1-10. 皇子様とお姫様 【前編】
「……無用心なんだな、この城は。王子一人に歩かせて……」
おそらく、カタリーナに意識があったらついてきたはずだった。
しかし、性格によらず見た目通りに繊細なカタリーナは、かなり前の段階で気分が悪くなって医務室に運ばれていた。
(もちろん、ゾンビの異臭と風体に気分が悪くなったのだ)
「何で?」
「暗殺されるぞ」
「えー?」
誰がー? と、ティリスが笑う。
「オレ、暗殺してどーすんの? 父上が泣くだけじゃん。あの、人のいい父上を泣かそうなんて、そんな奴はこのオレが成敗してやるからさ」
普段は鬼よりこわいカタリーナが一緒なので、余計に襲撃者はいない。
「一国の王子のセリフじゃないだろう。王族は、それだけで狙われるものだ」
「えー?」
残念ながら、シグルドは極めて平和な国だ。暗殺沙汰なんて王も王子も経験していないのだから、ティリスなど余計に他人事状態だった。
「カムラの皇子は狙われるのか?」
レオンの表情が、ふっと曇った。
「……ああ。5年前、暗殺された。近衛に刺客が紛れ込んで……」
「――だめじゃん」
言下に言い放つティリス。
レオンはすっかりむくれ、不機嫌そうに黙り込んでしまった。
「あ……なあ、そんな顔するなよ。悪かったよ。でもさ、良かったじゃん? おまえは皇子じゃないわけだし」
「え? まあ……そうだが……」
夜闇の中に、ティリスの白金の髪が映える。
「あのさ、レオン。おまえ、少しくらい休みとれるんだろ? 迎えに行かせるから、また遊びに来いよ」
「……は?」
「次は負けないぜ!」
無邪気なティリスの笑顔に、引き込まれたようにレオンが黙る。
「……遊びにきたわけじゃ……ない……」
「かたい事言うなよ。いいじゃん? オレのことも……殺すなんて、言うなよ。悪かったなら謝るからさ。オレ、けっこう、おまえといると楽しいんだ」
「……」
レオンはふいとそっぽを向くと、怒ったような口調で言った。
「……僕は、おまえなんか嫌いだ」
「? ふうん? まあ、そんなにおまえがいやなら仕方ないけど……」
「生きてるやつは嫌いだ」
吐き捨てるように言う。
「はあ!?」
「生きてるやつは……」
「ちょっと、何だよ、それ! いくら死霊術師だからって、そんなのおかしいだろ! おまえ……」
ふり向いたティリスは、驚いて悲鳴を上げた。
庭へと下りる2、3段の階段で、レオンがいきなり足を踏み外したのだ。
「きゃあっ!」
どさどさっと庭に落ち、ティリスは打った頭を押さえながら抗議した。
「っつ――いてーよ! ちゃんと前見て歩けよ! ったく……」
起き上がろうとして、すぐ目の前にレオンの顔があるのに気付き、ティリスはあわてて身を引いた。
「どっ……早くどけよ! おまえ、オレのこと下敷きにしてるんだから!」
レオンも驚いたらしく、頭をふったりしていたが、ふいにティリスを見た。
「下敷き……」
「な、何だよ……早くどけって……」
虚勢を張ってみても、声が震えるのは隠せなかった。
ドッ、ドッと、心臓がひどくうるさく打っている。
ティリスは正直、レオンが怖かった。
レオンがと言うより、異性に押し倒された形でいることが、だが。
「早く……」
早くどけ、と言いかけたティリスの視線の先で、レオンが信じがたい行動に出た。
「おま……何やっ――やめろよっ!!」







