38話 絶対零度
No.6へエージェントが追ってきていると報告しに来た只野がアジトへ到着した。No.6は窓から外を眺めていた。
「望月さんよ。もうエージェントの追ってが来たぜ。あんた、痕跡も遺してないだろうな?」
「エージェントならそのくらいはしてもらわないとな。こっちに向かっているのか?」
「いいや、高倉が相手にしている。」
「なら多少の時間稼ぎは出来るだろうな。高倉そんなに強くはないがそれくらいしてくれないとな。」
「それに1人、面白いのがいたなぁ。俺の予想だと、今川とやりあったのはアイツだろう。」
「どんなやつなんだ? 今川とやり合うとは相当の奴だぞ?」
「それは、会ってからのお楽しみだな。もう既に田中と藤間を行かせた。当分は時間がかかると思う。そろそろ女の使い時じゃないのか?」
「あぁ、今から行く。お前も奴らの足止めをしておけ。」
只野は自分の刀を持ち、アジトの出口へ向かった。
その頃、俺と山ちゃんと後藤は只野を追い、森の中を駆け抜けていった。
「くそっ、感知系のエージェントがいないからどこに行ったか分かんねぇよ。」
「他のエージェントを呼んでいる時間も無いしな。」
「蓮、後藤、あそこに誰かいるぞ!」
3人は足を止めた。前を見ると、1人の男が立ち塞がっていた。
「こいつは、藤間 天錘! 水使いだ。」
「でも相手は1人だぞ!? 3人ならやれそうだな……」
そう言う後藤の背後に右腕を巨大な骨で覆った男が拳を振りかぶっていた。
「後藤! 後ろだ!」
「残念だが、1人じゃねぇぞ!」
『ドカーーーンッ!!』
辺りの木々は吹き飛び、砂煙が上がった。後藤はその攻撃を貫通ですり抜けていた。
「流石だな、後藤。」
「あと少し遅かったらマジで死んでたぜ……」
田中は右腕の覆われた骨を体内に戻した。
『あいつの目、アルファマインドか。確かに当たっていたはずだが感触がまるで無かったな。すり抜ける能力か何かか?』
「田中、派手にやった割には外してんじゃねぇかよ。これで1人やれたはずなのによ。」
「いいや、どうやら簡単にはいきそうに無いな。」
「なら俺が一気にやる。湯蘭戯!」
すると、手から大量の水が出てきた。
「水なら俺が全部凍らせてやる! 氷染滅寒!」
辺りが氷の壁のようなもので覆われていった。だが、水が氷を貫いていく。というより溶かしていた。
「っ!? 熱湯か!?」『ザーッ!』
3人はそれを見て避けたが、山ちゃんの左腕に熱湯がかかってしまった。
「この熱湯、100℃は超えているかもな。」
山ちゃんは少し火傷を負っていた。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、これくらい問題ない。だがあいつ、ただの水属性能力者じゃなさそうだな。その中でも特異体質だ。温度調節もできるみたいだな。」
「時間がかかりそうだ。蓮、お前は先に行け。」
「いや、3人でやった方が確実に!」
「お前、俺たちを見くびってんのか? 何よりも時間が無いんだ。お前はこの中で1番強い。だからお前が先に行け。」
あの後藤が俺にそんなことを言うとは思わなかったが、俺は2人を信じ先へ進んだ。
「すまねぇな!」
だが、田中と藤間は俺を止めようとはしなかった。
「くそっ、蓮を止めようとはしないのか。そこまでの自信があるみたいだな。」
「俺があの骨の奴をやる。山ちゃんは、あの水属性の奴を任せたぞ。」
2人は、戦いやすいように田中と藤間を誘導させた。
「これで1対1だな。」
「逆にこれでいいのか? 1人でやるんだぞ?」
「お前なんか1人で十分だ。」
『清水のやつ、全く来ねぇな。もしかして、さっきの爆発音みたいなやつでやられちまったのか!?』
「どこを見てんだよ!」
山ちゃんは考え事をしている間に背後から熱湯が押し寄せてきていた。アルファマインドで素早く移動したが、背中を少しかすった。
「くそっ、無理やりにでも凍らせるか!」
山ちゃんは熱湯に大量の氷を押し出した。だがそれも全て溶かしていく。
『やはりダメか。幻覚起現を使って倒すしかないが、俺の場合、まず接近しないといけない。そして体力が持つかどうかだ。とりあえず、近づくしかない!』
山ちゃんは咄嗟に藤間に急接近した。そして手の平から小さな氷の粒を大量に出した。それを少しずつ藤間の頭へかけていく。
「ちっ、こいつ、アルファマインドを持ってるだけあってスピードがあるな。逃げ足が早い。そして急に接近戦への変更も気になるな。なら、羅水門!」
藤間の周りが熱湯の渦で覆われた。そこに勢いに任せて飛び込んできた山ちゃんがぶつかってしまった。
『ビシャ!』「うわっ!」
山ちゃんはその勢いのまま地面へと打ち付けられた。山ちゃんの皮膚にはあちこちに火傷を負っていた。
「しまった……接近があからさま過ぎた。しかも、動けない……」
「そりゃあそうだろうな。俺の出す水分には痺れ効果もあるからな! なんだよ、もう終わりかぁ。」
「……」
「動けなくて口も聞けねぇか。じゃあ終わりだな。湯蘭戯!」
藤間はまた手から大量の痺れる熱湯を出し、山ちゃんに降り注いだ。すると、山ちゃんは溶けだしてしまった。
「っ!? 溶ける? おかしいな。」
『スパンッ!』「ぐわっ!」
山ちゃんは藤間の顔面を後ろから殴った。
「まさか、あれは、氷の分身!」
「これでお前の水属性の能力が全て分かった。」
と言っている山ちゃんも氷の分身で、本体はその後ろの木に隠れていた。
「とりあえずここで様子を見るか。どこかで隙を見つけなきゃな。ヤツの頭に触れることが出来れば俺の勝ちだ。俺の下までどうにか誘い込む。」
藤間はニヤリと笑って分身の山ちゃんを見た。
「接近戦だろ? 早く来いよ!」
分身の山ちゃんはすかさず両手に氷を集め藤間に飛び込んだ。
「1発でも当たれば!」
だが藤間は山ちゃんのスピードを避け、当てられても熱湯で氷を溶かすの繰り返しだった。藤間はずっと笑っている。分身の山ちゃんが本体の下まで追い込むと山ちゃんは一気に突っ込んだ。
「ここだ!」
「ふっ! 上だろ!? 分かってんだよ!」
「なに!?」
「この辺は俺の熱湯が地面を覆っている。さっきから足が溶けてんだよ! お前の分身の足がな!」
「やばい、このままじゃ避けられない!」
「大火傷だ! 湯蘭戯!」
山ちゃんは空中で藤間の湯蘭戯をまともに食らってしまった。山ちゃんはそのまま地面へと痺れながら倒れた。そしてその熱湯はその場に降り注いだ。
「はっはっはっはっは!お前バカだな! そんな見え見えな罠に引っかかるか!」
「……」
「じゃあ窒息死でもさせてやろうか。」
「お前の水、貰うぜ。」
見ると、藤間の足元が凍っていた。
「まさか、俺の水を凍らせていたのか!」
「性質進化!」
地面に張っていた氷から、急に人型の氷が6体現れた。
「なんだ! しかも動けない!」
6体の人型の氷は藤間を連続で殴り倒した。
「氷乱の陣!」
『ズバズバズバズバズバズバズバズバッ!』
「これで最後だ!」
6体の中の一体が藤間の頭を掴んだ。
「幻覚起現・絶対零度!」
その瞬間、藤間は幻覚を見ていた。辺りは氷の洞窟みたいな場所だった。
「ここは、どこだ!? なんだ、すげぇ寒い! しかも、どんどん気温が下がってる気がする! 今何度だ!? あ、腕が、腕が動かない! 足も! 喉も凍るぅぅぅぅ…………」
すると、現実の藤間も身体中が凍ってしまい、それは心臓まで達していた。
「はぁはぁはぁ、勝った……」
『幻覚起現は、幻覚で見せたものを実現化させるものだ。それだけに相当体力を使った。しかも、ヤツの熱湯で全身火傷で痺れている。当分は動けないな。』
山ちゃんは倒れ込んだまま少しも動かずにいた。




