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賢者様の仲人事情  作者: 冴條玲
第一章 賢者様とレオン
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1-8. 百の顔を持つ大賢者

 ロズの前には、食器が並べられなかった。


「なあー! ゾンビの分はー?」


 それを見て、ティリスが給仕の者を呼ばわると、レオンにこつんとコショウの瓶を投げつけられた。


「無礼な!」


 カタリーナが烈火のごとく怒るのも、完全に無視。シグルドの誰もが怯える鬼女カタリーナの一喝を、完膚なきまでに無視するレオン。

 その様子を、周りがはらはらするやら感心するやら見守っている。


 ――遠巻きに。


 ティリスはひとしきりコショウにむせて、それから、半泣きになって言った。


「何すんだよ!」

「何だ、人間」

「は……?」


 ひどく怒った声でレオンが言うので、ティリスはきょとんと彼を見た。


「人間? 何だよ、それ。オレはティリスだぞ。名前くらい覚えろよ」


 ティリスのセリフに、レオンはいよいよ腹が立ったらしく、椅子を蹴立てて立ち上がった。


「それはこちらのセリフだ! 偉大にして高貴なる賢者、ロザリー・パシフィック様に対し、ゾンビとは何事だ! おまえだって今、人間呼ばわりされて気に障っただろう!?」

「は……? いや、だって、そいつゾンビじゃん。オレ、おまえに人間呼ばわりされるのイヤだけど、ゾンビに人間呼ばわりされても、そりゃあオレ、ゾンビから見れば人間だよなあと思うけど……。気に障る……のか?」


 ティリスは少し首を傾げてゾンビを見た。虚ろな、死んだ魚のような瞳に表情はうかがえない。


 ――どう見てもゾンビなんだけど、これって、怒ってんのかなあ?


 わからないなりに、そう言うんなら謝ろうかと頭を下げた。


「気に障ったんなら謝るよ。ごめんな。えーと、ロ……」


 そこで、はたと気付く。


「ちょっと待てよ、レオン! おまえ、昼間はローゼンタール何とかって、紹介したじゃないか!! どういうことだよ、オレのこと、馬鹿にしてるなら……!」


 馬鹿になどしていないと、レオンが「何を言っているんだ」顔で言う。


「『ローゼンタール・パゼルワイマー』だ。ロズには百の顔がある」

「……は……?」


 レオンは得々と語った。ゾンビとして第二の生を与えた時、ロズには生前の記憶がほとんど残っておらず、名前も性別も、いつの時代を生きたのかさえわからなかったのだと。


「一体、どんな苦しみかと思う。自分が何者かもわからない――想像がつくか」


 そう言われ、ティリスは素直に想像してみた。


「……そうだな、そうだよな。不安だと思う」


 うむ、とレオンがうなずく。


「そこで僕は、ロズが誰であったのか、探すことにしたんだ」


 ふんふんとうなずき、ティリスはやや、興奮した顔でレオンを見た。


「それで? そうしたら、『ローゼンタール・パゼルワイマー』っていう、百の顔を持つ大賢者だったのか!? かっこいいじゃんか!」


 目を輝かせてそう言うティリスに、レオンはにべもなく言った。


「誰だ、それは。そんな人物はいない」

「ええ~。じゃあ?」

「話している。聞け」


 レオンの言う通りだ。ティリスがおとなしく黙ると、彼は続けた。


「幸い、眠っていた台座に『ろず』と書いてあったから、きっと、ロズと略せる名前なんだと推測できた。僕は歴史の本、民俗学の本、その他色々調べてピックアップした。最初は賢者の名を、後から、もしかしたらロズは一般人のフリをした、頭のいい賢者だったのかもしれないと思い直して、民間人の名まで徹底的に調べ上げた」

「……おい。」

「僕としては、やはり『ローゼンタール・パゼルワイマー』がそれらしいと思うんだが、他が違うという証拠もない。だから、全て採用することにした」

「あほかあああっ!」


 めまいがする。

 ティリスは段々、悲しくなってきた。

 こんなのに勝てないのか、自分。

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