58話 力の暴走
「高校の時の同級生、黒崎 拓也という男です!!」
「は? どういうことだ?」
「自分も良く分かりません! でも、間違いないです……」
俺には信じ難い現実だった。でも、俺の名前を知っていた理由がここで分かった。
「なぁ、蓮。この状況どうする? 俺がお前の目を奪いここから立ち去るか、確率は低いがあの2人が助けてくれるか、それとも自分で自分の身を守るか。」
『強くなれ。お前は皆から守られるべき存在だが、1人のエージェントだ。お前は人を、いや、この人類を守り抜き世界を変える力がある。』
俺は室田署長に言われたこの言葉を思い返していた。
『そうだ、強くならなきゃいけないんだ。こんなところで死んじゃいけない。俺は世界中の人を守るべくして生まれたのかもしれない!』
俺は右の拳を握りしめ風を溜め、拓也目掛けて殴りかかった。
『俺は自分で強くなって、この世界を……いつからか変わってしまったこの世界を……』
「変えてやる!」
『ドカッ!』
だが、拓也は俺の顔を踏みつけて地面に押し付けた。
「変えるだ? 何をだ? お前は弱い。弱者には何かを変える強は無いからな。」
拓也は足をどかし、俺の目に手を近づけた。
「おい! やめろ!」
金子さんの声は届かない。
「未来は強者が支配する。こんな風にな。お前は俺の前では死に方も選べない!」
拓也の手が俺の目に当たる瞬間、何者かが光の様なスピードで拓也の首を掴み飛んでいった。その時、俺の身体にも異変が起きていた。
「誰だてめぇは!」
「ワシの首を狙っているんだろ?」
金子さんはニヤリと笑っていた。
「室田署長だ。あいつ、もう終わったな。」
拓也の首を掴んでいったのは室田さんだった。
『そうか、コイツが室田か。全く気づかなかった。蓮のアルファマインドを取りながらもすぐ動ける準備はしていたはずなのに動けなかった。そしてこのスピード、レベルが違うな。』
拓也は室田さんの目を見ると、赤く輝いていたのが見えた。
『赤のアルファマインド!? 面倒になってきたな……さっそく距離をとりたいが、力が強くて離れねぇ……』
その後、室田さんはそのスピードのまま拓也をアスファルトに押し付けて削っていった。その場に止まると室田さんは拓也の顔面を一発殴った。
『ズドンッ!』
『うっ、なんだ、耳鳴り……いや、頭がクラクラして気が遠くなっている。一発でこんな……』
拓也は室田さんの目を見ると、凄まじい程の殺気をした目をしていた。今までに感じたことの無い恐怖心すら感じた。
『今の俺がこんなのと戦ったら死ぬ! 最終形態になる時間も無い。やばい、マジでやばい! 殺される!』
その後も室田さんは何発も拓也を殴った。一発一発が気絶するほどの重さだった。
「くっそぉぉぉー!」
拓也は地面に真っ暗な空間を作り、そこに入ったあとすぐに消えた。
「逃げられたか。逃げ足が速いやつだ。」
「逃げてねぇよ!」
室田さんは上を見ると、大きな翼で空中を飛んでいた。
「探す手間が省けたな。室田、お前は確かに強い。ここは俺の真の力でお前の首を……」
『ズドーンッ!』
すると、拓也は頭上から背中を殴られ地面へ叩きつけられ、大きく砂煙も舞った。
「くそっ、次から次へと! 今度は何だ! っ!?」
拓也が振り返ると、砂煙の先から金色に光るものが2つ見えた。
「おいおいマジかよ……蓮じゃねぇのか?」
拓也の背中を殴り地面に叩き付けたのは間違いなく俺だったが、その時意識は無かった。ただ身体が勝手に動いているという感じだった。
『なんだ、何かがおかしい。雰囲気というか、さっき戦っていた蓮とは全くの別物だ。こいつどうなってんだ。』
すると、俺は拓也の右手を掴み、思い切り引きちぎった。その右手を投げると次は拳を振るい、その拳は拓也の左の肺を貫いた。
「ぐっっ! あ"あ"っ!」
その後も何度も拓也を殴りつけ俺はその返り血で赤く染まっていた。そこに金子さんが近づいて行った。
「おい小原! どうしたんだ!」
「下がれ!」
室田さんがそういうと、金子さんは足を止めた。
「なんなんですかこれは……」
「多分力の暴走だろう。金のアルファマインドの力は膨大過ぎる。何かの拍子にその力が漏れだしてしまったのかもしれん。今近づくのは危険だ。」
俺は拓也を殴り続けたが、拓也も死ぬ気で振り払った。
「どけぇぇ!」
拓也の身体はどんどん再生してきているが、先程までより再生スピードが遅くなっている。
『俺は逃げたくねぇが、どうやらそうも言ってられねぇな。』
その瞬間拓也は俺を見失った。
「っ!? どこ行った!? 蓮のやろうどこ行きやがった!」
拓也は俺が後ろで拳を振りかぶっていることに気づかなかった。気づいた時には既に遅かった。
「後ろか……」
『ズドーーーンッ!』
その拳の一振はその場一帯の地形を変えてしまう程だった。他の室田さん達は空中に飛び上がり攻撃の巻き添えを回避した。その場は更地のようになっていた。
「室田さん、この力……」
「あぁ、上田を呼んできてくれ。」
「はい。」
金子さんは本部にいる上田さんを呼びに行った。その頃、拓也は俺の攻撃をワープしてギリギリで避けて遠くの木陰で隠れていた。
『危なかった……あと少し遅れていたら死んでたな。なんて威力してやがる。逃げるなら今しか……』
拓也が後ろを振り向くと既に俺が移動してきていて更地の中央部まで蹴飛ばした。
「存在に気づかない程に速い。」
俺は金色に輝く目を見開きながら右手を横に出し、手を開いた。するとその右側に黄金の風を溜めていて槍のようなものが細長く形成されていく。俺はそれを掴み拓也に構えた。
『おいおい、なんかヤバい気がするぞ。』
「皇神槍!」
俺はその黄金の槍を拓也に向かって投げた。投げた槍は音速を超える速さで衝撃波を発していて大地を削りながら拓也に向かっていった。
拓也は瞬時にワープで逃げて、標的を失った槍は空高く飛んで消えていった。その時、金子さんが呼んだ上田さんが駆けつけた。
「な、なんだよここ……森林だった場所がまるで更地じゃないか……」
「瑛斗、小原を止めてくれ。暴走しているようなんだ。近づかずに止められるのはお前しかいない。」
「まじすか!? 金子さん手伝ってくれないですか!?
あれ……金子かんがいない……」
金子さんはいつの間にか上田さんの隣を離れていた。
「マジかあの人! んま、やるしかねぇか!」
上田さんは空中に体を浮かせて、両手を俺に向けた。俺は振り向き上田さんの存在に気づいた。
『両目が金色に。しかも視線が定まっていない。これは完全に暴走してるね。』
「死刻重力!」
俺の身体はとても重くなり足が地面にめり込んだ。だが、そんな状況でも平然と歩いている。
「は!? なんだよあれ! まるで効いてない!」
上田さんは両手を合わせた。
「特強封印・桎梏!」
すると、地面から無数の鎖が飛び出し俺の身体中を覆っていった。身体を覆い尽くすとまた鎖が出てきて、その鎖は次々と身体を貫いていった。そして俺は幻覚を見ていた。
その場所は御札で覆われたお寺のような場所だった。御札に触ると指に火傷を負った。すると、部屋中の御札が俺の身体に巻き付いた。身体中火傷だらけになってしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
鎖で覆われた俺の身体の動きも止まった。
「これを抜け出したやつはいない。流石にこれで……」
『ガシャンッ!』
暴走した俺の身体は桎梏の鎖さえも吹き飛ばした。
「もうだめだ、桎梏が効かないなら手に負えない。」
だが、俺の身体はゆっくりと地面に倒れていった。上田さんも腰を抜かして尻もちを着いた。
「はぁはぁ……危なかった……」
そこに金子さんや室田さん、三井さんも駆けつけた。
「瑛斗、よくやってくれた!」
金子さんは笑顔でそう言った。
「いや、マジで死ぬところでしたよ。」
「死んでないんだからいいだろ! そんなことより、早く小原を医療部隊へ!」
上田さんはエスパー能力で俺を浮かせて急いで医療室へ運んだ。




