34話 誘拐
俺たち5人は5日間の休養を終え、通常勤務に戻ろうとしていた。この日は総合格闘部隊全体での会議があり、会議内容は、今川が逃がした囚人5人の追跡についてだった。これは各部隊でも話されている。
「よし、全員集まったな。今回は脱獄犯5人の捜査についてだ。俺はまとめるの下手だから三井、お前に任せた。」
「金子さん、たまには隊長らしいことしてください。」
「へへっ、いつもすまねぇな!」
「では説明する。今回脱獄した5人についての説明だ。まずはNo.6だ。名前は望月 幻創、説明しなくても分かるな。能力は想像変擬体で、身体の一部を何にでも変えられるジエーネだ。俺なんかが適う相手じゃなかった。」
『三井さんが手も足も出なかったのかよ……』
「そして28番、田中 直哉、体術の使い手だ。53番、只野 武蔵、元No.4の一番弟子。71番、藤間 天錘、水属性の能力を扱う。90番、高倉 鉄斗、鉄を操る能力者だ。No.6と比べると小物に見えるが、中々の強者だ。特に只野 武蔵はNo.4の一番弟子なだけ特に気をつけないといけないんだ。警剣部隊でも手を焼かすだろうな。」
「三井、俺の代わりに良くまとめてくれた!ありがとう!」
「いいえ、いつもの事ですから。」
「じゃあ他の部隊に負けないように気合い入れていくぞ!」
「はい!」
『あの人、なにもやってないのに良い感じに終わらせやがった……』
その日の業務を終え、就寝の時間になった。俺は寝る前にトイレに行くと、隣の女子トイレから癒が出てきた。
「安斎さん! あっ!」
癒は俺が誕生日プレゼントで上げたパーカーを着ていた。
「小原君! こ、これはパジャマで着てるんじゃなくて、エージェントだと着る機会が無いから着てる訳で……」
癒は慌てた表情で夜にパーカーを着ていた理由を説明した。
「いいんだよ! こっちは着てくれてるだけで嬉しいんだ! 安斎さんが着てる姿を見れただけで十分さ!」
『やっべ、やっぱ似合ってるよ! これで良かったぁ!』
「あの、小原君……」
「ん?」
「小原君は、私の事を安斎さんって言うけど、他の人は癒って呼んでるから……」
「……」
「だから、小原君も、私の事、癒って……」
「お前ら2人で何やってんだ?」
そこに来たのは清水さんだった。
「おぉ、清水さん! たまたま会ったんだ!」
「そうか! 癒、ウチがトイレ出るまで待っててよ! 一緒に部屋戻ろ!」
「う、うん……」
清水さんは小走りでトイレに駆け込んだ。癒は顔を赤くして下を向いていた。
「逆に、俺の事小原君って呼んでるけど、蓮でいいよ!」
すると、癒は下を向いたままコクリと頭を下げた。そう言うと俺は自分の部屋へ戻って言く。
『やべぇ! あんな事言っちゃったよ! しかもこれから癒って呼ぶの!? 照れちゃうんですけど! 蓮って呼ばれるのも照れちゃうんですけどぉ!』
俺は心の中で叫びながら部屋へ帰った。
その日の晩、皆が寝静まり特別守護部隊の警備だけになった。辺りは真っ暗だが、本部警察署に忍び寄る3人の人影があった。
「またここに来ちまったな。」
「女を確保すればもうここには来ませんよ。」
「ふっ、そうだな。じゃあ始めてくれ。鉄斗、やれ。」
「はい、幻創さん。」
ここに来たのは脱獄した囚人のうちの3名。No.6の望月と藤間と高倉だった。
高倉は鉄で出来た防犯カメラを、自分の鉄を操る能力でねじ曲げ故障させた。それは警備係の目にも止まった。
「おい、A6の防犯カメラが故障みたいだ。」
「俺が見てくる。」
1人の特別守護部隊のエージェントが故障した防犯カメラの方へ向かった。
「な、なんだこれは! 次々と防犯カメラが故障している!」
管理室にいたエージェントがこの異変に気づいた。
『ドカッ!』「ぐはっ!」
「望月さん、やっぱエージェントは大したことないですね。」
「いいや、ここからだ。これからたくさんの特別守護エージェントがここへ来る。俺が相手してるからお前らは女捕まえろ。」
「はい。」
すると3人のエージェントがNo.6の所へ来た。
「いたぞ!」
「ほら、早く捕まえてくれ!」
「いや、迂闊に近づくな! こいつの能力を知っているだろ! 遠隔攻撃だ!」
1人のエージェントが口から火を出し遠隔攻撃したが、No.6は左腕で大きな鉄の板を創り、防ぎながら近ずいて行く。
「近距離だろうが遠隔だろうが関係ねぇ!」
『ウィーーン!』『ジャギッ!』
両腕をチェンソーに変えて2人を切り裂いた。
「弱いくせに調子乗るなよ!」
一方その頃、他の2人は癒を探していた。
「いた。4階の南の方だ。前から5番目の部屋。」
「お前のその水で感知する水眼。中々凄いな。」
藤間は自分の水を部署一体に撒き散らし、目の形をさせて自分の視点と連携させていた。
「よし、ここか。」
高倉は、元々持っていた鉄の棒を鍵の形に変形させ、ドアを開いた。
「おい、起きないようにそっとだぞ……」
「あぁ……」
だが清水さんは目を覚ましていた。そしてベット横にある非常用のボタンを押そうとするが、高倉に手を掴まれた。
「お嬢ちゃん、それはやっちゃいけねぇよ。」
「くそっ!」『ドカッ!』
高倉は清水さんの首の後ろに打撃を加え、気絶させた。その清水さんが倒れた音で癒も目を覚ました。
「え、これは……」『ドカッ!』
癒は藤間に気絶させられてしまった。
「よし、行くぞ。」
「おい、望月さんに女を確保した事どうやって知らせるんだ?」
「それなら大丈夫だ。 解っ!」
その瞬間No.6のポケットが濡れた。
「水玉が割れた。ほぉ、もう女を確保したか。こっちも終わったし行くか。」
No.6の足元には6人の切り刻まれたエージェントの死体が落ちていた。それを踏みつけながら出口へ向かった。
「もうちょい楽しめると思ったのによぉ。まぁ、目的は済んだからいっか……」
3人は外で合流し、癒を連れて逃走した。そして、本部は朝から大騒ぎだった。
「くそっ! こんなこと出来るのはNo.6しかいない! それに安斎 癒まで誘拐したのか……」
そこへ俺も駆けつけた。その廊下は血だらけで6人の死体が倒れていた。見るも無惨な殺され方だった。
「No.6なのか!? っ!?」
俺は今川が言っていた言葉でピンと来た。
「安斎さん!」
俺は癒と清水さんの部屋へ走って向かった。部屋を開けると清水さんが倒れていた。そして癒の姿が無い!
「清水さん! 清水さん!」
すると清水さんは目を覚ました。
「っ!? 癒っ! 癒っ! やばい、どうしよ……」
「何があったんだ!?」
今まで泣いたことが無い清水さんが涙をこぼした。
「癒が……連れていかれちゃった……もっとウチが強かったら……くそぉぉぉ!!」『ドンッ!』
清水さんは泣き崩れながら地面を殴った。俺は泣いている清水さんを見て、翔をの死体を見て泣いていた自分の事を思い出していた。
「清水さん、安斎さんはまだ死んでない。助けに行こう。」
「でも、あんな奴ら、ウチらに倒せるのか?」
「ここには優秀なエージェントがたくさんいる。そして清水さんもその1人だ。一緒に立とう。」
清水さんは俺の伸ばした手を取り立ち上がった。
「あぁ、絶対にな。」
「やっぱそうだったか……」
後ろを見ると、山ちゃん、後藤、鳳の3人が立っていた。
「俺達も行くぜ。」
「俺は癒と付き合うからな。絶対に連れ戻す!」
俺達は他のエージェントより癒に対しての思いが何倍もあった。楽しかった思い出もあるし、恥ずかしい思いもいっぱいした。だが俺たちは、ただ癒が笑って過ごしている姿を見たいから、笑っている癒を見ていたいから死ぬ気で癒連れ戻すことを決心をした。
「よし、行こう!」




