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賢者様の仲人事情  作者: 冴條玲
第三章 永遠のまどろみ
39/93

3-12. お姉様の不吉な予感

「は~……」


 ティリスは今日何度目かの溜め息をついて、明るい窓の外を見やった。

 カムラに着いてから、何日目かの午後。


 早くレオン、迎えに来ないかな~。

 今日はどこに連れて行ってくれるんだろう。


 ――レオンてさ、思ってたよりずっといいやつなんだよ。


 ロズの言ったことは本当だった。

 構うな、という以外のことなら、本当に、レオンはティリスの言うことを聞き分けた。文句は多いし、ティリスの方がよほどレオンの言うことを聞かされるにしても、レオンは意外なくらいに素直な面を持っていて、何のことはない。根気良く、ちゃんとわかるように説明すれば、聞き入れてくれるのだった。


 ――そうそう、生き物は嫌いだって言ってたけど、街とか歩いてて、野良猫とかいるじゃん? レオンて絶対に、エサやるんだよ。やらないと死ぬだろうって言って、頑として聞かないんだから。「だから嫌いなんだ」って、文句たらたらエサやっててさー。要するに、好きなんだよな、レオンて。生き物がやたらにさ。


「……ス様、ティリス様、聞いていますか?」

「あ、ごめん……。聞いてなかった、何?」

「何、じゃありません!」


 今度は、カタリーナが息をつく番だ。


「ティリス様、そんなことでは困ります。今は、覚えなければならないことが本当にたくさんあるんですのよ?」


 ティリスは仕方なく、気乗りしない本に目を戻した。


 ――カムラまで来て勉強しないといけないなんて、思わなかったよな~。


 国王ときたら、カタリーナにしっかり家庭教師も頼んでいたのだ。作法から教養まで、カタリーナは確かに完璧だけれど、ティリスはこのままでは、カタリーナと一緒の時間が嫌いになってしまいそうだった。

 カタリーナは嫌いじゃない。教え方も悪くない。


 ――でもオレ、作法とか教養とか、ほんとに興味ないんだよ。


 王子、という肩書きにして良かったと、ティリスは今つくづく思う。なんと、おかげでカムラ流とはいえ、剣術指南を受けることができるのだ。こんな教養よりも、そちらの方が断然面白かった。ティリスは目覚しい上達ぶりで、最初は小柄な子供と侮っていた周囲の目が、ティリスの剣の腕前に、みるみる変わっていくのだから、こんなに痛快なことはない。一日中、剣の稽古をしていたいくらいだった。

 ちなみに、レオンも腐っても皇太子だ。情操教育はともかくとして、まともな教育は受けていた。意外にもレオンは優秀らしく、難しい帝王学をきっちり修めているというのだから、驚いた。


 ――てか、今、カムラって実質的にはレオンが治めてるんだよ。


 老皇帝は本気でレオンに皇位を継がせたいらしく、『気が触れている』という噂の払拭を願うかのように、国政の要となる判断を、レオンに任せることが多いというのだ。


 ――レオン、風格あるわけだよな~。オレなんて剣一本が頼りなのに、レオン、死霊術だけじゃないんだもんな。


「……ス様、ティリス様!」


 ティリスははっと、カタリーナを見た。いけない、ちゃんとしなきゃ。



 そんなティリスの様子を見ながら、カタリーナは何とも言えない不吉な予感を――大切な大切な彼女の姫が、あの馬鹿皇子に心奪われつつあるような、そんな、いやあな予感を覚えるのだった。

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