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作り愛スピリット  作者: まい
拠点を確保する
13/13

拠点を(正式に)確保

 オババ様は、精霊と接触する決意をした!

1年目 4月30日 収穫日



 この日も朝イチで、柴犬にしか見えないINU(ヘレシュ)からの狩猟報告から始まった。


「今日は牛の魔獣か。 どうやって引っ張って来てるのか知らないけど、ありがとうな」


〈ワンッ!〉


 女児型のクリエイト精霊であるシオン・クロプダは、お礼を述べながら【職人の(ふところ)】に牛の魔獣をしまい込む。


 そしてその牛から作れるものを頭に浮かべると、自然とニヤけてしまう。 特徴的なタクアン眉毛も、ついついピコピコ動きます。


 だって牛だもの。 牛の皮は現実でもバイク乗りのジャケットだなんだとして、丈夫さを求めて使用される素材である。

 肉だって肉牛として育てられていないにしても、十分な味を望めるだろうし。



「ヘレシュ、今日の昼メシは豪勢(ごうせい)に、牛ステーキにでもしようか」


〈ガウッ! ガウッ!〉


 シオンとヘレシュは既にヨダレがダラダラ。


 なにせ【料理】技能がカンストした結果、彼女の料理はただ焼いて塩を振るだけでも絶品なのだ。


 しかも付与で味の良さを引き上げる荒業も可能。 こんなの不味くなる要素はひとつもない!


 そして豪勢と言った以上、そんなチャチな料理にならん事は確定したからだ!!


 ちなみにINUは生でも問題なく食べられるはずなのだが、シオンの料理を食べてしまって以降、果物以外でナマモノなどほとんど食べなくなった。


 ヤツ(ヘレシュ)の舌は悲しいことに、肥え太ってしまったのだ。


《なに……!? 昼間に贅沢するなんて、こうしちゃおれんわい!》


「ん?」


〈ワフ?〉


 お昼にどんな美味しい物が食べられるか、妄想の海へ沈んでいた間になにやら声が聞こえた気もするが、このひとりと一匹の頭には料理しか無かった。


「よし! まずは朝メシ食って、昼の為に準備を始めるか!」


〈ギャン! ギャン!〉


 まるで扇風機の羽根みたいに尻尾を振り乱す哀れなヘレシュ。 この可愛い存在は、食べ物に(まど)わされ、狂わされた。


 舌が既に牛ステーキを求めていて、テンションがメーターを振り切っているのだ。 これを見る限り、2度と野生ではいられないだろう。



~~~~~~



 なんかテンション激下がりして、少し老けた印象を見せるヘレシュは放っておくとして、朝ご飯の後に添え物の野菜を準備。


「まずは玉ねぎ! ……なんだけど、すげーよな。 現代の品種改良された玉ねぎと、味も形もそっくりなのが、森に生えてたって」


〈…………〉



名称:魔力玉ねぎ(高品質)

耐久:10/10

付与:なし

解説:魔力を含んだ水と土で育てられた、特別な玉ねぎ。 生でも火を通しても、大変に美味。 成分が変化したのか、汁は絶対に()みない。 みじん切り作業の心強い味方。



 野生種を収穫し、自前の畑によるファンタジー製法で育てられた、夢のような野菜である。


 もちろん、次代の作物となってくれるよう、畑で増やす準備も整っている。


「それとニンジン、モロコシ……は無い、代わりのアスパラ、ジャガイモ。 ジャガイモも、なぜ森にあったんだろうな?」


 あ、収穫した野菜は大体似たような鑑定結果なので、省略です。



〈…………〉


 大航海時代、アメリカ大陸へ行ってようやく見つけた食材と言われていたが、なぜか有る。


 そして吠える気力が無さそうで、尻尾も力無く垂らしてるヘレシュは見ないふり。 たまにはこんな姿も可愛い。


 ステーキはお昼だと言ったのに、勝手に誤解して勝手に絶望した子なんて知りません。



 あと、ゲームでモロコシやトマトも種が夏に入手できたので、絶対に有る。

 中世ヨーロッパには無かったんじゃ~!などと思うなかれ、有るのならそれで良いじゃない。 ここはファンタジー世界ぞ?



「魔獣の牛の肉質は硬いかも知れないし、玉ねぎ刻んでシャリアピンにしておくかな?」


〈………ヮフ〉


 玉ねぎで長く漬けなきゃダメとかで、お昼までではしっかり漬からない? ははは、料理もゲームシステムでやるんですよ?


 漬ける時間が短く済む現象に、今さら違和感なんて感じている場合じゃありません。


「他は……オニオンスープか玉子スープ。 適当なドレッシングをかけたサラダ。 炭水化物でマッシュポテトかな?」


〈……クゥン〉


 収穫作業をしながら、お昼の献立(こんだて)を決めていくシオンの様子は、小さなお母さんにも見えた。



~~~~~~



〈ガウン! ガウン!〉


「分かったから! 分かってるけど食べるのはまだ先だから、落ち着いて待ってなさい!!」


〈ワオーーーーーーン!!!〉


「うるさーーーいっ!!」


 収穫物で料理に使わないのは倉庫へしまい、現在はキッチン。


 焦げ付かないよう、時々フライパンで炒めている玉ねぎをゆすりながら、パパッと下拵(したごしら)え中。


 先程まで牛肉を切り分けて、みじん切りにした玉ねぎへ漬けこむ作業をしていたので、もうすぐ食えると勘違いし足元で我慢できないヘレシュが暴れている。



 良く見ると、床はヘレシュのヨダレを自らが踏んで伸ばしてグチョグチョに汚れていた。 ……もっと良く見たら、シオンの足下にも水分が点々と落ちている。 ううむ、似た者同士。



 それからついでとばかりに根野菜と鶏肉とか鍋へ突っ込んで、ブイヨンかコンソメを今作っとこうかな~とかって、結構無茶な平行作業をこなしている恐ろしい精霊。



 ……まあ【料理】技能がカンストだから、無茶でも普通に上手くいくんですけどねぇ。


 しかも後々おかわりしたり楽したりできるよう、かなり多くまとめて作ってるチャッカリぶり。 床へ垂れたヨダレは伊達じゃない。



 INUと激しい攻防戦を繰り広げていると、不意に玄関からドンドンドンドンと、取り付けたライオン型ドアノッカーがうるさく鳴り出した。


 これに気付いたひとりと一匹は、ほぼ同時に深く渋面を作る。


 片方は調理の中断を嫌がって。

 もう片方は食事を始める時間が遅くなる悲劇を(なげ)いて。



 だがそこはまあ、元現代人。 この家で初めてのお客様が来たなら、警戒心を持ちつつも対応せねばならぬと、動き出す。


 キッチンの調理中の物や器具一切合切(いっさいがっさい)を【職人の(ふところ)】へ入れ、ヘレシュの悲鳴をBGMにして精霊と言う身を利用し、屋根まで浮いてすり抜け死角から客を確認。


 それから怖そうでは……いやいや、ゲームで見ていた知っていたキャラだと安心してから、対応を決意。


 なぜ決意が必要か? この世界で初めて遭遇した人物が泥棒(本人の認識では)だったからですよ。 んで1ヶ月近く、人間とまともな会話もしてない。 決意、必要でしょ?



 それで家の中まで戻ってきて「は……はーいっ!」と少し調子っ(ぱず)れた返事をしてやれば、


「失礼するよ!」


 とフードつきマントを羽織って何かを抱えた、(しわが)れた声の耳長お(ばあ)さんが玄関からご登場。


〈ワンッ! ワンッ!〉


 ヘレシュにとっては確実に敵。 感情を隠さず、吠えて威嚇しているが、それをなだめようとシオンが優しく頭部を撫でる。 でも効果無し。


 こんな状況でお婆さんの眉根が寄るけど、そこは年の功。 役目を果たさんと気合いを入れ直す。


「アタシはこのクリエイ村の顔役、薬屋をやってるババアさね。 村の空き家に異変が起きたって聞いたから、見に来たんだよ」


 まず立場を明らかにして、お前らは不法占拠者だと告げ、上下をはっきりさせるお婆さん。

 これで普通なら話しの主導権をとれる。


 だがこの村民がどんな人達か、そして客が誰かを確認して、ゲームで大体知っているシオンには通じなかった。


「お疲れ様です子猫(キティ)……じゃない、ケイトお婆ちゃん……でもない。 オババ様」


 初めての来客に少し言葉が固くなるが……だからこそか? ついお婆ちゃんのトップシークレットを口走る。

 名前を名乗られていないのに、相手の名前を言ってしまう大ポカ返答。


 ゲームでは周回ごとにランダムで人物の名前が変わるのだが、このお婆ちゃんだけは何度周回しても名前が固定されていたのだ。


 何度お婆ちゃんの村民イベントをクリアしてもだ。


 そんな特殊存在、精霊(やり込みゲーマー)が覚えていない訳は無い。


 言い返されたお婆ちゃんは「な、ななな……!」等と、なしか言えない何かとなって、ついでに顔を真っ赤にしている。


 しかもこの時点で、シオンがなぜお婆ちゃんの名前を知っていたか言及するべき案件すら、お空の彼方だ。


〈グルルルルル!!〉


 そしてこんなふたりの近くで、メシはまだか!と全身で主張し、尻尾を追ってグルグル回る犬みたいな動きをし始めるヘレシュ。



「ところで、用件はなんでしょう?」


 精霊がすこしおかしくなっているお婆ちゃんを心配して上目遣いに声をかけたら、すぐハッとして正気に戻ったお婆ちゃん。


 ついでに自分がまだフードをかぶっていたと気付き、取り払う。


 なにか言いたい感じにシオンをひと睨みしようとして、幼い外見なのを思い出し色々葛藤(かっとう)しながらも、それらをしわぶきひとつで吹き飛ばしてから声に出す。


「見に来たは良いけど、居着いたのが精霊だったなんてね。 村に居るなんて光栄だから、明日の休耕日辺りに村を案内したいんだよ」


 この世界で精霊はかなり偉い地位だ。 でもこのお婆ちゃんは、そのお偉いさんへ雑な言葉遣いである。


 それは年の功から来る勘である。 事実シオンはそっちの方が有難(ありがた)いので、正解である。 恐るべし、年の功。


 今日初めて来た風を装っているけど、本当はしばらくストーk……覗k……監視していたなんて、おくびにも出さないでいられるのも年の功。



 もちろんそんなのに気付いていない精霊は、とても嬉しがる。


 なぜならゲーム時代の弟子入り(チュートリアル)開始をすっ飛ば(スキップ)して、村の一員として認められたのだから。


「そうなんだ、それは嬉しい! そうだ、今昼メシの用意をしてるんだよ、まだ少し時間がいるけど食べていってよオババ様!」


 シオンにとって嬉しい出来事で、一気に緊張が吹っ飛び素の口調へ急変した。


 そしてお婆ちゃんはこの申し出に、こっそりと小さくガッツポーズ。 長いこと監視していて、美味しそうな香りばかり嗅がされて、もう辛抱が堪らなくなっていた。


 それで牛肉を食おうってんだから、そりゃあもう限界を越えますわ。


 証拠として家の外……玄関前の地面に、消えかかっているが夏でも無いのに汗っぽい水の(あと)が、チョンチョンと。



「そうかい、ならご相伴に預かろうかね。 それじゃあこっちから歓迎の証に、何か有ったらと持ってきた、薬に使える乾燥果実をやるよ」


 はいダウト。 お婆ちゃんは精霊に果樹園で増やしてほしくて、種入りのそれを持ってきたのです。 まったく、厚顔無恥なババアだぜ……!!


 お婆ちゃんから抱えていたブツを渡されると、確認したシオンが顔を輝かせる。


 そのキラキラした顔を見せられた側はと言うと、一瞬孫馬鹿お婆ちゃん気分になりかけているのに自身で気付き、恥ずかしい気持ちを根性でねじ伏せ平常心を装った。


「これ……普通の薬でも魔法薬でも、秘薬をつくる材料になる特別な果物じゃないか!!」


 ゲームならこのキティ……ゲフンゲフン。 お婆ちゃんと仲良くなるイベントの果てに貰えるブツなのだ。


 その際は友情の証チックに貰えたのだが、現実のお婆ちゃんは欲得尽(よくとくず)くである。


 わざわざイベントを起こさず手に入れられて楽で良かったと見るか、情緒がないと嘆くか。



「喜んでくれて何よりだよ。 敷地で増やせそうなら、植えてやればいいさ」


 お婆ちゃんの本音がポロリ。 言外だけど、増やせたら必要なとき譲ってくれと、聞こえてきます。


「ありがとう! 立ち話もなんだから、メシまで家の中で待っててくれ!」


「そうかい、なら邪魔するよ」


 しれっとした顔で、家主から招かれそのまま中へ進む。


〈ギャン! ギャン! ギャン! ギャン!〉


「はいはい、急いで用意するから!」




 この日、シオンは村へ正式に受け入れられた。


 今後もゲームみたいに、大きなイベントもなく生産ばかりの日々を送るのかもしれない。


 それか村が属する国、周辺の国から注目される、話題や問題の中心となるかもしれない。


 それが語られるかは、分からない。


 それでも。 それでも今言えるのは――――




「なんだい! この外で嗅いでいた時より、暴力的な香りは!!」


〈ワンッ! ワンッ!〉


「美味しそうだろ? でも調味料が増えれば、もっと上手くなるぞ?」


〈ギャワン! ギャワワン!〉


「ほほーっ!! なら行商人(あやつ)に調味料となりそうな物を、たんまり持って来るよう、注文しないとねぇ! 必要な物を後で教えな!」


〈ギャフン! ギャフン!!〉


「ところでその背中の。 そりゃ一体なんだい?」


〈ワンワンワンワンワンワン!!!〉


「ファスナー、知らない? まあ飾りだよ、飾り」


〈ワ゛オ゛ーーーーーーン!!!〉


『うるせーーーっ!!!』



 ――――より良い未来が待っていてくれますように。



~~~~~~



 精霊を見られない種族でも見えるよう、姿を可視化させて挨拶で回った村民からは手放しで喜ばれ、交流も始まった。




 夏は農作物も元気になる季節。


 夏の早い内に各種技能がめでたくカンストし、技能上げのノルマ達成で時間に余裕が出てきたり。


 忙しく畑の手入れをしたり、暑さでやられそうになる家畜達の世話したり。

 合間に村の少ない子供達と夏らしい遊びをして、やりすぎて向こうの親達からしかられたり、呆れられたり。


 夏に合わせて薄着で村へ出れば、大人達が慌てて駆け寄り「女の子がそんな、はしたない格好するんじゃない!」と怒鳴ってきたり。

 夏祭りを名乗り、ただのバーベキュー大会を開いたら結局、グダグタな飲み会になって、村の子達が白い目を親達へ向けていたり。



 気付いたら居着いていた、鼻の下にチョビヒゲが付いたシャム猫にしか見えないNEKOへ、ジチョーと名付けて放し飼いを始めたり。




 平和に過ぎた夏は過去。


 季節の変わり目、準備日も終わって、早くも9月1日。


 季節が変わったからと、気合いを入れて秋ファッションで始めたその日。


 朝食の支度をしていたら、ドアノッカーの鳴る音。


「はいはーい!」


〈ワンッ!〉


 村にすっかり馴染み、来客への警戒心はすっかり無くなった。 可視化を無意識でしっぱなしだ。



「えっと……どちら様?」


 開けた玄関の扉の先から現れたのは、旅装をした見知らぬ女性のエルフ。


 シオンの姿をさっと見回して認めると、ばっ!っと頭を下げる。


「精霊様! 弟子にして下さいっ!」


「は?」


〈ハッハッハッハッ……〉


 舌を出して息が荒くなっているヘレシュは放っておくとして、次の物語()はこうして始まった。

 これでこの章は区切り。


 夏の話? 多分書かね。



シオンのステータスはこの話まで。

(前話から秋になった時点での変動表示)


シオン・クロプダ

クリエイト精霊・女性型


装備 :白縦セタ

    秋色ロングスカート

    黒スパッツ(レギンス)

    (下着・肌着類は省略)

装飾品:ファスナー

    デカリボン(赤)

    黒エプロン(作業用と料理用で別)


ステータス


【職人の体つき】:221→300(主要因 秋までの時間経過)

【職人の魂】  :218→300(カンスト)

【職人の知識】 :147→300(カンスト)

【職人の眼】  :164→300(カンスト)

【職人の腕】  :222→300(カンスト)

【職人の指先】 :196→300(カンスト)

【職人の(ふところ)】 :520→999(カンスト)


 ステータスの具体的な意味は上から順に、

 スタミナ・MP・知性・鑑定力・腕力・器用さ・収納可能アイテム枠数

 初期値はオール10(懐だけ100)だが、種族ボーナスで全てにプラス10。


 現在のカンストは300(懐は999)



技能


【農業】   :100(カンスト)

【布・皮革】 :81→100(カンストしたの)

【酪農】   :34→100(ヘレシュやジチョーが可愛すぎる)

【鍛治】   :89→100(すぐカンスト)

【調合・調薬】:30→100(頑張ってカンストした)

【料理】   :100(カンスト)

【木工】   :82→100(気づいたらカンストしてた)

【錬金術】  :93→100(カンスト楽勝っすよ)

【装飾加工】 :71→100(カンストする位にはやったよ)


 技能のカンストは現在100

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ALLカンストですか、限界突破するのかな? [一言] 新しい登場人物が増えるみたいですね。楽しみです。
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