23話 安斎家の運命
天厳収の53番と71番が脱獄してから2週間が経ったが未だに手がかりが掴めていなかった。
「小原、今月の総合格闘部隊の負傷者リストだ。これを医療室に持って行ってくれ。」
金子さんは俺に負傷者リストを渡した。負傷者リストを医療室に持って行って負傷者を呼び出し完治するというものだ。
「分かりました。」
俺は医療室に行くと1人のエージェントが中から出てきて、礼をしてから医療室に入った。
「失礼しま……おぉ!」
中にいたのは安斎 癒だった。この日は癒が担当の日だった。
「安斎さん! 久しぶり! そっか、医療部隊は本部に派遣されるんだもんね!」
癒は頬を少し赤くしていた。
「う、うん。小原君も本部所属だったんだね。気づかなかったよ。」
「色々あって1ヶ月くらい前に本部に派遣されたんだ。」
「そ、そうなんだ。小原君、強いもんね。」
そんな癒を見て俺は思った。
『かっ……可愛いぃー! やっぱ安斎さん可愛いぃ!
しかも強いって言ってもらえたよぉ! ちょー嬉しい!』
「小原君? 鼻血、出てるよ?」
「あ、あれ!? ホントだ……」
『ちょー恥ずかしいんだけど! 可愛い女の子見て鼻血出すって、金子さんと同じになっちゃったよ! それもそれで恥ずかしいぃー!』
すると癒はティッシュを鼻に詰めてくれた。
「ごめん、ありがとう。ふぅー……」
「それで、医療室に用事でもあったの?」
「あ、そうそう! これ!」
俺は癒に総合格闘部隊の負傷者リストを渡した。
「ありがとね!」
俺は用事を済ませたので医療室を出た。本当は癒とたくさん話していたかったけどそうもいかない。
廊下を歩いていると金子さんがいた。
「お前鼻血出したろ?」
俺は咄嗟に右手で鼻を隠した。
「出てないですよ!」
「お前、俺の事バカにしてたくせにお前も同じじゃねぇかよ! はっはっはっは!」
金子さんは大声を上げて笑い、周りの人がこったちを見るのでとてつもなく恥ずかしかった。
「んまぁ、しょうがないか。癒ちゃん可愛いもんね!」
「べ、別にそんな事……」
「安斎家は代々美人が多いんだ。仕方ないよ。」
「安斎家? どういう事ですか?」
「ん?知らないのか? 安斎家は全員エージェントの医療部隊なんだ。今の医療部隊隊長は安斎 治美、小原の同期の癒ちゃんの母親だよ。」
「え、そうなんですか!?」
「そうなんだ。そして安斎家は知る人ぞ知る特異体質の家系なんだ。」
「どういう事ですか?」
「安斎家は生まれつき究極の医療技を持っているんだ。
寿の技・寿命転生という技だ。
その技を使うとな、使った相手に自分の寿命を分け与える事が出来るんだ。その分自分の寿命が減ることからこの技は禁止されているんだ。」
「そんな技を……」
「そしてこの技を求める輩もいるんだ。安斎 治美さんも1度狙われたことがある。」
この時俺は自分の金のアルファマインドと照らし合わせ、自分と同じような存在だと思った。そう思えた時は安斎 癒という存在が少し可哀想にも思えた。
「だから、そういう時は小原が守ってあげろよ! 好感度爆上がりだぞー!?」
「ちょっと! 辞めてください!」
その話しを聞いてから俺は癒の事が気になり始めていた。
その力や運命を背負って生きていかなければならない癒を放っておけなかった。癒はいつも俯くように生きている気がした。自分でも色々と分かっていると思う。
そしてまた1週間が過ぎた。
「おい! 蓮!ハァハァハァ……」
俺が部屋でスマホをいじっていると朝の運動に出ていた山ちゃんが息切れをしながら部屋に入ってきた。
「おいどうしたんだよ。」
「大変だ! 天厳収からまた脱獄した囚人がいる!」
「え!? なんだって!?」
俺と山ちゃんは制服に着替えて急いで天厳収に向かった。
天厳収に着くとたくさんのエージェントがいた。
そこには特別守護部隊隊長の岩田さんもいる。
岩田さんは天厳収に入ると囚人達に呼びかけた。
「おい、てめぇら! 90番が脱獄したが、見た奴はいねぇか!? 言わねぇと全員ぶち殺すぞ!」
「し、知らねぇよ!」
「俺たちは本当に何も知らねぇ!」
「知らねぇって言ってんだろ! やんのか!?」
「くそっ! 腐れ外道共が……」
岩田さんも含め、本部のエージェントは少しピリ付いた雰囲気だった。もちろん俺も一体どうなっているか分からなかった。今まで天厳収から逃げ出せた囚人なんて1人だっていたことなかったのにここ最近で3人。絶対に何かがおかしい。
岩田さんは署長に報告した。
「署長、すみません。特別守護部隊である我々がしっかり警備に当たっていればこんなことには……」
「いいや、この責任は俺にある。もっと前に2人が脱獄してから2度目を想定していれば防げた話しだ。本当にすまない。」
「署長が謝らないでください。必ず私達で捕まえます。」
「すまない。任せるよ。」
新宿警察署エージェント部署は今回脱獄した90番にも全国に懸賞金を提示した。これはエージェントだけでなく一般市民の恐怖にも繋がっていた。本部に押しかける一般市民もいた。本部の入口の柵に一般市民が大勢集まっている。
「何してんのよエージェントは!」
「一般市民に被害があったらどうするの!?」
「私達殺されちゃうわよ!」
「ちゃんとしろよ!」
エージェント達は大勢の一般市民を窓から見ていた。
「やばいな、どうするんだよ。」
「一般市民が怖がるのも無理ないしなぁ……」
「誰か一般市民に何か言ってこいよ。」
「なら俺が行く。」
そう言ったのは署長だった。
「署長! なにも署長が行かなくても。」
「いいや、俺の責任だ。俺が言いに行く。」
そして皆に見守られる中、署長は一般市民の方へ向かった。
「あんた誰よ!」
「早く捕まえてちょうだい!」
「私は新宿警察署エージェント部隊の署長です。今回は誠に申し訳ございませんでした。私の不注意のせいで一般市民を恐怖のどん底へ陥れていまいました。」
「本当に怖いのよ! 早く捕まえて!」
すると署長は膝と頭をついた。見ていたエージェントは騒然としていた。
「脱獄犯は必ず捕まえます。必ず捉えてみせます。犠牲者を出さずに、命に変えてでも貴方達を守ります。」
一般市民も流石に署長の土下座には戸惑いを隠せなかった。
「早く捕まえてちょうだいね。」
そういうと一般市民は次々と帰っていった。
そこへ岩田さんが来た。
「署長、そこまでしなくても……」
「いいや、これは仕方ないことだ。」
と岩田さんに告げたまま下を向いてニヤリと笑った。




