後藤の顔面に直撃し、地面に大きく叩きつけられた。地面も砕けるほどに。
後藤は動けないままでいた。
「この勝負、小原の勝ち!」
「え、小原が後藤に勝った!?」
「すげぇよ!」
「あいつやりやがった!」
皆からは驚きの声が上がってる。
「お前の最大の武器が、最大の弱点だったな。後藤。」
後藤は仰向けで空を見上げていた。
『俺は……負けたのか?』
後藤はそう心の中で思った。
「お前、本当は優しい奴なんだろ。
初戦の相部屋勝負。あいつに怪我させないようにして戦っていたろ。誰も傷つけないように。
『孤独』、なんだろ?」
後藤はこの性格が故に、今まで一切友達を作らずに生きていた。1人で生きていた後藤は友達を作る人達が羨ましい反面、憎くもあった。
だけど、相部屋の杉山 東吾は違かった。今まで孤独で生きていた後藤は、相部屋の杉山に対してどう接していいか分からなかったけど、どんな酷いことを言われても杉山は全てを受け入れてくれる唯一無二の存在だった。
「俺、思ったんだ。お前が杉山って奴と戦ってる時、あんなに楽しくなさそうに戦ってるお前を見てると心が痛かったんだ。
お前、俺がどんどん仲間を増やしているのを見て俺が憎かったんだろ?辛かったんだろ?
勘違いすんなよ。お前は既に俺と、俺たちと競い合い高めあった仲間じゃねぇか。皆もそう思ってるぜ。」
後藤は周りを見渡すと、そこには同期の皆がいた。
そして何より皆は笑顔だった。皆後藤を認めている。
後藤はそんな皆の笑顔に救われたと思った時、人生で初めて嬉しいさの涙を無意識に流していた。
初めて『仲間』を知った。