3-4. 皇子様はお姫様をとなりに座らせたい
ああもう、わかんないったら!
ティリスはむっつりと口元を引き結び、何だと馬車の床を蹴った。
レオンは絶対、皇帝が言ったくらいのことで、彼女を殺したりしないと思うのに。
あれだけ何度も殺されかけて、そう思う彼女がおかしいのだろうか。
いずれにしても、だったら、レオンにどう接しろって――
「ティリス」
レオンがふいに声をかけてきた。
ぽんぽんと、自分の隣の席を示す。
「……何?」
「こっちに座れ」
なにーっ!?
「いいよ、オレこっちで。それより、カタリーナも一緒がいい」
そうなのだ。
てっきり同じ馬車に乗れるものだと思っていたのに、バラバラにされてしまった。
ロズさえいない。(さすがにゾンビと同じ馬車、というのはかんべんだけれど)
「僕がこっちと言うんだ、こっちに座れ」
「やだ」
「何でだ」
「何でって――!」
ティリスはかーっと赤くなり、レオンからあわてて顔を背けた。
悪かったな、どうせ異性だと思って意識してるよ、オレは!
「やだって言ったらやなの! ほっとけよっ」
レオンはムっとしたようだ。
「おまえ、カムラにいる間は僕の従者なんだろう? どうして言うことを聞かないんだ」
「そういう意味じゃないだろ!? 王子として扱え、王子として! つーか、従者として適切な命令だったら聞くけど、隣に座れなんて変だろ!」
どこが? と、レオンが怪訝そうな顔でティリスを見る。
ティリスはめまいを覚えた。
――ロズ、これ、オレにどう教育し直せって言うんだよ~っ!
教育し直す必要はおおいに感じるが、こんなのとても、彼女には教育し直せない。
「座れ」
レオンの声に、ついに怒気がはらまれた。
次、死霊術、来る――
ティリスは冷や汗をかいて、聖笛をぎゅっと握り締めた。
どうしよう。
聖笛はあるけど、こんなところで切り札、使っていいのだろうか。
状況が状況だけに、下手をしたら取り上げられる恐れがある。
「……わ……かったよ。……変なことするなよ……?」
ティリスは仕方なしに立ち上がり、レオンの隣に移動すると、口をへの字に曲げてそっぽを向いた。
「ティリス」
「……なに」
ティリスは心底不機嫌に、レオンを見もせずに返事した。
それをいきなり抱き寄せられて、心臓が止まるかと思った。
「な、何す……!」
レオンは悪びれもせず、彼の肩に寄りかかって休むようにと、指示した。
何だそれーっ!?
「やだ! ぜってーやだ! 死んでもやだ!」
「何でだ」
てか、このパターンやめろよ!
――カタリーナっ!
「い、言う通りにしたら……じゃあ、オレの言うことも聞くか……?」
わらにもすがる思いで、ティリスはいつかロズが言った、『レオンはあなたの言うことなら聞くよ』という言葉を試していた。
すっごく、やだとか言いそうだよ~。
「何だ?」
「オレ、カタリーナと一緒がいいんだ」
レオンはいやそうに顔をしかめた。
ほら。
ティリスが肩を落としてうなだれた時だ。
沈黙していたレオンが、しまいに了解した。
「わかった」
ティリスはびっくりして、レオンの正気を疑うように彼を見直した。
「ほ、ほんとに……?」
「? おまえ、そうしたいんだろう?」
ティリスは小さくうなずくと、逆に、後に引けなくなったことに気付いた。







