4話 アルファマインド
「風伝波!」
俺は思いっきり拳を振るった。拳1つくらいの大きさの風の塊を飛ばした。だが、威力はあるものの簡単に避けられてしまう。
「その距離でこの速度の攻撃が当たるわけないだろ!次は俺からも行くぜ!」
加賀は両手の拳に火を纏わせ、勢い良く俺に向かってきた。加賀は笑顔だった。まるで自分の強さを発揮出来ると思うばかりの自信に満ち溢れた笑顔だった。
「炎連掌! そらそらそらそらー!」
燃え上がった両拳で連打をしてきた。俺は避けるので精一杯で、反撃するチャンスすら無かった。
『くっ、熱い。1発食らえば火傷じゃ済まない。コイツ俺を殺す気かよ!』
俺は大幅に後ろに下がり少しの時間が空いた。
『今だ!』
そう思い無茶苦茶に拳を振るった。出した風の波が1発だけ加賀に当たった。
「くはっ!」
俺は加賀と一定の距離を保つことに成功した。だが、加賀はどんどん攻めてくるタイプで俺にはまだ対応は出来ないと考え、勝つ構想が全く見えなかった。すると、加賀の動きが鈍くなっていたのが分かった。俺は『今しかない』と思い、力を込めて拳を握りしめ目を閉じた。
「この右手に風を集中させるんだ。」
俺は今まで以上に集中し、深呼吸してからゆっくり目を開いた。
「風伝波!!」
『ズバンッ!!』
俺が力を込めた風伝波は地を這って加賀に向かっていった。あまりの威力に俺は勝ちを確信していた。
「これを待っていた!!」
加賀がそう叫ぶと日を纏った両手で俺の風伝波を受け止め始めた。加賀の上着はちぎれ吹き飛んでいった。すると加賀の拳だけでなく、腕全体に燃え盛る炎が纏っていた。
『俺の風伝波の風を取り込んで炎の勢いを強めたのか!?』
「これを全部ぶつけてやるぜ!」
炎を纏った風伝波の様なものを俺に向かって放ってきた。威力が強すぎで周りの木々も焼けていった。
「やばい!当たる!」
「水龍壁!」
『ズドンっ!ジューーー』
指揮官エージェントが水の属性能力で消滅させてくれた。俺は完全に負けていた。それに、自分の能力を使われて負けるのはとても屈辱だった。
「加賀、今の攻撃はなんだ。普通じゃなかったぞ。その両腕、すぐに医療室へ行くんだ。小原、お前も一応医療室へ行け。」
俺と加賀は一緒に医療室へ連れていかれた。加賀はすぐに医療員に診てもらった。
「あんた、両腕骨折してるね。1ヶ月は安静にしてないとダメだからね。」
「はい、分かりました。ありがとうございます。」
「君は軽い火傷だね。少し冷やしなさい。」
「ありがとうございます。」
加賀は30分くらいで治療は終わった。俺と加賀は一緒に医療室を出ていった。俺のせいで加賀がこんな事になったと考えると罪悪感が芽生えてきていた。
「ごめんな、俺のせいでこんな事に。1ヶ月何も出来ないじゃないか。」
「なんだよ、そんな事気にしてたのか! 別に大丈夫だ。両腕無くても出来ることはあるからな。あ、そうだ、自己紹介してなかったな。俺は加賀 周平。よろしくな!」
「俺は小原 蓮。よろしく。」
「ホントに気にしなくていいからな! それよりお前の風の攻撃。あれ凄いな! 良い能力じゃないか!」
「本当か!?」
初めて能力を使っての対人の感想を言われて、しかも加賀に良い言葉を貰えたのはとても自信になった。加賀は自分の部屋に戻り、俺はまた演習場に戻った。すると、落ち込んだ姿の翔がいた。
「おい、こんな所でなにやってんだ?」
「蓮か、俺、女の子に負けちまったよ。」
「お前女の子に負けたのか!? だせぇな!」
エージェントにはもちろん男だけでなく女も所属していたが、男は女には負けないという概念があった為、負けたのが相当悔しかったのだろう。
「俺があの人に負けた時、普通は皆俺を笑い者にするだろ?でも、皆は黙り込んだんだ。能力が凄いんだ。」
噂では聞いていたが同期メンバーに凄い女エージェントがいるとは聞いていた。
「じゃあ次!清水と矢部!」
「蓮、あの清水って人か凄い女エージェントだよ。」
俺はその組手に目を向けた。
「始め!」
矢部という男は先制攻撃を仕掛け、筋肉を増強させ地面を思いっきり踏み込み、えぐった岩を投げ飛ばした。パワー型の矢部にどう対処するか想像もつかなかった。すると清水が右手を前にかざした。
『ピタッ』
岩が空気中で止まった。そう清水はエスパー能力者だった。そして岩をそのまま矢部に吹き飛ばし返し直撃させた。戦いは一瞬で終わってしまった。そして清水はこちらを一瞬だけ睨んできた。
『ギクッ』
ビックリして翔の背中に隠れた。
「あの女怖すぎだろ! 絶対戦いたくねぇよ!」
「次! 後藤と小原!」
「はい!呼ばれたからまた後でな!」
「蓮、あの後藤って人も気をつけて。」
俺は清水ってエスパー女を見せられてそんな事言われても全然恐くないと感じて走って呼ばれた場所にむかった。後藤という男は雰囲気があまり良くなく目付きがとても悪かった。
だが、俺はこういうタイプを喧嘩で倒していくのがとても好きだったからすぐに終わらせてやると思った。
「始め!」
『バシッ!』
俺は一瞬で首を捕まれ仰向けになって倒れていた。それは人間のスピードではないと感じた。そして後藤は軽蔑したような目でこちらをずっと見ていた。そして何より左目が青かった。俺は驚いて全く動けないでいた。
「やめっ!」
後藤は立ち上がると青い目が黒く戻った。なんなんだコイツと思ったがその強さは本物だった。
『こいつ、アルファマインドを持っているのか。』
指揮官がそう考えていた。
「指揮官、あの後藤の目。あれは何なんですか?」
俺は疑問に思い指揮官に質問した。
「そうか、お前らはまだ知らないのか。なら夕食後、全員に説明しないとな。」
その日の晩、夕食後を終え指揮官に全員会議室に呼ばれた。会議室は今までの犯罪事例や対処法、対ジエーネの攻略を教わる場だった。
「皆集まったな。よし、1つ教えておくことがある。アルファマインドについてだ。アルファマインドとは身体の力を飛躍的に向上させる能力だ。ジエーネの能力とはちょっと別だ。アルファマインドは戦いの時に発動するケースが多いんだ。
アルファマインドはとても希少性が高く持つものはひと握りとされている。アルファマインドは目の色が変わるが、色によってもまた強さが全く違ってくる。青→赤→金の順番で強さが変わる。
そしてアルファマインドは身体の向上だけでなく、特別な力を得ることが出来る。基本的に左目だけだが、能力を使う時に右目の色も変わるのが特徴だ。青い目は1つ、赤い目は3つの力を得ることができる。金は事例が無いからどうなのかは分からない。ちなみにこの中にもアルファマインドを持つものがいる。」
俺はあの後藤って奴がアルファマインドを持つものだと確信がついた。
「後藤と山本、そして小原だ。」
「え!?俺!?」