1-9. ゾンビと一緒でも
「あの、ティリス様……?」
うちひしがれた様子のティリスに、呼ばれた給仕の者が遠慮がちに声をかけた。
「ああ……なあ、ゾンビ――じゃない、ロズの分は?」
問われ、やや面食らった顔で給仕が答える。
「死者様ということで、ご用意しなかったのですが……そそ、そちらの方も、お食事をお召し上がりに……?」
そう言えば、食事をするゾンビって、聞かない。
「わかんないけど、悪いじゃんか。出すだけ出せよ」
しかし、給仕はひどくしぶった。
基本的にパーティ形式なので、大皿の料理を好きに取って食べる仕組みだ。皿と、小物だけ出せば良い。
しかし、ゾンビと同じ食卓に着きたい者はいないからと、困り果てた顔で給仕が言う。
「……」
確かに、いまだ半径約十メートル、誰も寄って来ない。
パーティでティリスのそばに人がいないなんて、異例中の異例だ。
「……無礼な……!」
テーブルを挟んだ向かい側から、聞いていたレオンが静かな怒りに瞳を吊り上げ、給仕を睨みつけた。
危険だ。
――こいつ!
昼間、ティリスを殺そうとした時と同じ目をしていた。
左目が邪悪な赤に変じていく。
「やめろ、レオン!」
一声かけると、ふっと、レオンの邪気が立ち消えた。
「……なってない。これが客に対する礼儀か」
不機嫌で怒ったような口調ながら、とりあえず、もう危険な感じはしない。
むしろ、ティリスにはレオンが傷ついたように見えた。
不思議だなと思う。それでもゾンビを連れ回すのか。
「レオン、悪いけど。オレ、やっぱりあんたが悪いと思うぜ。オレも正直……マジで食欲わかないしな。あんたが客だから、みんな我慢してるんだ。こんな風にわがまま通して、どうなるんだよ。仕方ないじゃんか。ロズも……いたたまれないだろ?」
ロズは何も言わなかった。
「なあ、レオン。ここ、ロズ連れて出ようぜ? オレの東屋、使っていいからさ。つまんないじゃんか、意地張ってても。オレも付き合うからさ」
「………………ロズは……」
眉をひそめ、ふいとレオンが目を逸らす。
なぜか、泣きそうな顔に見えた。
「ロズは、どうしたい……?」
レオンの問いに、ロズは出ようとうなずいた。







