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3話 日進月歩

「今日からエージェントなんだから、頑張りなさいよ!!」


母さんは俺が入隊初日に励ましの言葉をくれた。今日からエージェントの寮に入るとの事で母さんとは当分会えない。一人前のエージェントになる為には1年間、専用の寮でトレーニングをする決まりがあった。


「頑張るよ!! じゃー行ってきます!!」


俺は元気よく家を出た。母さんは目に涙を浮かべて手を振った。


俺の心の中はとても緊張していて、それと共にワクワク感もあった。大荷物を抱え電車に乗り、寮の場所である千代田区に向かった。電車の中には他にも大荷物を抱えた人がいる。

おそらくエージェント・ポリスの新入隊員だろう。集合場所に着くと既に1人のエージェントがいた。集合時間になり新入隊員全員が揃った。


「君たちが新入隊員か。まずは入隊おめでとう。今年は不作が多いと聞いているが諦めるなよ。これからの成長は君たち次第だからな。」


「はい!!」


ついにエージェントとしての生活が始まろうとしていた。エージェントの言葉は少し耳が痛いが、確かに自分たちは無力で弱い事をこの前の試験で経験した。実際どうやってここまで強くなるのか検討もつかない。


「まずは君たち全員にジエーネになってもらう。とりあえず着いてきてくれ。元々ジエーネの者は先に寮の部屋に行って待機しててくれ。」


良く意味が分からなかったが、能力を持っていない者全員でエージェントに着いていった。新入隊員は約100名ほどで半分くらいが無能力者だった。ある部屋に連れていかれてそこにはカプセルが5つならんでいる。


「このカプセルは無能力者に能力を宿らせる機械だ。そう、エージェントになれば皆ジエーネになれると言うことだ。命の心配は大丈夫。この機械は安全だ。」


皆は動揺を隠せない顔をしていたが、俺はこれで強くなれると考えた。


「5人ずつ入れ。カプセルの滞在時間は約3分だ。3分経つと勝手に扉が開く。その間に身体に少しの変化が現れるはずだ。」


俺は2列目に並んでいた。カプセルは透明の機械で出来ていて前の人の表情が見えた。少し笑っている人も居れば、身体に(かゆ)みが出た人もいるみたいだった。


『ガチャ』


扉が開いた。


「はい次。」


俺はカプセルに入り目を(つぶ)った。15秒ほどすると、鳥肌が立ってきた。なんだか身体の血が騒いでいるというか、1個1個の細胞が動いているというか、とにかく身体に変化が現れているのが分かった。特に痛くは無かったが少し身体が痒くなった。


『ガチャ』


「はい次。」


何か変わった感じはしない。本当に能力が発現したのかと思うくらい何も変わってない気がした。その後、荷物を持ち決められた部屋に向かった。


部屋に入ると2段ベッドがあった。

部屋のドアには

『小原 蓮』 『高橋(たかはし) (しょう)

と書いてあった。おそらく高橋 翔って人と相部屋だった。


「良い人だったらいいなー。」


と独り言を言っていると後ろから


「悪い人じゃないよ。」


と笑いながら俺にそう言った。


「初めまして。相部屋の小原蓮です。」


「初めまして。高橋 翔です。よろしく!」


すごく気前が良さそうで仲良く出来そうだった。荷物を整理した後、2人で話しをした。


「なんで小原はエージェントになろうとしたの?」


「蓮でいいよ!」


「じゃあ蓮って呼ぶね!」


「俺は1人で俺を育ててくれた母さんを養うためと、昔エージェントに助けてもらって、それで憧れてね。高橋はなんでエージェントになったの?」


「翔って呼んで!俺はエージェントが目の前で凶悪な犯罪者を捕まえている姿がカッコよくてエージェントに憧れちゃったんだよね。まさか俺がなれるなんて思わなかったけど。」


と照れくさそうに話していた。2人は意気投合して話しに花を咲かせた。すると寮中に放送で伝えられた。


「10分後に運動が出来る格好で第1演習場に集合!」


俺と翔は急いで着替えて第1演習場に向かった。第1演習場はとてつもなく広かった。遊園地くらいの広さはあった。


「君たちには1年間この寮で過ごしてもらう訳だが、今日能力を持った者もたくさんいる。元々能力を持っている者は質を上げていくように。今日能力を持った者はまだ自分がどんな能力を持っているか分からないはずだ。だから自力で能力を発現させ、使いこなせるように今日から1ヶ月の特訓だ。いいな!」


「はい!」


ジエーネは各々の能力を発現させ特訓を開始したが、俺たちみたいな無能力者がいきなり能力を出せと言われても分からなかった。というか、ジエーネに見下されている感じもあった。


「基本的に属性では火や水を出す奴が多いんだ。スピードや耐久力といった機能が上昇する奴も多い。それ以外の能力は少し珍しいタイプなんだ。」


それを聞き、高校で一緒だった黒崎 拓也は特異体質だということが分かった。俺もどんな能力が発現するか少し楽しみだった。


「翔、俺達もあいつらに負けてらんねーから早く特訓しようぜ!」


「ごめん、蓮。」


翔を見ると手の平に水の塊が発生していた。


「高橋、良いじゃないか!初めてでここまでの水を出せるなんて中々センスあるぞ!」


エージェントも絶賛の水の属性能力だった。


「どうやって出したんだよ!」


「いや、勝手に出たんだよ!」


「じゃー俺も!」


俺はどう頑張っても火や水の少しも出なかった。他の皆は続々と能力を発現させている。センスがある人は氷を出したり、地面の土を動かしたりしていた。俺は一つの事を考えた。


『もしかしたら特異体質かもしれない!』


色んな方法を試した。大きくジャンプしたり、全力で走ってみたりしたが、何も起きなかった。

流石に焦った。くそっ!と拳を振るった。


『バキッ』


どこからか鳴った分からなかったがそんな音が聞こえた。そして今日の演習は終わった。俺はその日の寮の食事で翔と話した。


「んまぁそんな落ち込むなよ。まだまだ時間はある。今日は初日だから仕方ないよ。」


「翔はいいよなぁ、いきなり手から水が出るんだもんなぁ。しかも指揮官エージェントも絶賛してたじゃん。」


「そんな事ないよ。もしかしたら蓮の能力の方が強い可能性だって全然あるだろ?」


と、俺は残りの食事を一気に頬張った。


「俺、今から演習場に行ってくる。翔もついてきてくれないか?コツとか教えてほしいんだ。」


「うん。いいよ。俺も能力を早く使いこなしたいしね。」


2人は部屋に戻り運動着に着替えて第1演習場向かった。演習場にはまだ能力が発現出来ていない同期メンバーの姿も見えた。俺だけじゃないと思い少しホッとした。今日ずっといた所にいくと指揮官エージェントが木の前に立っていた。見に行くと木の中央部分がえぐれていたのだ。


「なんだよこれ!」


俺と翔は声を合わせた。


「どうやら良い能力を持つ新入隊員がいるみたいだ。君だよ、小原 蓮。」


「え?どういうことですか?」


「私は見ていたよ。今日の演習で君が拳を振るった時にこの木をえぐったんだ。」


「えっと、意味が分からないのですが…」


「君は希少性のある風を作り空間を伝う属性能力だ。

遠隔攻撃もアリだし、至近距離からの攻撃だって半端じゃない威力を出す。良い能力だな。」


『まさかこの子が風の属性能力とは。こりゃあ凄いエージェントになりそうだ。それにこの子は…』


「マジかよ! やったー! 翔! 俺は風の属性能力なんだって! もう翔を超えたかもな!」


「ほら言ったろ!? 俺の能力なんかより全然凄いじゃないか!」


「そうと決まったら練習だ!」


俺と翔はひたすら練習を続けた。何より自分が能力を持っているということが楽しくて仕方がなかった。そして1ヶ月間、能力を使う練習に明け暮れていた。1ヶ月も寮に過ごすと他の仲間とも打ち解けてきて、有意義な時間を過ごしていった。


〜1ヶ月後〜


「よし、あれから1ヶ月経ったな。皆は自分の能力をもうほとんど使えるようになったな。ならここから実戦形式の組手をしてもらう。もちろん能力は存分に使え。」


「よっしゃ!ついにこの日が来た!」


俺は自分の能力がどこまで通用するかを確かめたくてとても心が弾んでいた。指揮官エージェントが決めたペアで組手は行われた。


「次、加賀と小原!」


さっそく呼ばれたと思ったら、相手は見覚えのある顔、身長、なにより目立つ赤髪。俺は相手が誰なのか一瞬で分かった。


「あぁーー! お前あの時の!」


今回の相手はエージェント試験での実技試験で俺をおとりに使った火を操るジエーネだった。


「おぉ!お前もエージェントになれたのか!もしかして俺の作戦のお陰か?」


『なんだよ、いきなりコイツと組手かよ。ってか1ヶ月も寮にいてなんで気付かなかったんだろ。コイツ、意外と影薄いのか?』


俺は心の中でそう呟いた。


「では始め!」


俺はあの時の俺じゃなく、能力は持っているし変わったんだ。俺は自信を持ち実技試験の俺とは違うところを見せてやると思い、加賀に走りこんで拳を振るった。


風伝波(ふうでんは)!」

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