31話 今川の過去
「む、室田前署長……」
「今川か。どうやらお前は良い署長にはなれなかったみたいだな。」
『なんで室田前署長がここにいるんだ。これはまずい、計画が台無しだ。』
「君たちは新人エージェントか?」
「は、はい。」
「今川から迦具土神を出させるとは大した新人達じゃないか。」
『なんでなんだ。この人、この状況でなんでこんなに冷静でいられるんだ。』
室田前署長は今川の方へ歩いていった。今川は逆に一歩ずつ下がっている。
「こっちへ来ないでください!」
「今川、右目が無いじゃないか。」
「あんなには関係ない!」
さっきまでの今川とは裏腹で、動揺と焦りも見えていた。
『やばい、このままだと俺が1番じゃなくなる。』
「くそっ! 死ねぇ!」
『ズバーンッ!』
今川は迦具土神を動かし炎の刀で室田前署長を攻撃した。だが、刀は室田前署長を捉えることはできなかった。と言うより捉えられない。室田前署長には全てが見えていた。
「くそっ! 読心かよ! ふざけた能力使いやがって! ここでは俺が1番なんだ! あんたは消えろ!」
「そこまで言わんでもいいだろ? 1度手合わせしてやろう。新人を手にかける署長とやらとな……」
その瞬間の両目が赤く染まった。
「アルファマインド! しかも赤だ!」
俺やその他の人達も只者ではないと感じていたが、赤のアルファマインドで確信に変わった。それを見て今川もアルファマインドを使った。
「もう左目しか無いアルファマインドなんて怖くなんかないわ!」
『ドカッ!』
一瞬で今川を蹴り上げた。そのスピードは今川を遥かに超えていた。
俺は……ここで……1番に……
〜20年前〜
20年前の今川は12歳の小学生6年生。今川には兄がいた。双子の兄だった。兄はいつも今川の前を走っているような天才だった。
「母さん! また100点とったよ!」
「うわっ! 凄いじゃない! やっぱりアンタが1番よ!」
今川はテスト用紙を出そうとしなかった。なぜならテストは90点で兄よりも点数が低かったからだ。
「純一郎、アンタは見せなくていいわ。そもそも見せたくもないもんね。とうせアンタは出来損ないよ。」
今川家は桶狭間の戦いで織田信長に討たれた今川義元の子孫だったのだ。その後今川家は戦国時代を生き抜き、明治20年、今川氏の男系の直系は断絶したかに思われたが現世までその血は受け継がれていたのだ。その血統が故に何事にも1番を好み、1番では無いものには興味など無かった。
「純一郎、また俺に負けたのか。同じ血筋なのにここまでの差がつくのはなんでだ? はっはっはっはっは!」
今川は争いを好まない平和主義者だった。ただ普通に暮らしていきたいだけだった。他の家族は皆仲良く手を繋いで歩いている中、今川は両親と手を繋いだことすら無かった。
父親は病気で今川が幼くして亡くなった。誰も今川に味方などいなかった。だが、1つ良い事を思いついた。
『そうだ。兄が死ねばいいんだ。俺を、まるで家畜を見るような目で見やがる兄が死ねば俺が1番になるんだ。』
今川はその時から思考が変わってしまった。高校生にもなると目付きも変わっていた。すると1人の男が目の前に現れた。
「君、良い目をしてるね。殺意を望む良い目だ。誰か殺してほしい人でもいるのか? 俺が殺してあげよう。」
それが後のNo.6だった。
「俺には不思議な力があるんだ。人を殺すなんて容易いことだよ。ほら、言ってみな。」
「俺の、兄。俺の双子の兄を殺してくれ。一生分の痛みを味わわせて殺してくれ! バラバラでもいい! 内蔵を引きずり出していい! 脳みそをぐちゃぐちゃにしてもいい! 醜い姿にして殺してくれ!」
今川はこの時、こんな卑劣な言葉を使うのが快感でもあった。そのくらい兄を憎んでいた。
「了解。」
後日、兄の死体が見つかった。その姿は脳みそは飛び出し、内蔵を引きずり出され、体がバラバラな状態で見つかった。
今川はそんな兄の死体を見てゾクゾクしていた。
『やった……これで……俺が1番だ!』
だがその後は母は悲しみに明け暮れた毎日だった。ずっと下を向き泣いていた。
「母さん? 兄の事はもう忘れよ?」
「アンタがいたってしょうがないでしょ! どっか行ってなさいよ!」
『パシンッ!』
今川は頬を強く叩かれた。理解が出来なかった。
『兄がいなくなって俺が1番なのに、なんで? 俺はそんなに見られていなかったの? 元々1番じゃなかった俺にはそんなに興味がないの?』
その日から母は今川への体罰が始まった。
『パシンッ!』『パシンッ!』『パシンッ!』
「なんで純一郎じゃないのよ! なんで死ぬのが純一郎じゃなかったの! お前なんか興味無いから死ねば良かったのに!」
『血統?宿命?そんなの知らない。なんで俺という1人の存在を見てくれないんだ? そこまでして俺は1番になれないのか?』
その後、母は首を吊って自殺した。その光景を見て気づいたこともある。
「そうか、これで俺が1番か。だから生き残ったんだ。今日からは俺が好きなようにやっていいんだ。は、ははっ、はっはっはっはっは!」
今川はこの時、凄まじい開放感を感じていた。そこから1番を突き詰めどんな手を使ってでも1番に執着した。そして今やエージェントのトップにもなった。
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『そんな俺が、なんでこんな所で。せっかく1番になれたんだ。誰にも邪魔させない!』
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」
今川は容赦なく室田前署長に殴りかかった。だが、室田前署長の両目は真っ赤に染まり、攻撃が全く当たらない。
「その目だ! アンタのその目がずっと嫌いだった!」
『ドカッ!』「ぶぉはっ!」
室田前署長は今川の溝内に膝を入れ吐血させた。
「そこまで見苦しい姿になりおって。本部の署長とあろう者が。」
今川は動かなくなってしまった。
「今川、もう一度やり直せ。」
「っ!?」
「お前はまだ若い。もう一度やり直せる。」
今川は顔を見上げた。すると目の前には絶対に敵わないと思ってしまう室田前署長の存在が大きく見えた。それと同時に思ったこともあった。
「いいや、俺は1番だ……だったら1番のまま終わってやる……。迦具土神!」
すると迦具土神が炎の刀で今川の心臓を貫いた。
「今川! 何をしている!」
俺達4人と癒もその行動に驚きを隠せなかった。
「あの人、何やってんだ……」
「俺は1番のまま終わってやるんだ!俺はここで自らの心臓を燃やし尽くす!」
「今川! やめろ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」『グショッ!』
その瞬間、今川はぐったりしてしまった。迦具土神もどんどん消えていく。
「今川ぁ!」
室田前署長が近ずいた。今川を見ると、胸元には大きな穴が空き、心臓が燃え尽きて無くなっていた。
「今川、お前は素晴らしく強い男だった。お前が死んだのはエージェントとしても大きい。お前を精神的にも強く出来なくて済まなかった。」
すると室田前署長がこちらへ来た。
「君たち新人だな。今川が申し訳ないことをした。」
「いや、奇跡的に犠牲者が出ませんでしたので。というか、なんで室田さんがここに?」
「最近になってNo.1の目撃情報が入ってな、それに脱獄犯が何人もいると聞く。今川の仕業だったのか。アイツは元々心配してたんだ。」
「No.1!?」
「あぁ、それにNo.6も逃げ出したらしいじゃないか。本当にとんでもない事をしてくれたよアイツは。」
「そういえば、今川さんがいなくなったら誰が署長をするんですか!?」
「多分、ワシじゃろうな。」
「え!?」




