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賢者様の仲人事情  作者: 冴條玲
第四章 王子と姫君
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6-8a. 皇太子の誓約

「消せっ! 火を消すのだっ! このままでは香ばしい匂いを漂わせる、いい具合の焼肉になってしまう!」


 ……ならないだろう。

 イシスの呼んだ青い炎に取り囲まれ、カムラ親征軍は恐慌状態に陥っていた。


「もう、国に帰りなさい。そうするなら、消しましょう」


 イシスが告げた。

 しかし。

 カムラ魔術師団も無力ではなかった。

 総力を上げて消火した。


「むむう、美しき魔女め、やりおる……」


 うなる皇帝に、イシスが硝子玉のように透明な、感情の見えない瞳で告げた。


「帰りなさい」

「無論だ。そなたとアディ姫を連れて、帰らせてもらうつもりでおるぞ」


 アディスが怪我にもめげずに突っ込もうとした、その矢先のことだった。イシスがスっと、指先を動かした。

 小さな、握りこぶし大の青い炎がいくつも生まれ、皇帝の周りを踊り狂った。

 踊りながら『ばーか、ばーか、焼いちゃうぞ~☆』とか何とか、オモチャっぽい声ではやし立てる。


「のわぅおっ!?」


 その時だった。


「皇帝陛下、お取り込み中恐れ入ります。皇子から、急ぎの書状が……」


 本気で取り込み中だった。むしろ、助けろ。


「ええいっ、それどころではないのが見てわからんか!」


 ……遊んでいるだけのようにも、見えなくもない。


「ですが、血の契約印で封緘された書状でして、一刻を争うかも知れません!」


 使者の言葉に、皇帝はぎょっとした。


「何だと!? レオンが、血の契約印を……!? 馬鹿な、寄越せっ! ああ、何だこの邪魔な炎はっ」


 皇帝がしっしっと追い払うと、炎はおとなしく、笑いさざめきながらイシスの元へと戻っていった。

 使者から書状を受け取ると、皇帝はすぐさま解呪を唱え、それを開いた。

 そこには、信じがたい文面が書き綴られていた。


『おじい様へ


 シグルドにおかれましても、ご健勝のことと存じます。

 早速ですが、此の度の見合いの結果をお報せいたします。

 招かれた姫君方の中から、シグルドの姫君を一姫、迎える運びとなりました。

 つきましては、おじい様に一つ、聞いて頂きたいお願いがあります。

 姫が願いますので、どうか、シグルドの姫君方への求婚、シグルドへの侵攻・制裁の類の一切をおやめ下さい。

 お聞き届け頂けない時には、私の皇太子位の返上と、皇位継承権の永久放棄をもちまして、姫への謝罪に代えますことを、ここに誓約いたします。また、同時にカムラからの永久追放をも、この身に課しますことを、誓約いたします。

 身勝手は承知の上で、おじい様にもう一度、お会いできることを願っています。


追伸.アディ姫は男性です。

代筆 カタリーナ・アストライーゼル』


 サインは確かにレオンのものだった。

 皇帝は信じがたげに目を見張り、麗しのマイ・ハニー(いつから)を凝視した。


「お……男……?」


 その様子に、アディスが怪訝そうに皇帝を見て、次にはきらーん☆ と目を輝かせ、優雅に会釈した。


「拝見させて頂けますか?」


 固まっている皇帝の手から、アディスは返事も待たずに書状を取ると、素早く目を通した。そして、満足げに微笑んだ。してやったりの笑み。


「ゼルダ皇帝、妹のティリスを――、無礼も多いかと思いますが、どうぞ、よくしてやって下さい。あの子なりに一生懸命、皇子を想っている様子ですので」


 アディスは実のところ、だいたいの経緯はカタリーナから連絡されている。

 ティリスからも二通ほど、


『聞いてくれよ、兄上。レオンにすごいものもらったんだ。なんだと思う? すごいんだぜ、真っ白な、雪月花(アーク)っていう、すごくかっこいいマントなんだ。帰ったら、兄上に一番に見せてやるからな。楽しみにしててくれよな』


 とか、


『なあ、兄上もおはようのキスとか、おやすみのキスとか、イシス姫にしたいと思う? あ、別にしてるわけじゃないからな。聞きたいだけなんだ』


 とか、墓穴を掘りまくった便りがあったから。もちろん、「したいよ」と答えておいた。

 誓約書もカタリーナの手による以上、まず、ティリスにとって不本意なものではありえない。

 国を発つ時すでに、その気配はあったし。

 そんな馬鹿なと、これが男なものかと、皇帝がうめきながら頭を抱えた時だった。

 イシスがふっと、上空を見た。


「……ゼルダ皇帝に、至急、帰国願う……」

「――イシス?」


 ふり向いて、アディスはすぐに了解した。神託の類だ。

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